D.C | ナノ

Origin.


邂逅を願います


「へぇ、じゃあお姉さん、帝丹高校の先生なんだ!」
「うん、そうなの。」
「こんな素敵な先生がいるなら、ボクも帝丹高校に行きたいです!」
「あら。光彦君は嬉しいことを言ってくれるのね。」
「お、オレだって同じこと思ってたぜ!?」
「ふふふ、ありがとう。元太君も男前じゃない。」

「(おいおい、どーなってんだよ……。)」



呆れたように息を吐くコナンに気づいた歩美が、小首を愛らしくかしげる。


「コナン君も、そう思うよね!」
「あ、あぁ……そうだな。」
「あら。歯切れが悪いのね。」
「うっせ、」


横目でほくそ笑む哀は気づいているのだろう。
少年たちが目を輝かせて見つめている女性が――



「(知ってるっつーの。なんてったって俺の高校の、数学の先生なんだからな。)」
「コナン君って不思議ね。」
「え?」
「さっきも思ったけれど、とっても冷静で物怖じしないし。この子たちの保護者みたい。」


ドキっと心臓が飛び跳ねたのは勿論、コナンだけだ。


「そ、そんなことないよ〜? あの時はボクも必死だったんだもん!」
「コナン君は、今までにもたくさんの事件解決させてるんだよ!」
「少年探偵団のリーダーはオレ!」
「あらあら。」


ふふ、と笑うナマエを助けたのはつい先ほどだ。
いつものように少年探偵団と休日にサッカーをしていたら悲鳴が聞こえた。
敏感に反応したコナンの先には、あからさまに怪しい男。
懐に抱えた女性もののバッグですぐに感づき、元太が高く上げたサッカーボールを利用してその男を撃墜させたのだ。

そしてそのバッグの持ち主が、新一の高校に配属されている女性高校教師だったわけである。
名前をナマエ。落ち着いていて、女性らしさにあふれた言動にかなり人気を誇っている。
本人はそれに気づいているのか否か、常にのほほんと笑顔を浮かべているので尚更。


「(ったく。昼間からカバン盗られるなよな。)」
「ありがとうね、コナン君。さっきのカッコよかったわよ。」
「え? あ、あはは〜昨日見た試合のマネしてみたんだあ〜!」


コナン君ばっかりズルいです!
などと聞こえてくるそれを無視して、コナンは重々しく息をついた。


「ふふ、」
「どうしたんですか、ナマエ先生?」
「ううん……コナン君がね、私の生徒に似ていて。」
「(お、おいおい……。)」


歩美と繋いでいた手をさりげなくほどき、ナマエはコナンの顔を覗き込む。
じっと見つめられるその瞳に、コナンはすうっと視線をそらした。
すると更にナマエは笑みを深める。


「あら、そんなに似ているのかしら?」
「ええ。やんちゃで可愛くて、無茶する私の生徒に――この視線のそらし方もそっくりよ。」
「(バーロー、そっくりも何もオレは……。)」
「あー! やっぱり、ナマエ先生じゃない!?」
「本当だ! 先生こんにちは!」


視線が外れたことにほっとするもつかの間、向かいからやってきたのは蘭と園子。
また面倒なのが来たとコナンは重々しく吐きそうになる溜息を堪えるしかなかった。
それを見た哀が静かに口元を緩めたのは誰も見てはいない。


「もしかしてこの子達が何か……?」
「ううん、この少年探偵団に助けてもらったのよ。それでお礼の一つでもしようと思ってね。」
「そうだったんですか!」


若い女子高校生が2人増え、更ににぎやかになる。
どこへ向かうのかと思えば、探偵事務所の下――


「私たちもポアロによる予定だったのでちょうどよかったです!」
「ガキんちょどもも同席できるのを光栄に思いなさいよ〜?」
「ボクたちに同席しようとしているのが園子お姉さんではないですか……。」


ぼそっと呟いた光彦に園子が怖い顔をしたのは、言わずがな。
ナマエはそんな彼女たちのやりとりに静かに笑っていた。
頼んだ飲み物を口にしながら、中でも歩美がナマエを見上げて口を開く。


「ナマエ先生って、本当にキレー……!」
「あら。私から見たら歩美ちゃんだって可愛いわよ。きっと蘭ちゃんたちくらい成長したら、相当美人さんになるはず。」
「ほ、ほんとうに……!?」
「もちろん。私はいろんな子たちを見てきたんですもの。それくらいわかるわ。」
「じゃ、じゃあオレも!」
「ええ。元太君も、光彦君も、哀ちゃんもコナン君も、皆素敵な姿で身も心も成長しているわ。私が保証します。」


彼らの頭を優しく撫でるナマエの姿に次は蘭は顔をきらめかせた。



「ナマエ先生、せ、せっかくなので一つだけ聞いていいですか?」
「ええ。なあに?」
「その、……恋人っているんでしょうか?」
「(なんつーことを聞いてんだよ……。)」
「ウチの高校じゃ先生人気だから、いるって分かったら男ども落胆するわよ。」
「そうそう!」


きゃっきゃと盛り上がる彼女たちにコナンはストローを咥えて呆れたような表情をする。
さて、どんな返答をするのかとナマエに視線を移したとき、彼の口元が制止する。


「(先生……?)」


その表情が、一瞬、酷く悲しいものになったのだ。
だが本当に一瞬ですぐに彼女が微笑んだ。


「やあね、こんな年増、捕まえてくれる男居ないわよ。」
「えぇ!?」
「と、年増だなんてそんな……! 先生とっても美人ですよ!」
「ねーちゃんって、何歳なんだ?」
「コラッ、女性に年齢聞くもんじゃないわよ!」
「ふふ、気にしてないわよ。そうね、もうすぐ29、かな。」
「に、29〜!?」
「全然見えない……。」


一体、今の表情は――?
盛り上がる彼女たちの中で、コナンだけが目を細めて何かを考えていた。
その視線に気づいたのか、ナマエの視線がこちらへ向く。
やべっとジュースに視線を落とし、さりげなく様子をうかがうと、すでに彼女の視線は少年たちに向いていた。


「じゃあ、好きな人もいないんですか?」
「そうね……いないこともないんだけど、」
「けど?」
「どこで何をしているのか全く分からないの……。」
「え?」
「昔の幼馴染でね。警察学校に入ってから一度も連絡とっていないのよ。」
「(へぇ、ナマエ先生の幼馴染は警察の人間かもしれねーのか。)」


案外、身近にいるかもしれない。
そう思ったのはコナンだけではないようだ。


「だったら探しましょうよ!」
「え?」
「ボクたち、警察にツテありますから!」
「(オイオイ……。)」


脳裏に浮かんだ犠牲者は――そう、彼しかいない。


「ふふ、ありがとうね。でも大丈夫よ。」
「けど……。」
「彼ならきっと、今もどこかで走り回っているはずよ。そう、きっと。」
「ナマエ先生……。」


その時、ポアロの扉が鐘の音と共に開く。


「あー、探偵のにーちゃん!」
「安室さん!」
「おや、蘭さんたちにコナン君たちではありませんか。いらっしゃい。」
「ラッキー! 今日は安室さんがいるのね!」
「ちょっと園子、よしなよ……。」
「だってこんなイケメンそうは拝めないわよ。ね〜先生だってそう思うわよね?」
「……先生?」


先に気づいたのは園子だった。そして蘭が気づき、皆が彼女を見る。
初めてみるほど驚愕の表情を浮かべているナマエを。


「…………。」
「せんせー? どうしたの?」
「はっは〜ん。こりゃやられたわね。」
「やられたって何がだよ? まさか先生、腹壊しちまったのか!?」
「そういうことではありませんよ、元太君!」
「きっとナマエ先生、安室さんに一目ぼれしたんだよ!」
「ひとめ、ぼれ……? なんだそれ、食いもんか?」
「まったくガキどもときたら。」

「(違う。どこをどう見たって、安室さんを見て驚いている。まさか、)」


にぎやかになる彼らの言葉など入っていないかのように、ただナマエは安室を一点に見つめていた。


「ふふ、楽しそうですね。いらっしゃいませ。」
「……え、ええ、お邪魔しています……。」
「ゆっくりしていってくださいね。」
「……。」


顔色一つ変えずにカウンターへ向かう安室の姿を、ナマエは追う。


「(まさかナマエ先生は、安室さんのことを知って……!)」
「先生、どうしたの?」
「あ、ええ、なんでもないの。そう、知り合いに、とても似ていて……。」


動揺した様子を隠せないナマエは微笑む。
それは眉が下がって、どこか悲しそうに映った。


「(先生の幼馴染は警察学校に入ったって言ってたよな。なら、安室さんがその幼馴染? いや、だがそれにしては安室さんには一切動揺した様子はなかった。つっても、先生もただ知り合いに似ていて驚いただけにしては、……。)」


.
ツヅク

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -