スラブ | ナノ

蕩けるほどに口付け合った2人は、若槻の部屋で体を休めていた。若槻はソファにぐったりと身体を預けている。安室の執拗なそれにすっかり脱力してしまったようだ。


「ところで透、私の苗字知ってたんだ?」
「昨日、篠河に教えてもらったんですよ。」
「ふぅん。ま、内緒にしてたわけじゃないからいいんだけどね。」


隣に腰を掛けていた安室は、若槻の頭を撫でる。これを許可される関係に鳴れたことをほくそ笑みながらも、自身もまた落ち着いていることに気付きつつあった。任務であると言い聞かせながらも、安室はその手を休められない。



「名前は、秘密ですか?」
「……全部分かったら、面白くないものね。」
「ふふ、」
「なあに?」
「いいえ、焦らされるのが好きな若槻らしいと思って。」
「誰が焦らされるのが好きだって……?」


横目で睨まれても当然、痛くもかゆくもない。安室は額に口付けを落とした。


「そういえば、篠河に言われましたよ。『あれだけ絡み合ってて名前知らなかったのか』と。」
「絡み合ってって……どういう表現なの。」
「昨夜の貴女の嬌声が聞こえていたみたいですよ。」
「ッ、あ、あれは別にそういうことしてたわけじゃっ!」


額に触れていた唇は、耳から、そして慌てて口を開いたその唇へと移動する。言葉すらも呑み込んで、安室は若槻の弾力のある肌に両手を合わせた。んっ、と艶のある唇から漏れる声色が水音に融解されて、耳へと届く。


「……なんなら、しましょっか。」
「!」
「貴女からお預け食らってばかりで、そろそろ限界なんですよね。」
「ぁ、透……!」


片手が首筋を撫でて、胸元に触れる。洋服の上から掌に少し力を加えれば、その形状は形を崩した。壁に押し付けた時の歪みとは、また違う。弾力をその手で感じつつ、安室は再び接吻を送り、下唇に吸いついた。またもや溢れたその艶声は、先ほどよりも少々大きく流れた。


「あっ、ま、待って……。」
「僕は待ちましたよ、何度も。」
「っ、っ……」
「初めて貴女に誘われた時も、結局あれ以上触れさせてもらえませんでしたし。」
「あ、あれは……っひ、」


柔らかなシフォンブラウスから手を忍び込ませる。触れる素肌は、安室が想像していたよりも絹のような滑りの良さだった。それを味わうように、何度も行っては来たり胸に辿り着きそうになれば、腹部へと再び下降して、焦らす様に繰り返した。その度に若槻の身体は敏感に動き、唇からは吐息と共に声が漏れる。


「あ、あっ、……ダメ、ね、透!」
「僕は触れたい。貴女に触れたい。」
「ッ〜〜、」
「いけませんか。貴女を知りたいんです……貴女の全てを見たい。」


身体が跳ねたその隙に、後ろのホックを外す。防壁を崩した指先が胸へと到達した。指先で胸の輪郭を確かめるように触れる。決して中央には触れないように、弾力を味わうように、何度も、ゆっくりゆっくりとその双丘を味わう。


「っひ、透、透……、」
「男の名前を、そう頻りに呼ぶものではありませんよ。」
「、っふぁ…!」
「気持ちが昂るだけだ。」


時折、掌全体で搾り取るように悪戯をする。男を知らないような反応が、安室の中の男を歓ばせた。不規則な動きに若槻は蹂躙される。いやだと首を振るたびに、黒い髪が揺れる。それすらをも、強請りのように思えて仕方がない。安室は女の肩に顔を埋めた。首筋を舐めれば、喉の奥から高い空気音が溢れ出た。


「可愛いですよ……。」
「っ、ぁ、ふっ、」


白い首筋を、自分の痕跡を残すかのようにゆっくりと舐める。自分の舌のぶつぶつとしたざらつきよりも、相手の障害物が何もないなだらかで甘い香りの漂うそれが、酷く自分の中の感情を燃え上がらせた。舌が首筋を上がっていく最中も、安室の掌は若槻の胸に刺激を与え続けている。やめて、と唇から漏れる声を無視して、安室は小さな耳を唇で挟み込んだ。


「ッぁひ……!」


安室のため息が直接耳に吹きかかる。若槻は瞼を強く瞑って、逃がせないその快楽をどうにかして解放しようとしている。安室はそんないじらしい姿にほくそ笑むのを隠せないまま、そっと指を更に下部へと下ろしていく。ヤメテと口にならない抵抗を無視して更に推し進めようとしたその瞬間だった――


「!」


――トントン、とノックオンが響いたのは。


「っひゃ!」


驚いた若槻は身体を大きく振るわせて安室の衣類を強く掴む。縋られた彼もまた同様に驚いたように目を丸め、同時に脱力する。最後までするつもりはなかったが、流されかけたのも事実。姿も見えない訪問客に微かな感謝をしつつ、硬い扉へと目をやった。


「冴、いるかね。」


低い男の声だ。聴いたことがない。
誰だ、と目を細める安室に対して、冴と呼ばれた女は俊敏に動いた。乱れた衣類、絡まる髪の毛をすぐに纏め、安室の腕から離れて立ち上がった。埃を払うかのように衣類を軽くたたいた女は、安室へと艶やかな笑みを浮かべる。


「おめでとう、透。ご対面よ。」




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