TOX2 | ナノ

XILLIA2

28▽ クランスピア社

クラン社に着くと、受付担当のお姉さんがヴェルからの伝言を預かっていた。
どうやらルドガーたちは先に社長室に向かったようだ。
何にも変なこと言われてなければいいけど――そう考えながら社長室の扉を叩く。


「はいりたまえ。」
「失礼します。」
「……ナマエ!」
「ご無事でしたか。」


そこにはエリーゼとローエンを抜かした皆が揃っていた。
心配そうな表情を浮かべているジュード君と目が合って、微笑む。
良かったと、そんな呟きが聞こえてくる。


「どうやらユリウスの捕獲には失敗したようだな。」
「逃げ足早くて見たのは後ろ姿だけです。」
「ほう、接触はしていないと?」
「接触してたら私、こんなピンピンしていませんよ。」
「……面白い。」


いや、バリバリ接触してたけど。捕まえる気なんてさらさらなかったけど。
そんなことは、全部この男にはお見通しなのだろう。
余裕そうに腕を組んでいるのが、些か腹立たしい。


「さて、ルドガー君。君にいい知らせと悪い知らせがある。どちらから聞きたい?」
「悪い知らせって……?」


これ以上、何かルドガーの身に起こるというのか。
どきりとする胸元を抑えると、ヴェルが代わりに口を開く。


「警察が、ルドガー様を公開手配するようです。」
「!」
「どういうことですか! あなたが抑えてくれるというから、ルドガーは!」
「あぁ、そう尽力してきた。だが、警察もなかなか強硬でね。」
「ルドガー、捕まっちゃうの……?」


ッ……事実なのか。
どうしても疑ってしまう。


「いい知らせも、あるんですよね?」


空気を変えるように、レイアがそう訊ねる。


「ああ。君を、我が社のエージェントとして迎えたい。」


――!?


「驚くことはない。君の行動を観察させてもらった結果だ。君は現状に立ち向かう意志、そして、なにより力がある。」
「観察って……あなたがそう仕向けたんでしょう!?」
「ルドガーを試したんだな。」
「筆記試験や口先だけでは、器は量れないからな。」


バカだ、私……。
この人、ルドガーを試すために私を利用してたんだ。


「君もルドガー君に才があることは認めるだろう? ナマエ君。」
「ッ、」
「ナマエ……?」


私はただルドガーのためと、そう思って……やっていたのに。


「聞いていなかったのか? ルドガー君の保護を彼女に頼んだんだ。」
「ナマエが、俺を保護……?」
「そうだ。君は彼女に戦いを教えてもらったことがあるだろう。」
「……。」


ルドガーたちの視線がやけに痛く感じる。
もう、バカ、なんでこんな。


「それも彼女に頼んだ仕事だ。きちんと報酬も、渡してある。」
「じゃー、あのお金って……!」
「そう、君の借金返済のために彼女が頑張ってくれた成果だ。」
「別に借金のためじゃない。私はただっ……!」


ルドガーに良かれと、そう思って……。
仕事とか関係なくただルドガーを守ってあげたくて……。

ゆるりと、ビズリー(社長)の目が細まる。
何も間違ったことは言っていないだろう? そう言いたげだ。


「自分の仕事をこなしながら、ユリウスの代わりにルドガー君を育ててくれた。さすが、我が社に乗り込んできただけのことはある。自慢のエージェントだ、君は。」
「乗り込んだって……、」
「てかナマエもエージェントだったの……!?」


ルドガーを守るつもりが、逆にルドガーを差し出す形になってしまう。
これじゃあ、ユリウスさんとの約束も、果たせない。


「確かにルドガーにはエージェントとしての才能は十分に有ります。しかし、考え直していただけませんか。」
「ほう?」
「ナマエ、どうして……。」


この社内にどんな謎があるか分からない。
ユリウスさんが今も逃げているには、この会社が原因しているのかもしれない。
こんなところに、ルドガーは置けない。

それに……意図は分からないけど、ユリウスさんとの約束を違えるわけにはいかない。


「…………。」
「何か、ユリウスにでも言われたのかな?」
「……関係ありません。」
「……そうか。だが、忘れたわけではないだろう、警察の存在を。」


っ、選択肢が、ないじゃない。


「ルドガー君。君がエージェントになるなら、警察は無理にでも抑えこもう。」
「ルドガーに選択の余地はないじゃないですか!」
「一石二鳥と考えてはどうかね。エージェントには十分な報酬を出す。逮捕を免れ、結果を出せば、莫大な借金もすぐに返せる。」


やっぱり、この人が、借金つくらせたんじゃないでしょうね!?


「何を、ルドガーに何をさせる気ですか。」
「分史世界の破壊。」


ユリウスさんが言っていた世界が、本当に……!


「心当たりがあるだろう。本来の歴史が流れる正史世界から分かれたパラレルワールド――それが分史世界だ。」
「分史世界が生まれると、正史世界に存在すべき魂のエネルギーが拡散していきます。」
「拡散って……まずくない?」
「放置するとどうなるんですか?」
「この正史世界から、魂が消滅するだろう。当然、人間も死に絶える。」
「おいおい。」
「そんな話、いきなりされても……。」


規模が、大きすぎる……。


「エレンピオスの荒廃、源霊匣の実用化失敗。それが、魂のエネルギーが消失している影響だとしたら?」
「まさか……!」
「実際に起こっているだろう。クランスピア社は、世界を守るため、密かに分史世界を消し続けてきたのだ。」


世界を、消す……?


「でも、世界を消すなんてどうやって……っ!」
「そう、ルドガーはすでになしている。ルドガーの変身――骸殻こそ分史世界に進入し、破壊する力なのだ。」
「世界を壊す力……。」


……私たちは既に世界を壊してきた? ルドガーの手によって……。
ああ、だからルドガーを強くしろだなんて。
力量を量ってみせたのも、全部、これをさせるため?


「もー、子どもにもわかるように言ってよー!」


エルが痺れを切らしたように声を上げる。
正直、私も頭の中が整理しきれていない。
でも分かるのは――


「ルドガー。世界のため、君の力を貸してほしい。」


この手をを握らないとルドガーは警察に捕まり。
この手を握れば世界を壊して回らなければならないということ。

完全に、してやられている結果だ。
でも世界を壊さなければ、私たちのいる正史世界が、消える。


「兄さんも関わっているのか?」
「最強のエージェントだった。ユリウスが壊した世界は、百以上になるだろう。」
「ユリウス前室長が、分史世界に逃げ込んでいる可能性も高いと思われます。」
「奴を見つければ、一石三鳥だ。」
「ルドガー……。」


ちらりと、彼と目が合う。
迷っていた瞳は私から逸らされて、ルドガーは手を伸ばす。


「そうこなくては。」


ヴェルがルドガーの襟に、バッチをつけるのを横目でしか見られない。
結局私には、止めることはできなかった。

ごめんなさい、ユリウスさん。


「これでお前は、我が社の分史対策エージェントだ。」
「…………。」
「…………。」


願ってた会社に、願ってもいない形で入社――。
なんてこと……。


「なぜ分史世界は、生まれるんですか?」
「あるものが糸を引いているのです。」
「カナンの地に棲む大精霊――クロノス。」


カナンの地に棲む、大精霊クロノス。
初めて聞く精霊。そしてエルが必死で目指している地に棲む者。
こんな偶然が……。


「恐れることはない。我々には、奴に対抗する力がある。地下訓練場に来い。骸殻の使い方を、教えてやろう。」


ルドガーの肩に手を置き、そうビズリー(社長)が扉まで歩き出す。
だが、その足はふと扉に手をかけて止った。


「そうだ、ナマエ君。」
「……はい。」
「君にも分子対策室のエージェントとして動いてもらおう。なに、今まで通りルドガー君の傍で、力を貸してやるだけだ。」
「……承知しました。」


きっと奴は、口角をあげているのだろう。
くそったれが。


「ユリウスを捕まえられなかったんだ、アレはお預けだな。」
「アレ……?」
「結構です。元の契約通りで、頂きますので。」
「ほう? ……期待しているぞ。」


そして、扉が閉じる。
重々しい空気が流れた。


(ごめんなさい、ユリウスさん……。)
(ごめんなさい、お母さん……。)




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