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Origin.


「うひゃっ!?」


ナマエの奇声が薄暗い廊下に響く。慌てて口元に手を当てるが、当然その高音は響いているわけで。当然目の前に現れたその人物の耳にも届いているわけで。当然、気まずくなる。


「あ、あ、あのっ……!」
「……。」
「あの、えっと、……ご、ごめんなさいっ!」


言葉に詰まりながらも、ナマエは勢いよく頭を下げた。美しいほど直角に腰が折れ曲がっている。だが目の前の男、ライは何一つ言葉を発さない。元より口数が少ない男だ。一層気まずさを胸に抱きながら、ナマエは頭を挙げられずにいた。何も言わずに立ち去ってほしい、早く、と心の中で冷や汗をかきながら祈っていると、肩に手が置かれた。びくりと身体が反射的に飛び跳ねる。


「あああああの、暴力だけは……!!」


組織の人間とは思えない弱弱しいそれを無視して、肩に置かれた手に力が込められた。ぎゅっと目を瞑り、来るであろう衝撃に耐える。だが、いくら待っても与えられる衝撃はなかった。恐る恐る、瞳を開ける。コンクリートの床と、自分の足しか見えなかった。「あれ?」とナマエが呟いたのと同時に、肩に置かれた手に再び力が籠められる。だがそれは、決して肩を握りつぶそうとする野蛮なものではない。頭を下げていたナマエの上半身を起こす動作だった。


「へっ?」
「腰を悪くするぞ。」
「…あ、はい。」


思いがけない言葉にナマエは目を丸める。怒ってはいないらしい、と自覚をすると同時に、肩から伝搬してくる高熱に頭がオーバーヒートしかける。


「ら、ライッさん!」
「どうした。」
「て、手、!」
「…? ああ、失礼。」


何のことだろうと首をかしげていたライだが、ようやく理解したのか手を離す。途端にほっとナマエが息を吐くと、ライは目を細めた。


「ところでなぜ、君がこんなところに。確かチリに派遣されていたはずではなかったか。」
「ベルモット様に呼ばれて只今、来日しました!」
「そうか、疲れただろう。」
「え、いや、あの……大丈夫、です。」
「少し乱れてる。」
「うええっ!?」


離れたはずの熱が戻ってきた。ライの大きな指先があろうことかナマエの髪を解きほぐしている。これには彼女も目を丸め、顔を羞恥で赤く染めた。身体は硬直し、指先すらもピンと張りつめて動かない。


「雰囲気が変わったな。」
「そっう、ですか!?」
「ああ。随分、大人びた。」
「あ、あり、ありがとうございますぅ……!」


動揺しているために声は普段と比べて上擦り、どこか震えている。ライはこれに喉で嗤った。それだけの反応であったにも関わらず、貴重なその反応がナマエの心を高鳴らせる。


「これでは悪い虫がつく。もとより巣窟にいるんだ。気を付けた方がいい。」
「ムシ……えっ、まさかムカデじゃないですよね!? 使ってるシャンプーにつられて虫集るってことですか!?」
「……いや、そういう意味ではなかったのだが。」
「ひゃぁあ、それは困ります! 私本当に虫はダメで特にムカデなんて見ただけでもう失神する自信しかありませんし絶対に倒れた私の身体をヤツが這い回ると思うと身体ごと消毒してもしきれないというかもう死にたくなります!!!」


突然の暴走にライは目を瞬かせた。ここまで彼女は天然だったのかと驚きながら、激しく混乱している彼女の頭に手を乗せた。途端、ピタリと電池が切れたかのように言動が制止する。自分の動作一つひとつに素直すぎるほど反応を締める彼女に対して、無意識にとってしまったといっても違いはない。


「……手を出されそうになったら叫べ。」
「…はぁい…。」

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