TOX2 | ナノ

XILLIA2

34▽ 分史世界破壊命令

「と、いうわけでコチラがナコルです。」
「って、報告する内容ちげーだろっ!!」
「そんなこと言われても……。」
「おかしいだろ!?」
「たしかに!」
「なぁ!」
「うん!」
「もう、2人とも声大きいよ……。」
「あはは……。」
「朝からうるさいだろォが。」


えー、一年という空白の末にジュード君と更に仲良くなりました。
その前にナコルをルドガーたちに紹介しようと集まった次第です。

けれど、どうやらナコルから先に聞いていたルドガー以外の彼らは声を荒げててきました。
ナコルを紹介する前に、報告するべきことがあるだろ!! と。私、横暴だと思いますわ。


「って、なにキャラ崩してんだ。」
「いやなんか……。」
「なになに? ジュードとやーっと結ばれた感想!?」
「……これからも表立って抱きしめていいのかな。」
「そこかよ!」
「ナマエさんっ!!」


一応、ジュード君にも男のメンツというものがあるだろうし。
今更だけど、いいのかな……?
そう首を傾げていると、エリーゼが小さく微笑んだ。


「いいと、思います。」
「だってそれがー!」
「ナマエとジュードですから……!」


輝かしい微笑でそう言われると、なんだか恥ずかしくなって、まだ小さい頭を撫でる。


「なんかそれ、喜んでいいのか分からない……。」
「喜べって! やっとだぜ、やっと! お前も頑張ったなジュード君!」
「うんうんっ、やっと報われたんだよ!」
「これで一歩大人に近づきましたねジュードさん。」
「うわっ、ちょっと皆って……うわっ、アルヴィン!」


ジュード君も、同じように恥ずかしいのかもしれない。
白い頬がほんのりと色付いているのが良く分かる。


「やっぱりジュードのトクベツはナマエだったんだ!」
「ナァ〜!」
「……おめでとう、ナマエ。」
「ありがとう、ルドガー。」


少しだけ眉を下げて微笑んでいるルドガー。
この騒ぎ具合に苦笑しているのか、彼自身知らない空白に飽きれているのか。
はたまた、短いながらも過ごした時間で私を姉のように慕ってくれているのか。
理由は分からないけど、ただただ私はお礼の言葉を返した。


「これでやっと、俺もコイツらのもどかしいの見てなくて済むんだな。」
「…………。」
「……あ?」
「っ、……。」


ふと、エルの興味がナコルへと向いていることに気付く。
ナコルは身長が高いから、まだ幼いエルとの間には大きな高低差が生まれている。
ただ下を向いているだけでも、エルには巨大な障害物にしか見えないのかもしれない。
そんな彼女を怖がらせないようにしゃがんで、同じようにナコルを見上げた。


「エル、彼がナコル。私と昔、一緒に旅をしていた仲間よ。」
「……いかつい。」
「いかつ……ガキの覚える言葉かァ?」
「エル、ガキじゃないもん!!」
「っと、悪かったよ。立派なレディだもんな。」
「そーですー、リッパなれでぃーですー!」


ナコルもまたエルと視線を合わせて、軽く頭を垂れた。


「初めまして、お嬢さん。俺はナコル・アニアだ。お嬢さんは?」
「エルはエル! エル・メル・マータ。で、サチがちょー薄いのがルドガーで、この子がルル!」
「はは……。」
「ナァ〜。」


エルらしい説明の仕方だけど、ルドガーからしてみれば悲しいだけだろうに。


「ルドガーのことはコイツから聞いてるよ。」
「ナマエから……?」
「おう、超絶料理が美味いんだってな?」
「パパの次だけどね!」
「はは、褒められるほどのものでもないよ。」
「謙遜すんなって。武器の扱いも巧いし、料理上手な家庭的ときたもんだから、ナマエのやつ乗り換えたのかと一瞬焦ったもんだ。」
「「えっ!?」」


ちょっと、なんでジュード君とルドガーでハモるの。
というか、ナコル言い過ぎ。


「止めてよね、ナコル。そういう意味で言ったんじゃない。」
「わーってるって。強くて家庭的なんてジュード君とぴったしだから、そういうのが好みかと。」
「ナコル?」
「ハイハイ、失礼しましたって。」
「思ってないでしょうに。」
「まーな。」


まったく、油断も隙もない。
これじゃジュード君だけじゃなくてルドガーも弄られるんじゃないかなぁ。


「ナコルさんを呼んだということは、彼にも?」
「人では多い方がいいからね。ナコルも了承してくれてる。」
「いいのか?」
「ナマエの頼みとあっては断れねェよ。」


去年は新品だった槍が、今は酷く使い古されている。
私は何度かナコルと会ってはいたが、以前よりも傷が多い。
きっと、ナコルなりに戦い続けているのだろう。


「助かる。」
「おうよ、報酬はお前の美味い飯で頼むぜ。」
「ああ、任せてくれ。」
「ナァ!」


よし、これで一通りの戦力は揃った。
このメンバー、人数なら、誰かしらルドガーと共に動くことができる。
分史世界の破壊とやらも少しは楽にできるだろう。

ただ、その破壊命令がまだ――


「!」


和んでいる空気を裂くように、ルドガーのGHSが鳴る。
借金の取り立てか、はたまたクラン社からの連絡か。


「はい。」
『クランスピア社ヴェルです。新たな分史世界が探知されました。』


!、一気に緊張が走る。


『分史世界エージェントとして、ルドガー様に対処命令が下されました。初任務です。十分に準備を整えてクランスピア社までお越しください。』


最後に『ナマエ様もご同行願います。』と付け加えて通信が切れる。
ついにやってきた、分史世界の破壊。今までも無意識ながらやってきたけれど……。


「メガネのおじさん、見つかるかな? あと、カナンの地にすむセーレーも。」
「行ってみないと、だな。」
「うん。ルドガー、行こう!」
「手伝ってくれるのか?」


思わないルドガーの言葉に、こっちまで目を丸くしてしまう。
そして思わず笑みが零れて、


「今更何言ってるの、ルドガー。」
「そうです。それに、ことはエレンピオスだけの問題ではありません。」
「ローエンの知識、技量、役立つことしかねェしな。」
「ほっほっほ、褒めても何も出ませんよ、ナコルさん。」


当然のように頷く私たちに、ルドガーは目を細めた。
そこに、ルドガーなりの優しさを感じたのは私だけではないだろう。 
続いて、レイアにエリーゼ、アルヴィンも同行すると言葉を告げた。


「もちろん僕も。」
「…………。」
「ほら、今更だったでしょう?」
「……ああ。ありがとう、みんな。」
「いいってことよ。」
「そうそ! 困った時はお互い様ってやつ!」
「んじゃ、さっさとクランスピア社にでも向かおうぜ。」


こんな仲間を持つと、不思議と心強い気持ちになる。
私も旅の中でそれを経験したからなんとなく、ルドガーの気持ちが分かる。
それはきっと、此処にいる全員がそうなのだろう。

――クランスピア社。広々としたエントランスに、ヴェルはいた。
傍らにはルドガーの返済を担当するノヴァが立っている。ヴェルとは双子の姉妹らしい。
明るさいっぱいのノヴァは、冷静なヴェルによって退場させられた。


「お連れ様がおおいようですが……。」
「ヴェル、彼らは私たちに協力してくれる人たち。いいよね?」
「協力の件は了解しました。ただし――」
「機密扱いに、ですね。」


ヴェルが言い終える前に、ローエンが言葉を放つ。
機密扱いも何も、一般の人々に分史世界の話をしても理解は得られないだろう。
下手な混乱を招くか、笑われるのがオチだ。
だからこそ、陰で私たち……いや、ルドガーやユリウスさんが戦うことに意味がある。


「では、任務を説明させていただきます。」


そしてここで、
分史対策エージェントの任務が、分史世界への進入および時歪の因子を破壊すること。
時歪の因子は分子世界を形成するものであり、"何ものか"に擬態していること。
そして、その可能性が高いのが、正史世界と最も異なっているものであること。
また、分史世界へは深度、偏差、進入点(これらを座標という)が分かった時点で、骸殻能力者によって進入できるということ。
これらを学んだ。


「今回の進入点はトリグラフです。」
「分かった。」


ヴェルから座標を受けとり、ルドガーが勇ましく頷く。
早速旅立とうと背中を向けると「ナマエ様」と声をかけられた。


「社長命令により、分史世界内では出来る限りルドガー様と同行するようお願い致します。」
「私にこれ以上、彼を見張れと?」
「いえ。いくら骸殻を扱えても実戦経験はまだ未熟ですからサポートをするようにと。」
「……そういう名目、ね。了解。必ず彼と共に帰還するから安心して。」
「畏まりました。くれぐれも、お気をつけて。」


表情はまるで変わらないけれど、少しだけ声色が和らいだのを感じた。
彼女は淡々と仕事を熟しているけれど、やはり一般の秘書であるに違いないのかもしれない。
なんとなく、そう思った。

会社を出て、辺りの目も気にして人気のないところへと移動した。
ルドガーがGHSを取り出して、座標を確認する。


「いいか?」
「うん、行こうルドガー。」
「……ルドガー……。」
「大丈夫だ、エル。……行くぞ。」


そっとルドガーが目を閉じると、ぐにゃりと世界が歪んだ気がした。


(ついに、世界を壊す活動が始まった)
(この戦いが私たちに何を齎すのか)

(まだ、何も知らない)




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -