Protect you. | ナノ

27


「どうしてエレベーターの中にあんなデカイのが入るのよ……」
「さすがに、こたえたな…」
「つっかれたー!」


 降下していくエレベーターに並行して巨大な戦闘兵器が襲撃してくるとは予想もつかなかった。今まで戦力の中心になってくれたクラウドがいなかったこともあってか、少しばかり苦戦を強いられたものの無事撃退に成功する。バレットなんて床に座り込んでいた。


「だが休むのはまだ早い。クラウドたちは、無事なんだろ?」
「あったりまえだろ」
「ならば、退路を確保しておかなくては」
「だね。急ごう」


 エントランスフロアまで戻ってくる。無人にほっとしたのも束の間、すぐさま神羅兵に囲まれた。間を縫って姿を見せたのはハイデッカー。あの時のようなホログラムではなく、実物だった。


「包囲完了しました」
「ようし、よくやった。まあ俺に掛かればこんなものだがな、ガッハッハッハ!!」


 相変わらず笑い方が癪に障る。


「しかしなんだ貴様らは。どういう組み合わせだ」
「アバランチ!」
「スラムの花売り!」
「実験サンプル!」
「え? …えーっと……ボディガード?」


 流れに付いて行けずに首を傾げていると、もう! とエアリスに突かれた。敵相手に自己紹介がいるとは思えない。しかも組み合わせ、微妙だし。


「他の奴らはどうした」
「さあな」
「ふん。まあいい。どうせ袋の鼠だ。古代種の女は捕らえろ。後は、殺しても構わん」


 とにかく今はこの状況から抜け出すことを考えないと。ハイデッカーを狙って周りの混乱を誘うのが一番早そうだ。踏み込むには距離があり過ぎるから、先に銃で先手を打って間に入るしかない。手を腰部へ回した。


「エアリス。あんたはマリンを守ってくれた。今度は俺が、あんたを守る番だ」
「あら嬉しい。三人目のボディガードね。エアリス」


 安心させるようにウインクを飛ばすと、力なく笑ってくれた。大丈夫、私たちなら切り抜けられる。指先が銃の冷たい金属部へ触れた瞬間だった。遠くから何か重い音が聞こえる。それは次第に音量を増し、エンジン音だと気付いたころには、上からバイクに跨ったクラウドが助けに来てくれた。


「クラウド!」
「援護を」
「当然!」


 クラウドのバイクが周りの兵士を錯乱させる。ハイデッカーへと向かうクラウドの背後へ飛ばされた銃弾を、同じ銃弾をもって撃ち落としてあげた。射撃には少々自信がある。その間に遅れてやってきた車はティファが運転していた。


「皆乗って!!」
「ティファ無事でよかった!」
「おう、遅せえぞ!」
「だが良いタイミングだ」


開かれた助手席へエアリスが。荷台にバレットとレッド]Vが乗り込み、車体が僅かに沈んだ。銃で牽制しながら同様に乗り込もうと交代すると、背後で鈍い音を立てて発車する。


「あら、私は? 置いてけぼりかしら?」


 首を傾げていると、こちらへ銃口を向ける兵士に気がついて慌てて身を翻すと鈍いエンジン音が近付いてきた。後ろを振り返ると、スピードを落とす気配がなくクラウドが近づいてくる。手が、伸ばされた。


「ナマエはこっちだ。乗れ!」
「エスコートは丁寧にお願いするわ」


 その手を、掴む。
 がっしりと掴まれた手、勢いをつけて荒々しく乗車する。

 
「冗談言えるなら怪我もないな」
「ええ。……良かった、クラウドが無事で」
「当然だ」


 同じ返し方をしてくるクラウドとの言葉遊びを楽しめる自分がいた。ぶぅんっとバイクが更に速度を上げる。慌ててクラウドへしがみ付くと、気のせいか笑われた気がした。バイクは階段をぐんぐん上って行く。その先にあるのは――魔晄都市ミッドガルを見下ろせる巨大な窓ガラス。


「まさか……次もスカイダイビング?」
「練習相手になってくれるんだろ?」
「……仕方がないわね。道くらいは作ってあげる」


 背筋を伸ばして拳銃を両手に構える。その先には怯える神羅兵。けれど戦意は感じられない。そんな可哀想な兵士へ軽くウインクを飛ばして、ガラスへ向かって連射した。次第にひびが入っていくと、クラウドが小さく行くぞと声を掛けてくれた。ぐんっと身体が後方へ引っ張られそうになり、慌てて背中に飛びつく。

 クラウドと出会って、何度目かもう数えられない浮遊感に襲われた。


 神羅カンパニーを脱出し、なんとか神羅兵たちの追跡を追い払っていく。ジェシーたちと七番街の上へ向かったあの時を思い出した。背後を振り返ると、私たちが立ち去った神羅カンパニーの周りをかつてないほどのフィーラーたちが囲んでいる。その姿形さえ分からない程の数に、何を妨げようとしているのかを考えさせられた。


「っ」
「きゃ!? ちょっとクラウド急ブレーキは……!」


 前方に、セフィロスがいた。バレットが先程の御返しでもしようとしているのか一歩足を前に踏み出すけれど、それをエアリスが制止する。


「……ちがう。あなたは、まちがっている」
「感傷で曇った目には何も見えまい」
「あなたはまちがっている!」


 エアリスの言葉に何ら動揺することもなく、かつての英雄は悠然たる笑みを浮かべている。


「命は星を巡る。だが、星が消えればそれも終わりだ」
「星は消えない。終わるのは――おまえだ!」


 武器を構えると、先程まで神羅カンパニーを囲っていたフィーラーたちが一斉に私たちへ向かって飛んできた。遠くからでも数多の数だったのに、近くへ来るとその無数さに目を閉じる。


「――来るぞ。運命の叫びだ」


 じじっと頭に痛みが走った。形容しがたい感情や言葉が直接脳の奥へと流れ込んでくる。その情報量は果てしがなく、エアリスはいつもこれを聞いているのかと苦しくなった。この叫びが収まる頃には、セフィロスは踵を返してしまう。フィーラーたちが作り出した壁を一振りで薙ぎ払い、異質な空間の奥へ消えてゆく。クラウドへ、早く来いと言い残して。その奥へ続こうとしたクラウドを、エアリスが止めた。


「ここ、分かれ道だから」


 エアリスが、そんな荒れ狂う空間へ手を翳した。古代種、ステラの力なのかもしれない。悪質な空気漂う壁に光が灯った。壁は未だに立ちふさがっているものの、不思議と明るい兆しが映える。


「運命の、分かれ道」
「……どうして止める」
「どうして、かな」
「向こうにはなにがあるの?」
「自由」


 でも、とエアリスは続ける。


「自由はこわいよね。まるで空みたい」


 エアリスの言葉に、胸が締め付けられた。綺麗な空を見せてあげたいと笑ったザックスが脳裏に過ぎる。


「星の悲鳴、聞いたよね。かつてこの星に生きた人たちの声。星を巡る、命の叫び」
「セフィロスのせいなんだろ?」
「うん。あの人は悲鳴なんて気にしない。なんでもないけど、かけがえのない日々。喜びや幸せなんて、きっと気にしない」


 エアリスとエルミナと食卓を囲む日々。クラウドやティファと歩みを進める日常。


「大切な人なくしても、泣いたり、叫んだりしない」


 バレットやジェシー、ビッグスとウェッジと笑い合ったあの日々。崩れていくプレート。


「セフィロスが大事なのは、星と自分。守るためなら、なんでもする。そんなの、間違ってると思う。星の本当の敵は、セフィロス。だから止めたい」


 セフィロスを倒さないと、楽しいことも辛いことも全ての記憶が消えてしまう。星が泣き叫んで、またステラであるエアリスが悲しむ。そんなのは、許せない。


「それをナマエに手伝ってもらってた。……クラウドに、みんなにも手伝って欲しかった。この皆が一緒なら出来る」


 でも、とまたエアリスの葛藤が垣間見える。私たちの前に聳え立つ壁の奥へ行って、セフィロスを止めないといけない。


「この壁は、運命の壁。入ったら、越えたら皆も変わってしまう。だからごめんね。引き留めちゃった」


 再び星の悲鳴が頭の中で叫び声を発した。まるで揺れるエアリスの心を体現しているかのようで、そっとエアリスの手を掴む。私を見上げるその瞳はどこか縋るようにも映った。


「おバカさん。私はとっくに覚悟決めてるのよ」
「ああ。迷う必要はない。セフィロスを倒そう」
「こんな悲鳴は、もう懲り懲りだもの。ね?」
「……うん、ありがとう…」


 壁、薄いと良いね。運命の最後の砦だ、そうはいかない――そんな言葉を交わしながら、光の奥へと歩んでいく。フィーラーが運命の番人だとするならば私たちの邪魔をしてきても可笑しくないと思っていたけれど、すんなり壁の奥へ進むことが出来た。その先には変わらないミッドガルの景色。私たちが立っていた場所と同じ。


「……おいおいおい、嘘だろ!?」


 けれど、やはりフィーラーは新たな未来という選択を許すことなんてしなかった。壁を作り出していた以上のフィーラーが勢いよく襲い掛かってくる。竜巻のような衝撃に身体が宙へと浮いていった。エアリスへ伸ばした手は、届かない。遠くでクラウドと目が合っても、もうその距離は遠い。

 フィーラーたちは渦を巻いて一点に集っていく。何十体、何百体、もしかしたら何千何億ものフィーラーたちが次第に形を成していった。それは、かつて見たことのない巨大でいて強大なモンスター。私たちが自由な未来を手にするために越えなければならない敵なのだと理解をして、剣を抜いた。襲い掛かるフィーラーを薙ぎ払って、その体躯へと駆け出す。


 周りには誰も居ない。でも同じような志の仲間が必ず同じように戦っていると信じることで、活力が得られた。こんな時バレットの声が聴こえてきたらいいのになんて望んでいると、強大なモンスターの奥に、本来目当ての敵が見えた。ボスもボス。大ボスといったところかしら。


「セフィロス……」
「…おまえは……そうか。クラウドの傍らで邪魔をしてくる女だな」
「あなた、クラウドの何を知っているのかしら。随分ご執心みたいだけれど」


 近付いてきたフィーラーを薙ぎ払ってセフィロスと対峙する。強い。この人は強い。背筋がぞくりと震えあがり、恐怖心を破棄させるように柄を握る手に力を込めた。


「おまえのしらない、すべて」
「……嫌な言い方」


 隙の見当たらない相手。一瞬でも油断したら、ルーファウスやバレットの時のように胸を一突きされそうな気がして緊張感が抜けない。それでも、背けるわけにはいかない。


「エアリスも、クラウドも、私が守る。あなたはお呼びじゃないわ」
「ならば指し示してみろ。おまえの死をもってして、クラウドを俺のもとへ来させよう」


 セフィロスが、構える。合わせて姿勢を低くして息を緩く吐き出す。空になった肺へ空気を送り込むのと同時に、地面を蹴った。ぎぃんと不愉快な金属音同士が悲鳴をあげて火花が散った。力強く押し戻され、身体が後退する。背後で、フィーラーの集合体が消えていったのかさらに背中に風圧が伸し掛かった。お陰で、立っていられる。


「あまりしつこい男は、嫌われるわよっ!」
「守ると口ばかりの女も同じだろうな」
「やだ、ストーカー?」


 どこから攻め入っても片手で軽く流される。英雄セフィロスの名は伊達ではなかった。戦っていて、こんなに冷や汗が流れるなんて初めてだった。大丈夫、独りじゃない、そう言い聞かせて再び大地を蹴る。


「まさか、クラウドの頭痛もあなたに関係してるっ?」
「ふ……どうかな」
「顔が整ってるだけに、腹立つわね」


 ぎりぎりと摩擦音が耳の奥を刺激する。力技ではダメだ。確実に負ける。ならばスピードとテクニックしかない。ぐっとセフィロスから距離を取る。同時に、近付いてくる足音と気配に気が付いた。


「ナマエっ!!」
「クラウド! っレディを待たせるなんて、よろしくないわ」


 駆け寄ってきたのはクラウドだった。胸に広がる安心感。けれど他のメンバーが見当たらない。……いや、今はそれでもいい。一人じゃないだけ全然。


「だったら傍から離れるな。…無事か」
「なんとか、ね。でも、ちょっと厳しいかも」
「二人なら問題ない」
「……ふふっ、そうね。私たちなら、戦える」
「あんたは俺が守る。ナイトなんだろ」
「おあいにくさま。私は守られるだけのお姫様じゃないわよ」


 顔を見合わせて、こんな状況だというのに笑ってしまった。肩でクラウドの腕に触れると、薄っすらと微笑まれる。それがとてつもなく嬉しく、同時に愛おしくて堪らなくなった。


「行くぞ、ナマエ!」
「ええ。ばっちり任せてちょうだい!」
 


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