聖闘士星矢 | ナノ

Origin.



――ボフッ……

11月9日 深夜2時。

重々しい体を引き摺って居住地のベッドに倒れ込んだ。
スプリングの軋む音とともに、毛布に顔を埋める。
布の肌触り、匂いが自らが帰ってきたことを証す。


「あー……。」


だが、帰れなかったのだ。
2、3日前に告げられたのはちょっとした遠征。
アテナの申し訳無さげな表情に大丈夫だと言った自分。
そう、自分はアテナの聖闘士。たかが私情を持ち込むなど言語道断なのだ。
例えそれが、生誕日であったとしても。


「……くそっ、」


なのに、無性に物寂しいのは何故なのか。


「……ナマエ。」


寝返りを打って天井を見上げる。呟いた言葉は空へ消え、虚しさだけが残った。
元々、彼女に自らの誕生日を告げてはいなかった。告げたのは数日留守にすることだけだ。

祝ってほしかった。自分が居ない間に、彼女ここを訪れた形跡がほしかった。
ただ、その姿を見たかった。
そんな勝手な欲望を抱き、為されていないことにただ勝手に消沈しているだけ。


「ナマエ。」


いつの間にこんなにも想っていたのか。


「ナマエ。」


……伝えられればいい。


「…ナマエ、」


――愛していると。


「ナマエ。」
「あのー……。」
「ナマエ……。」


幻聴さえも、彼女の声が聞こえたことに胸が締め付けられる。


「ナマエ……。」
「さすがに連呼は恥ずかしいんですけど、ミロ様。」
「……?」


あまりにもリアルな幻聴に思わずむくり、と体を起こした。
そして部屋の入り口をみれば、花束を持ったナマエの姿が確かにある。


「はは、ついに幻覚まで見えるようになるとは。」
「ミロ様ー? 何言ってるんですかー?」


首を傾げる幻覚のナマエ。
彼女は怪訝そうな表情を浮かべるも、すぐにばあっと笑顔を浮かべた。
そして、自らの胸に飛びついてきたではないか。


「うわっ……!」
「へへ、お帰りなさい! ミロ様っ!」


顔を上げてお帰りというナマエ。思わずその頬に触れる。
触れた手からは彼女の温かなぬくもりが伝わってきた。
幻覚にしては、あまりにもリアルすぎる。


「ナマエ? 本当にナマエなのか? いや、なんでこんな時間に。」
「本物ですよ! 偽物の私にでも会ったんですか? なんでって……あ、はいこれ!」
「?」
「1日遅れちゃいましたけど――お誕生日おめでとうございます!」


手に持っていた花束を、彼女は差し出してきた。
ポカンと開いた口が塞がらない。


「もう、どうして誕生日のこと黙っていたんですか?
ダメじゃないですか! 年に一度のとってもとっても大切な日なのに!」


少しだけ眉を寄せながらナマエが言う。


「夕食とか飾りとかたくさん豪華に作って、パーティーをして祝ってあげたかったのに!」


どこか信じられなくて。
でも、彼女がここにいるのは事実。


「聞いているんですか? ミロ様! ねぇ、ミロ様って――きゃ!?」


ただそれだけが嬉しくて。
強く彼女を抱きしめた。


「ありがと、な……。」
「! はいっ!」




Happy birthday!

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