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Origin.


まことの緋色

拍手夢

信じたかった。
貴方が生きていることを。

信じられなかった。
今、目の前に貴方がいることが。


「あ、あか……。」
「……ただいま。」
「赤井、さ……!」
「……悪かったな。」


この顔も声も頬を撫でる大きな手もこの温かみも。
全部全部、紛れもない赤井秀一そのもので。


「あかい、さッ……赤井さんっ!!」


ずっと会いたくて、ずっと会えなくて。
狂おしいほどに求めていたその人が目の前にいる。


「赤井さぁん……!」
「フ…相変わらず泣き虫だな。」
「だって、だって赤井さん、赤井さんなんだもの……!」
「どういうことだ。」


意味不明の言葉に、赤井は苦笑しながら頭を撫でた。

ジョディは赤井さんならぬ「沖矢昴」に会ったことがあるという。
だが、コチラはその沖矢昴にさえ会ったことがなかった。
こんな酷いことがあるだろうか?


「ずっと、会いたくてっ、」
「ああ。」
「なのに赤井さん、顔出してくれないし……!」
「当然だろう。俺は死んだことになっているんだから。」
「でもでもッ!」


沖矢昴の姿で会いに来てくれれば良かったのに。


「お前に会うと、自分が抑えられなくなりそうだったからな。」
「も〜! そうやって都合のいい事ばっかり言う!」
「事実を言ったまでだ。」


赤井の胸元に寄り添って、背中に腕を回す。
この熱を感じたくて仕方がなかった。


「……、赤井さん。」
「どうした。」
「本当に、赤井さんなんだもんね。」
「随分疑ってくれるんだな。」
「だって……。」


一時期、彼の姿に扮した黒の組織の仲間がいた。
本当に赤井さんが死んだのかどうか、身近な人物の反応を見ていたという。

当然、コチラの前にも現れた。
思わず絶句して身体が硬直してしまったが、去り行くその姿を追いかけたのは記憶にある。
その姿を再度捕らえることはできなかったが……。


「安心しろ。もう心配することはない。」
「……うん。」


背中をゆっくりとした動作で撫でられる。
まるで赤子を宥めるような仕草のように感じられた。

暫くそうやってお互いの鼓動を確かめ合う。


「ねえ、赤井さん。」
「なんだ。」
「……これからどうするの?」


赤井秀一の生存が発覚したのだ。
普通に本来の姿で振る舞ってもおかしくはない。

だが、


「幸い、沖矢昴が赤井秀一だという決定的証拠を掴み損ねた。」
「え?」
「バーボン、安室透だ。暫くは、沖矢の姿で様子見だな。」
「……そう。」


つまり、今のように温もりは味わえないということだ。
仕方のないことだと分かってはいても、本心がそれを拒絶する。

ずっとこのまま、こうしていたい。
大好きな人の腕の中にずっといて、彼の声を耳元で聞いていたい。
瞼を閉じて、更に赤井に身を寄せた。

赤井も、そんな思いを感じ取ったのだろう。
自分とはあまりにも違う、華奢な身体を引き寄せた。


「お前がいいのなら、」
「?」
「お前がいいというのなら、俺は傍にいたいんだがな。」
「……それ、って……。」


赤井の姿ではいられない。
だが、傍にいたいという。


「沖矢としてお前の傍にいることは、許されないか?」
「……そんなわけ、ないじゃないの……。」


彼が傍にいてくれることがなによりもの幸せだ。
一度は冷えたこの身体を確かに今、彼自身によって温められている。
この幸せを、手放すことなんてできない。


「赤井さんは、それでもいいの?」
「ああ。お前が『沖矢』にベッタリしなければな。」
「んもう……そんなの無理だよ……。」


叶うなら、1日でも早くその素顔がまた拝めるようにと。
心の中で存在すら不透明な神へと祈り、瞼を閉じた。


同時に下りてくる温かい彼の口付けが恋しくて、恋しくて。
静かに涙を流した。


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(20150627)

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