聖闘士星矢 | ナノ

Origin.



太陽が落ち、辺りが暗くなった時刻に1人教皇宮からの階段を下る女官がいた。ナマエだ。
彼女は教皇宮にある大きな書庫の唯一の司書を務めている。
仕事は定時までに済ませ、尚且つ教皇の仕事をも手伝う努力家だと一部聖闘士の中では名が知れている女性だ。
そんな彼女がこんな時間に教皇宮を出てくるのは非常に珍しいことであった。

教皇宮の下にある双魚宮を守護するアフロディーテは、ナマエの姿を見て目を丸めて固まった。
あのナマエが、今階段を下っているのだ。
しかもその足取りはとても重たい。その表情にも影がかかっている。


「はぁ……。」
「やぁナマエ。ずいぶんと暗い表情をしているね。」
「あぁ、アフロディーテ……ちょっと、ね。」
「今晩、デスマスクのところに夕飯をいただきに行くんだけれど、一緒にどうだい?」


アフロディーテはバラの花をナマエに捧げながらにこりと微笑んだ。
いつもなら喜んで、と笑顔で花を受け取るナマエも今回ばかりは首を振る。
アフロディーテはあまりにも普段と様子が異なりすぎて、驚きを隠せずにいた。


「ごめんね。どうしても探したい書物があって。」
「書物? あの書庫にはないのかい?」
「それが、なかなか見つからなくって。
ある程度のものはどこに何があるか把握しているつもりだったんだけど……。」


ナマエが唯一の司書である所以は、あの膨大な量の書籍をある程度把握していることにある。
だからこそ彼女はその役職を任され、また彼女自身それを誇りとしていたのだ。


「それはどうしても必要なのかい?」
「うん。教皇様に提出しないといけない資料に必要なデータなのよ。
まいったなぁ……。あと、3日しかないのに……。」


本当にまいった、と眉を下げため息を吐いたナマエに、アフロディーテもまた眉を下げた。
手助けになってあげたいと思うものの、あの書庫から一つの書物を探すのはとてもじゃないが骨が折れる。
どうしたものかと考えると、ふとアフロディーテは何かを思いついたかのように綺麗に微笑んだ。


「そうだ。カミュのところに行ってみてはどうだい?」
「え、カミュのところに?」
「あぁ。彼もまた多くの書物を持っているし、もしかしたらナマエの探しているものも見つかるかもしれない。」
「そうかなぁ……うーん、一応寄ってみようかな?」
「そうするといい。彼には私から伝えておこう。」


そう伝えれば、ナマエは感謝の言葉を述べて階段を下りて行った。
宝瓶宮に着くと、そこにはカミュが立っている。


「話は聞いている。貴女の探すものがあるかはわからないが、ゆっくりしていくといい。」
「えぇ。ありがとう、カミュ。」


そしてナマエはカミュに連れられて居住区に入り、とある一室へと導かれた。
入った瞬間に教皇宮と似た古い書物のにおいに包まれる。


「わ、凄い。思っていたよりたくさん置いてあるね。」
「私も仕入れはするが、ほとんどが先代の物だ。古い年代の物が多いが、大丈夫か?」
「えぇ。むしろそっちの方を探していたから。」


ありがとうと微笑めば、ナマエは1人部屋に閉じこもって目当ての書物を探し始めた。


――――……


「……ない……。」


何度か休憩を挟んで1つひとつ調べていくも、目ぼしい資料は見つからないでいた。
がくり、と肩を落としたとき、扉のあく音が響く。
反射的に顔を向ければ、どうやらいつの間にかカミュが紅茶を淹れてくれたらしい。
テーブルに、ほくほくと湯気がたったカップが置かれた。


「探しているものは見つかったか?」
「それが、なかなかなくって……。」
「ふむ。……ちなみにどんな書物を探しているのだ?」


カミュの問いにナマエは詳しい内容と年代を答えた。
すると言い終わらないうちに、カミュがこちらへ近づいてくるではないか。
どんどんと縮まる距離。何も言わずにこちらを真剣な瞳で見つめてくるカミュ。
ナマエは思わずえ、と口から言葉が漏れた。


「か、カミュ……?」


とくん、と胸が高鳴る。カミュとの距離は拳1つ分。
違うと分かっていても、ナマエは綺麗な顔が目の前にあることに顔を赤めて恥らった。
ゆっくりとカミュのたくましい腕が近づいてくる。


「っ……!」


思わず目を閉じた。


「――あぁ、やはりこれだ。」
「…………え?」


カミュの声に恐る恐る目を開けば、彼の体は先ほどよりも離れており、伸ばされた手には見た目からしてずいぶん年期の経っていると分かる書物が握られていた。
呆然とした様子のナマエに、カミュは小さく首を傾げる。


「どうかしたか?」
「あ、いや、なんでもない! えっと、もしかしてそれ?」
「あぁ、私も少し前にこれを読んだから覚えていたんだ。」


初めに聞いていれば探す手間を省けたな。
申し訳なさそうに言ったカミュにナマエはぶんぶんと首を振り、むしろ助かったと礼を告げる。
そしてその書物を受け取ると、優しい手つきでパラパラと中を見ていった。
確かに、中には自分が探していた内容がぎっしりと書き込まれている。


「結構量あるなぁ……今晩中に終わるかしら。」
「ならばここに泊まっていくといい。」
「……は?」


とりあえず徹夜は免れないな。とため息を吐いたナマエに、カミュはしれっとそう言いだす。


「えーっと……。」
「徹夜をするのは構わないが、食事はしっかり摂らなければならないからな。
貴女のことだ。どうせ食事もまともに摂らないでまとめようと考えていたのだろう?」
「う……!」


ちょうど思っていたことを見事に当てられ、ナマエは言葉を詰まらせた。
その様子にカミュはふっと微笑めば、部屋を後にした。


「夕飯はできている。共に食べよう。」


ナマエは暫く固まっていたものの、はっと書物を抱えたままテーブル上にある紅茶を飲み、その部屋を後にした。

――翌日。


「やぁナマエ。無事間に合ったんだって?」
「あぁ、アフロディーテ。おかげさまでね!」
「それは良かった。それじゃあ、今晩いつものメンバーでどうだい?」


いつものように帰り際、アフロディーテと言葉を交わすナマエの姿があった。
ナマエはアフロディーテからバラの花を受け取るも、首を横に振る。
誘いに応じるものだと思っていたアフロディーテは昨夜同様に目を丸めた。


「どうしてだい? もう調べ物は終わったのだろう?」
「あー…うん。その、今日は予定がもうあって……。
あっ、もう時間! ごめん、また今度ね、アフロディーテ!」
「え、ナマエ!?」


ナマエは急ぐようにアフロディーテの横を通り過ぎ、階段を下り始めた。
遠ざかっていく背中を見つめ、その奥にある宮を見つめ、アフロディーテはそういうことか、と艶のある唇が弧を描く。


「まさか彼に獲られてしまうなんてね。さて、今晩は三人で夜通し慰安会でもするかな。」


ふふ、と微笑みながら彼は自らの宮の中に入っていった。



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どっちかっていうとディーテ役得(笑)
もはやカミュ夢じゃない……。カミュ好きなんだけど、なかなか文章にできない。難しいな。

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