Zero the Enforcer | ナノ



――『HABA_231』

それが、日下部がNAZUで変更したコード名だった。すぐさまそれが入力され、アクセスが可能になることで喜びと安堵に包まれた直後、すぐさま別の問題が浮上する。

『ブラックアウト』と呼ばれる、大気圏突入直後の状態に達していたというのだ。この短時間の間はプラズマが発生するために通信状態が保てず、確実に軌道修正が出来ているかどうかわからないという。


パラシュートが開かない可能性がある――そんな窮地すらも降谷とコナンは救済へと導いた。ドローンを阿笠邸にいる少年探偵団が操作して、公安が用意した爆発物と<はくちょう>を接触させることにより、物理的に軌道を変えることに成功したのだ。


だが、それにも問題が生じた。


『原因不明の爆発によって、東京湾の埋め立て地に落下する』そう報告が届いたのだ。


「どこへ行くのじゃ!」
「民間人の避難所に<はくちょう>が墜落します。何とかしないと。」
「何とかって、今から行って間に合うの? それに、どうやってこれ以上軌道を変えるつもり?!」
「走りながら考えます!!」


阿笠邸の柱に先ほどまで体を預けていたは、冴テーブルの上に置いていたヘルメットを被る。


「え〜〜菜摘姉ちゃん、どこ行くんだよ〜!」
「そうですよ! せっかく再会できたのに!」
「もっと話そうよ!!」


先ほどまでドローンを操作していた救済者たちが、冴の帰宅に不満な表情を露わにする。一度被ったヘルメットを取り、彼らの目線の高さに合わせるとそっとほほ笑んだ。


「急に仕事が入っちゃいました! 少年探偵団のお陰で私にもお仕事が入るようになったんです!」
「こんな夜中からですか?!」
「探偵に朝も夜もありませんよ。また今度、改めて伺いますね!」
「その時は遊んでくれる?」
「もちろん! 美味しいケーキをお持ちします」
「ケーキ!! 俺、うな重がいいなぁ……。」
「ふふ、ではそれも御馳走しますよ。」


やったぁ!! と、手放しに喜ぶ彼らに背中を向けると、若槻冴
の顔に一瞬にして戻る。視界には、家主の阿笠、哀、そして羽場が映った。


「此度のご協力、感謝いたします。羽場さん、貴方にも面倒をおかけいたしました。」
「日下部さんは、やっぱり変わっていなかった。それを知れただけで私は満足です。」
「ありがとう。」


再度、ヘルメットを被る。


「気をつけなさいよ……。」
「ええ、突然の訪問だったのに、良くしてくれてありがとう。」
「なに、新――コナンくんからも聴いていたからのう。」
「彼にも感謝しないといけませんね。では、私はこれで。」


踵を返し、冴は大股で阿笠邸を後にした。


『聞こえていたな、若槻。』
「ええバッチリ!」
『どうする?!』
「まったく案が浮かびませんよ! そっちはどうですか!」


車道を埋める車の間を接触ギリギリのラインで縫って爆走する。ひらりと汗が流れ、それが髪の毛に吸収されるのを感じる。急がねば……守るべき民間人の車体それぞれを煩わしく思いながら、速度を違法を鑑みずに上げていた。


『生憎、俺も浮かばないが……希望はありそうだ!』
「そこにいるのですね、ボウヤが。」
『あぁ! ッ、くそ避難誘導ができていないのか?!』


どうやら高速道路を通っている降谷たちは渋滞にはまりそうらしい。こういう時、バイクは楽だと未だに合間を波縫いながら走行している冴は痛感している。時折、これ以上は速度を出せないとメーターが悲鳴を上げているが、それすらをも無視して爆走を続けていた。


『くっ!』
『うあぁっ!?』
「ちょ、大丈夫ですか?!」


大きな車輪の擦れる音と何かにぶつかる音が耳元で響く。思わず肩が跳ねた拍子に手元が狂い、トラックと衝突しそうになるのを慌てて軌道修正させた。一瞬も気の抜けないドライブに冷や汗が止まらない。


『問題ない、少し別ルートを走行しているだけだ!』
「降谷、一か八かでライフル迎撃を試みましょう。」
『中身を破損させたら宇宙局から苦情が来るぞ!』
「また別の探査機に活躍してもらうしかありませんねぇ!」


2人の通信を遮るように、別の音声が飛び込む。


『カプセルのパラシュートが外れて加速しています! このままじゃあと5分でカジノタワーに落下します!!』
『仕留められるか!?』
「やるしかないでしょう!!」
『っ安室さん!!!』


コナンの緊迫した声が届く。同時に、降谷の息を呑む音も耳に運ばれ、冴は眉間に眉を寄せた。遠くから何か大きな車体が近づく音が聞こえる。まるで電車のような――


『しっかりつかまっているんだ!!』
『だってあれ、ゆりかもめじゃーー!』
『舌を噛むなよ!!』


まさに、電車であったらしい。だがこの会話で冴は降谷たちの現在地をおおよそで把握した。走行を続けながら目の前に聳え立つ彩り豊かなカジノタワーを映す。何かないか、そう視線を泳がせていると、とあるビルが希望を見せた。





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