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後には戻れない

拍手夢

「つまり、この状況下で犯行が可能な人物はただ一人だけなんですよ。」


鋭い瞳がコチラを射抜く。
初めて会ったときは、なんて美男子なんだと惚れかけたのに。
性格も技量もヨシときた最良物件だと思ったのに。
まさか、こんな形で向き合うことになるとは。


「貴女しか、いないんです。」
「……。」


少しも逸らされないその視線から、逃れるすべはない。
重々しくため息をついて瞼を伏せる――それが答えだった。


「あーあ。後、この男だけだったのに。」
「ひっ、」
「この男さえ始末すれば、あの人の敵を討てたのに。」


前髪を思いきり掻き上げながら、身体を震わせて後ずさる男を睨みつける。
こんなビクビク震えている小心者に、自分の大切な人を奪われたのだ。
そう思うと、再び腸が煮えくり返った。自分の中でこの殺意を抑えられない。


「復讐……ですか。」
「そうよ。私の兄はこの男たちに騙されて殺されたの。行く当てのないこの男たちを、兄は助けたのに、それを仇で返したこの男たちにね!!」


それを、たかが一人の男に邪魔されるだなんて。
探偵だと自称する――こんな優男に。


「確かに彼らのしたことは立派な犯罪だ。赦されることではない。」
「だったら殺させてよ。後そいつだけ殺せば、私の復讐は終えられるの。」
「そうして残るのは、永遠の虚無感だけですよ。」
「綺麗ごとよ。この痛みは、貴方にはわからないわ、安室さん。」


どうしてこの人のこと、追い出さなかったんだろう。
この豪雨の中、一晩だけだからと泊めたのが間違いだったのだ。
彼に邪魔されるだなんて、思いもしなかった。
長年費やしたすべての計画が、全て無駄になってしまった。


「ええ、分かりません。ですが僕は、貴女にこれ以上罪を重ねてほしくない。」
「……。」
「……残念だ。貴女が犯人じゃないと、僕はそれを証明したかったのに。」


自虐に満ちた笑みを向けられる。
ああ。この人ともっと早く出会えていたら。
そんなむちゃくちゃな思いに駆られる。


「安室、さん……。」
「ですが犯した罪は消えません。貴女には、これを償ってもらおう。」


もちろん、と彼の綺麗な瞳が汚れを見るように変化した。


「この男にもです。」
「ッひ……!?」


遠くから聞こえるサイレンは、ようやく到着した警察の音だ。
計画を失敗した挙句、捕まるだなんて情けない。心の中で大事な兄に謝罪をする。
何故か脳裏では、兄は悲しそうに首を横に振った。どうして。


「お聞きしてもいいですか。」
「……なんですか。」
「どうして僕を、追い出さなかったのです?」
「……。」


どうしてだろう。
全身ずぶぬれで門を叩いた彼が哀れだったから?
一般人に、まさか犯行を暴かれるだなんて思いもしなかったから?


「……さあ。」
「そうですか……。」


残念そうに微笑む彼が、一歩近づく。


「迎えに行きますよ。」
「え?」
「貴女が罪を償ったら、次の人生を僕に注いでください。」
「何言って……。」
「僕は、ここの門を叩いてよかったと思っています。貴女に会えた。」


その瞳から目を離せなかった。
警察の人に手錠をかけられ、背中を押されるその時まで。
その大きな瞳から目が離せなくて、不思議と涙が流れた。

ああ、やっぱりこの人と早く出会いたかった。
そうすれば私のこの気持ちを――素直に伝えられたかもしれないのに。


「兄さん……私、なんてことしてしまったの……。」


瞼を閉じたときに浮かんだ兄の姿は、眉を下げながらも優しく微笑んでくれていた。


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――『後には戻れない』/D.C-Amuro.
Thank you,Clap.

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