TOX2 | ナノ

XILLIA2

30▽ 入社秘話

エントランスにまで降りると、既にルドガーたちがいた。
心なしかルドガーが疲れた表情を浮かべている。

――骸殻。
私たちが知り得なかった力。これがないと世界を壊せないし、守れない。
複雑な心境だ。


「お待たせ。」
「ナマエ!」


てこてこと寄ってきたエルに思わず頬が緩む。
そっと頭を撫でれば、頬を染めながら顔を背けるものだから、まあ可愛い。


「お疲れ、ナマエさん。」
「ありがとう。さて、約束通り話だよね。」
「ね、その前にご飯食べなーい?」
「エルもおなかすいたかも……。」
「ねっ!?」
「もう、レイアってば……。」


がっくし、とジュード君の肩が落ちる。
思わずそんな光景に笑ってしまい、その笑い声がふと被った。
どうやら、ルドガーも面白かったらしい。お互いに目が合う。


「ご飯、作るよ。」
「やった! トマトは入れないでね!」
「分かってる。それじゃ家に行こう。」
「僕たちまで……いいの?」
「ああ、もちろん。」
「んじゃご馳走になるかねぇ。」


クラン社を出たところで、じじ様とエリーゼと合流した。
彼女たちはユリウスさんを追って、逆に傷を負わされたエージェントを治療してくれたらしい。
打撲だけで手加減してくれていた――だなんて、あの人数相手に末恐ろしい。
エリーゼとじじ様に社員としてお礼を言って、皆でルドガー宅にお邪魔する。

そして、私たちは非常に、それはもう舌が落ちるくらい美味しい料理をご馳走になる。
トマト関係の料理が特に絶品だ。……エルは苦手らしいから、トマト抜きで作ってある。
皆の分をこうやって丁寧に作ってくれるから、どこの主夫だ。


「ん〜おいしかった!」
「ん〜すっごく美味しかったぁ!」
「エルと言ってること、同じだよ?」
「うるさいーっ、だって本当に美味しかったんだもん!」
「はいっ。ジュードの料理も美味しいですけど、ルドガーのはプロみたいです!」
「すごーい!」
「そ、そうかな……へへ。」


女性陣(+ティポ)に褒められてか、ルドガーの顔がちょっとだらしない。
でも彼女たちの言葉通りなのだ。美味。


「で、オネーサンのお話は?」
「はいはい。」


お腹も満ちて、皆の視線が私に向く。
とは言っても、大したことでもないんだけど……。


「まず私がクラン社に入社した理由は、私の探し物を社長が持っていたから。」
「その探し物って?」
「――ダガーだよ。私がずっと、ずっと捜していた。」


その言葉に、ジュード君たちははっとする。
どうやら覚えていてくれていたようだ。
一方で、事情を知らないルドガーとエルは首をかしげている。


「だがー?」
「そう。私の母親の、唯一の形見なの。」
「ナマエの、」
「ママの……かたみ……。」


エルの表情に陰りが生まれる。
自分の亡き母親のことを思い出しているのだろうか。


「それをあのビズリーが持っているのか。」
「見てなかったと思うけど、社長室の壁にご丁寧に飾られてるわ。」
「えっ、そうなの!?」
「で、私はそれを返してもらうためにクラン社に足を運んだんだけど、」
「けど?」


今でも思い出す。
確かに筋の通った発言だけど――でもあの男の顔……。


「社長室に通されて返して欲しい旨を伝えたら、『人に要求するのなら、それ相応の働きをして見せろ。』だとさ。」
「それで、ナマエさんはクラン社に……?」
「まあね。もちろん、試験は受けたよ。ちなみに試験官ユリウスさん。」
「兄さんが!?」


ルドガー、凄く目を丸めてる。
ふふ、可愛いなぁ。


「そ。実はユリウスさんとはこっち来てからすぐに知り会っててね。あの時はお互いに驚いたなぁ。」
「で、見事に合格……と。」
「そゆこと。私はこのクラン社で数字として成果を上げる。それで、あの社長を満足させたら私のダガーを返してもらう。そういう契約。」


満足って言っても、勤めるとあの男の高みを目指す精神の強さには驚かれた。
だから社長という任に就けているんだろうけれどね。


「でも、兄さんを捕まえられなかったらとかって……。」
「確かに言ってたね。」
「……私も、一応ね? ユリウスさんの身柄確保の任務、与えられていたの。」
「!」
「ナマエもメガネのおじさんを……?」
「そう。」


といっても、ビズリー(社長)は、ルドガーが捕まえるのを協力しろ。
……って意味合いでだったんだろうけど。


「それでナマエさん、いち早くイラート海停に向かわされたんだね。」
「そゆこと。」
「でも結局追いつけなかった、と。」
「……まあね。」


ユリウスさんと話して得た情報も、ほぼビズリー(社長)が言ったし。
……唯一気になる点としては、ルドガーが骸殻能力者だからいいとしてだ。
その能力を持たない私たちが、何故行き来できているか――ってことだけど。


「(今度、社長にでも聞いてみるしかないか。)」
「ナマエさん?」
「あ、ごめん。ぼーっとしちゃった……。」
「つかれた……?」
「少しだけね。でもルドガーやエル程じゃないよ。」
「そんな、俺は別に……。」


首を横に振るルドガーの表情は、やはり疲弊している。
地下訓練場で、骸殻の力を使って更にそれが増しているようだ。


「今日はもう休もう。いろいろあって、やっぱり疲れたでしょ。」
「そんなこと……ふぁ……っ!」
「あーあ! 私は疲れちゃった! もう寝ないとダメだよ〜!」
「ほっほっほ、ジジィも久々に動き回って疲れました。」


そんなこんなで、今日は解散!!
アルヴィンやじじ様をはじめ、皆がルドガー宅を後にする。
私もそれに続こうとすると、エルに衣服を引っ張られ足が止まった。


「……ナマエもおうちに帰るの?」
「え、うん。そんな遠くないから、今度遊びにおいで。」
「ほんと!?」
「もちろん、エルなら大歓迎。」


なんとなく、彼女の表情は眠そうだ。
そっと頬を撫でれば気持ち良さ気に瞼を閉じた。


「あのね、」
「ん?」
「……ママ、いないの、寂しくない?」
「……昔は、凄く寂しかった。」


エルを抱きかかえて、ソファに座る。
ルドガーは静かに食器を片づけてくれていた。


「私に、いろんなこと教えてくれた女性だったんだ。リーゼ・マクシアのこともエレンピオスのことも、戦い方だってそう。決して裕福で自由な暮しじゃなかったけど、凄く凄く、毎日が楽しかった。」


当時は分からなかったけど、私たちは日々アルクノアから逃げていたんだ。
その末、ようやく見つけたひっそりと孤立した森の奥で暮らしていた。
アルクノアに発見されるのを防ぐためにか、町へ下りた記憶なんてそうない。
でも、それでも凄く充実してた。


「私のママね、病気で死んじゃったの。」
「……エルも、一緒。ママ、病気だったんだって……パパが言ってた。」
「そっか。エルと一緒だね。」


ぎゅっと、私の衣類を小さな手で握りしめ、胸元に顔を埋める。
そんな背中を優しく撫でてやっていると、ふとルドガーと目が合った。


「ナマエのパパは?」
「私のパパはね、エルのパパと同じで料理が得意な人だったの。その分、戦いはへたっぴだったから、エルのパパの方が凄いけどね。」
「……いない、の……?」
「……うん。」
「……寂しく、ない?」
「寂しかったよ。……でも、パパが死んだときには私には大切な仲間がいたの。彼らがいてくれたから、前に進めた。」


――いや、当時はその時、寂しさよりも憎しみの方があった。
殺されたんだから。アルクノアに、私の父親が。死体すら残さずに。
……そんな私の傍にナコルがいてくれたから、私は生きてこれた。
ナコルと、……ユルバンがいたから。


「エルも、ね……。」
「ん?」
「…エルも……いまパパいなくて…すっごく寂しいけど。」
「うん。」
「…ナマエや、ルドガーたちがいる、から……。」
「…うん。」
「……だいじょー…ぶ、だよ……。」
「……そっか。」


するりと、掴まれていた衣類のしわが緩くなる。
エルは私の腕の中で、静かな寝息を立てていた。
ルルが静かな足音でこちらに寄ってきて、小さな鳴き声をあげる。


「…………。」
「寝たのか?」
「うん、寝ちゃったみたい。疲れてたんだろうね。」


片付けを終えたルドガーがそっと近づいてくる。
そして、隣のソファに腰掛けた。


「……ナマエも、大変だったんだな。」
「そう? そんなことないよ。私は仲間に恵まれていたから。」
「ジュードたちか?」
「もちろんジュード君たちも、だよ。でも、彼らと出会う前に旅をしていた仲間がその時は一番の心の支えだった。」
「えっと……ナコル、だっけ?」


思い出すように名前を紡いだから、小さく頷いて肯定した。


「ナコルと、もう一人ユルバンっていう仲間。ちょっと行方知れずなんだけど。」
「え、大丈夫なのか?」
「分からない。だから、ナコルが捜してくれてるんだよね。」
「……そっか。」


前連絡を取ってから、それなりに経った。
今回のこともあるし、協力を要請してみよう。
きっと、力になってくれる。


「今度紹介するよ。槍の扱い、私よりも彼に師事してもらった方がきっといいわ。」
「え、ナコルも槍を?」
「そ。元々は、私がダガーで彼が槍を使ってたの。訳あって、旅を辞める時に彼のを少々、拝借しちゃってね。そこからだよ、私が槍を使い始めたのは。」
「そうなのか……教えてくれるかな?」
「なんだかんだ言って、面倒見るの好きなタイプだから。」


とは言っても、ルドガー本当に筋良過ぎだし、指南も要らないと思うんだけどね。
でも、少しでもルドガーの助けになればいいや。


「さて、エルどうしよっか。」
「ベッドに寝かせてあげよう。」


そっとエルをルドガーに引き渡す。
彼の腕の中ですやすやと眠っているエルの姿が、妙に愛らしく映る。


「それじゃあ、私もそろそろ。」
「送ってくか?」
「平気。エルの傍にいてあげて。」
「分かった。気を付けてな。」
「うん。」


ルドガーとルルにそっと手を振り、私は彼の家を後にする。

――寂しい、か……。
両親が生きてたら、どんな生活を送っていたんだろう。
ジュード君とも、出会わなかったのかな。


「遅かったね、ナマエさん。」
「! 待ってて、くれたの?」
「うん。送るよ、もう夜中なんだから。」
「……ありがとう、ジュード君っ!」
「むぐぅっ!?」


(もし――なんて考えなくていい)
(今、確かにジュード君は私の目の前にいてくれるんだから)




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