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#07 スラムの日常


 なんでも屋さんを営み始めたクラウドさんが、スラム七番街に溶け込むのは早かった。ティファさんやビッグスさんらの協力もあるけど、誰にも負けない腕っぷしがそうさせているのかも。


「クラウドさん!」
「ナマエか。今日は何してたんだ」
「武器屋さんのお手伝いです。いつだって新品の良い切れ味をお届けしないといけませんから」
「そうか」


 そんなクラウドさんは、まさかのわたしの恋人。彼氏。ボーイフレンド。口にするだけでなんだか蕩けちゃえそう。でも事実。


「間違っても手を怪我するなよ」
「大丈夫ですよ! こう見えても、手入れ担当なんですからねっ」
「手入れ担当?」
「あ! わたしのこと、魔法打てるだけだと思ってますでしょう?」
「違うのか」


 違いますよ! と腰に手を当てる。そりゃわたしにクラウドさんみたいな身体能力や頭の良さはないけど。


「みんなの武器の手入れもしてるんです。バレットさんのガトリングだって、わたしがメンテナンスしてるんですよ?」
「本当か? ……意外だ」
「もう! 失礼しちゃいます!」


 今はジェシーさんに爆弾の作り方を教わってる。魔法があれば大抵のことは出来るけど、アバランチのメンバーとして活動していく上でやっぱり出来ることは増やしていきたいから。頼み込んだら快く承諾してくれた。ティファさんは、あんまり乗り気じゃなかったけれど。


「クラウドさんは?」
「モンスター退治。大したのがいなくて物足りないくらいだ」
「さっすがクラウドさん、かっこいいです!!」
「……別に」


 ぷいっとそっぽを向くクラウドさんは、実はかっこいいだけじゃなくて可愛い一面を持っていることも知った。かっこいいと褒めると照れ臭そうにする。でも、可愛いって褒めたら口を尖らせる。わたしと違って遠い大人の男の人だと思ってたのに、親近感が湧いた。


「ね、今日はセブンスヘブンでご飯にしませんか?」
「元よりそのつもりだ」
「やった! 実は、今夜のおすすめメニューはわたしの新作なんです! クラウドさんにも食べてほしくって!」
「……なあ、あそこで働くのやめる気はないのか」
「あ、またそれですか? ないですよーだ!」


 クラウドさんと恋人になってから、何度か……というより出勤日は必ずセブンスヘブンに顔を出してくれる。でも、その度に帰り際にはクラウドさんのご機嫌が悪くなって、ティファさんがお酒を奢っているのを見かける。


「……ナマエは、愛想が良すぎる。無駄にな」
「クラウドさんに無い分でしょうか?」
「減らず口を言うのかこれか」
「んっ……も、もう〜〜!」


 わたしがお客様と親しくしているのが面白くないみたい。あんたを狙ってる男が五万といる、なんて言われた時には、焼きもちを妬いてくれたのが嬉しくて飛びついた。帰った後仕返しと称して食べられたけど。


「クラウドさんがわたしのこと見ててくれれば、誰にも食べられませんよ」
「当然だ。あんたに手を出す輩がいたら殺してやる」
「うえぇ!? そ、そんな物騒なことは許しません!」
「冗談だ」
「…ほ、ほんとうでしょうか…」


 クラウドさん、目が笑っていないときがあるからちょっと怖い。冗談は好まないって前言ってたのに。


「で、新作だったな。残しておいてくれ」
「っはい、もちろん! あ、今度家でもご馳走しますね」
「ああ。楽しみにしている」


 頭を撫でる手つきは、ビッグスさんよりも優しい。髪もぼさぼさに乱れないし、なにより大好きな人がやってくれるから嬉しくて飛び付く。


「見られているぞ」
「自慢の彼氏って、見せつけているんです!」
「なら、ナマエはおてんばな彼女ってところか」
「あ。せめて可愛いくらい付けてくださいよ!!」


 いじわると頬を膨らませたら、薄っすら目を細めてくれた。イケメンがやる仕草はどれをとっても人の心臓を弱らせる。わたし、幸福を手に入れた代わりに寿命を差し出したかもしれない。


「この後も、お仕事ですか?」
「ああ。何件か依頼を受けている」
「順調ですね、なんでも屋さん」
「お陰様でな」


 やっぱり手腕が活きているのかクラウドさんはより頼られるようになった。彼氏の活躍に嬉しい反面、周りの人がクラウドさんに惚れちゃわないかちょっと心配。


「遅くならないようにする」
「はい。待ってます! だから、怪我とかしたらダメですからね?」
「俺を誰だと思ってる」
「私の大好きなクラウドさんっ!」
「……キスしていいか」
「うぇあ!?」


 でも、クラウドさんからの愛情はちゃんと貰ってるから、疑うだけ相手に悪いよね。


「クラウドさんっ、じゃあ行ってきますね!」
「ああ。頑張れよ」
「クラウドさんも!」


 一度クラウドさんと別れてからセブンスヘブンへと出勤した。そこには何故かティファさんだけじゃなくてジェシーさんまでいて、ひらひらと手を振って歓迎してくれる。


「ジェシーさん? どうしたんですか?」
「作戦の日取りが決まりそうなの。予定通り今回はティファも一緒ね」
「よろしくね、ナマエ」
「は、はい! ティファさんの足を引っ張らないように頑張りますね!」
「ふふ。ナマエならもう大丈夫、でしょ?」


 そんなことないのに。わたし、まだまだ弱いし……。クラウドさんに頼みに頼んで頼み込んだら、渋々戦い方のコツとか、受け身の取り方を教えてくれた。けど、全然上手くできない。


「クラウドも参加してくれるんだよね?」
「どうだろ。バレットは私たちだけって」
「えぇ〜? あんな強い味方連れてかない理由がないって! ナマエだって、愛しのクラウドくんが居てくれた方が心強いでしょ?」
「うえっ!? あ、あぅ……そ、そうです……ね」
「あはは、顔真っ赤! も〜〜可愛いんだから!」


 ジェシーさんの唇がふにゅっと頬に触れる。わたしも代わりに返すと、ぎゅっと抱きしめられた。嬉しいけどやっぱり鎧がちょっと痛い……。


「クラウドとは、どう?」
「よくしてくれています」
「そう? 言葉足りないとこあるから、苛められたら言ってね? 私がシメてあげる!」
「えへへ、ティファさんが味方なら頼もしいです!」


 当初、ティファさんに告白するのは心苦しかった。だって、二人って最初付き合ってるのかと疑っていたし、ティファさんが頼るだけの相手だから好意があるって勝手に勘違いしてた。でも実際に告げてみたら自分のことのように喜んでくれて、今では相談相手の一人。


「今日も来るって?」
「はい!」
「じゃあ気合入れないとね! あ、今日は遅くなる前にあがっていいから」
「え? それだとティファさんが大変ですよ?」
「店閉めた後にビッグスたち来るんだって。片付け手伝ってもらうから大丈夫。それに、あんまり遅いとクラウド怒っちゃうし」


 確かに、それは否定できないかも。


「ナマエ〜、せっかくだしお酒でも飲んでから帰ってね?」
「飲みません!!」
「ふふ、クラウドにキツく止められてるものね」
「でもそのお陰でくっつけたんだしさ! せめて帰る前に私と一杯くらいしよーよ! ねっ?」


 うぅう、ジェシーさんのお願い、弱い自覚しかない……。




「――で、これか」
「くっらうどさぁん!!」
「あー、ごめんごめん。ちょーっと目離した隙にさ?」
「私もフロア忙しくって……クラウドがすぐ来てくれて助かった! あ、お給料は明日手渡すから今日はもう上がっていいよ?」
「当然だ」


 クラウドさんにぎゅぅうっと抱き着く。うーん、やっぱりわたしの彼氏はかっこいい。スラムで生活しているのにいいにおいもするし、筋肉逞しいし、なにより強いし優しい! 単純な言葉しか出てこないけど、最強で最高なクラウドさんが大好き!


「クラウドさあん、大好きです〜!!」
「知ってる。行くぞ酔っ払い」
「はぁい〜行きまぁす!」


 背中に背負うんじゃなくて横抱きにしてくれるのも、何だかお姫様になった気分。


「そこまで飲んでないから、明日大丈夫だと思うけど……ごめんね?」
「いい、気にするな」
「クラウドさーん!」
「お前は暴れるな」
「ナマエですナマエ〜!!」
「分かったから、落ちないように掴まっていろ」


 はぁいとクラウドさんの首に抱き着く。ティファさんとジェシーさんがご馳走様、と言っていたからきっとわたしの手作り料理を食べてくれたんだ。クラウドさんの口には合ったかな?


「まったく……酒癖が悪いんだから飲むな。誰かに襲われても助けてやれないぞ」
「んふふ、クラウドさんにもう襲われましたぁ!」
「……」


 ぎゅうっと抱き着いているとあっという間に家に辿り着く。ベッドに下ろされて、体中が包まれた。お布団はやっぱり気持ちいい。このまますやすや居心地の良い眠りにつこうとしたら、何故か口を塞がれた。


「んむ?」
「ご希望通り襲ってやる」
「……んんん?」


 暗闇の中で、ギラついたクラウドさんが食らいついてきた。


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