聖闘士星矢 | ナノ

Origin.



此処は黄金聖闘士が守護する12宮。
その頂きに、頂点たる者として存在するアテナ――城戸沙織。
彼女の自室に今夜も影が忍び寄る。


「よっ、こらせ……っと!」


神聖なるアテナの自室に、恐れ多くも忍び込む1人の女性。
端正な顔立ちながらも、今の表情は実に幼げであった。
今夜も成功、とでもいうようにあくどい笑みを浮かべている。


「まぁ、またいらしたのですか? ナマエ。」
「沙織! へへ、なんだかんだいって黄金聖闘士も大したことないね。」


するりと部屋の中に降り立ち、ズボンについた埃をその場で拾うというあまりにも恐れ多い自殺行為をするこの女性――ナマエ。
本来ならば即刻罰せられるような言動だが、沙織はそんな彼女を迎え入れた。
浮かんでいる表情は、どこか嬉しげだ。


「きっと今頃大慌てで彼が来ますわよ。」
「そん時はそん時! 私の侵入を防ごうなんて100年早いっつーのってね!」


軽やかにウインクをして見せ、ナマエは結っていた髪を降ろす。
さらりと、あちこちに跳ねているくせ毛が舞った。


「今日はどんな話をしてくれるのでしょうか?」
「そうだなぁ……あ! この前、悪がきがまーた食料盗もうとしたのよ。そのお話をしてあげようか!」
「まぁ。当然、貴女のことですから、縛り上げ説教をした後、盗もうとしていた食料を直々に手渡してあげたのでしょう?」
「! なーんだ、それじゃあ私が話す意味ないじゃない。」


沙織の言葉にナマエは一瞬目を丸めるも、どこか嬉しそうにそう返した。
と、扉が静かにノックされた。


「――アテナ様。」


そして、男性の声がドア越しに聞こえた。
それを聞き、ナマエと沙織が目を合わせて微笑む。


「サガですね。入りなさい。」
「は。失礼いたします。」


そうして扉を開けてきたのはサガ。
彼は入るとまず沙織に軽く頭を下げた。
が、すぐにその頭(こうべ)をあげてナマエを呆れたような目で見やる。


「ナマエ……、いったい何度言えば分かるのか。
此処は神聖なるアテナ様の自室。12宮に侵入した上にこのような場所にまで忍び込むとは。」
「でも捕まえられなかった君たちが悪い。」
「ぐっ……。」
「ふふっ、また私の勝ちね。」
「私は何も対決しているわけでは!」
「固いこといわないのっ!」


まったく悪びれた表情を見せないナマエに、サガの口から重い溜め息が漏れた。
そんな悩ましい表情をしているサガを見て、沙織は微笑む。


「いいではありませんか、サガ。
こうしてナマエが来てくれる度に、私は村の内情を知ることができます。
偶にしか赴くことができないのですから、とても良いことだと思いませんか?」
「ですがアテナ……。」
「そうそ。沙織だってこういっているんだし、いいじゃない。」
「せめてアテナ様と呼ばないか……。」
「んもう、固いなぁ。」


暫くサガとナマエとで言い合うも、結局サガの手によって沙織の自室からつまみ出された。
そして、ナマエを村まで送ると12宮を共に下る。
宮を通るたびに黄金聖闘士が苦笑していたが、ひょっこりと蟹は現れた。


「よォ、また会いに行ったんだって?」
「デスマスクじゃん。そうそ、んでもってサガ様につまみ出されましたー!」
「そう言ってくれるな、ナマエ。だいたいもう夜も遅い。アテナも就寝する時間だ。」


ねちりとした視線で見られサガが困ったように息を吐く。
デスマスクは相変わらずだな、とナマエの肩に手を回して笑った。
ナマエはもう慣れたのか、嫌がる様子も離れる様子は見せない。
あまりにも自然に受け入れているナマエに、サガは何ともいえない表情が浮かべた。


「どうだナマエ。今晩うちに泊まってくか?」
「デスマスクっ!」
「えー、でも明日も仕事あるからパスー。
それにデスマスクは見境なく女に手を出すもの。私そういうの嫌いだからなお却下。」
「はは、厳しいのも相変わらずかよ。」


毎度の如くナマエに断られるデスマスクは、肩をすくめた。


「……ナマエ、そろそろ行くぞ。」
「はいはいっと。じゃね、デスマスク。」
「おー。サガに襲われないように気をつけろよ。」
「デスマスクっ!!」


案の定、サガの声が飛んだ。
そしてまた、2人の足音は次第にアテナの自室から遠ざかっていく。


「あ、ここら辺でいいよ。ありがとう。」


聖域を抜け、既に村の近くまで到達した頃合い。
後はこの坂を下るだけだからとナマエは別れを切り出した。


「ナマエ。」
「んー?」
「どうして夜な夜なアテナのもとへ行く?」


サガが別れ際に疑問をぶつける。


「……どうしてだと思う?」
「アテナに村事情を伝えるためか。」
「まぁもちろんそれもあるけどさ。
なんていうか、……最近はもっと、こう、別のことが目的かなぁ?」
「別のこと?」


珍しく遠まわしに返してきたナマエに、サガは怪訝そうな表情を浮かべて小首を傾げた。
まったく分からないと言ったその様子に、ナマエが眉を下げながら頷く。


「そ。……ね、本当に分からない?」
「あぁ。」
「んー、本当にサガはニブチンだなぁ。」
「それは、……私に関係することなのだろうか。」
「そーうでっすよー!」


リズムよくナマエが頷く。
そしてサガの顔に自らのをグイッと近寄せた。
咄嗟に身を後ろに引こうとしたサガの服を掴み、逃げないように。


「ナマエっ……?」
「サガに会いに来てる。」
「……え。」
「って言ったら、どうする?」
「……ナマエ。それは……。」


ナマエのくりっとした瞳が怪しげにサガを見つめる。
サガもまた、ナマエを見つめ返した。


「ナマエ。それは――、」
「なーんってね!」
「……は?」


サガがその真意を問おうとしたとき、ナマエがくすりと笑って離れて行った。


「ははっ、今のサガの顔、凄い変だった!
けど、あれだね! やっぱり元がいいと変な顔しても綺麗だよ、サガ!」
「いや、あのだな……。」
「それじゃ、まったねー!」


ひらり、と手を振ってナマエが坂を下る。
その後ろ姿をサガがぽかんとした表情で見つめる。


「…………っ。」


だが、近づいた時の端正なナマエの顔立ちを思い出して、自身の火照る顔を手で覆った。

次は逃さない。
そう胸に誓って。



(あ、サガはろー!)
(はろーじゃない。また忍び込んで!)
(へへ、でももうお話は終わったから今から帰りまーす!)
(あ、待てナマエ!)
(じゃねーん♪)
(ふふ、サガも自覚しましたか。これからが楽しみですわ。)



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サガだよね? サガになってるよね? あれ?

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