5周年記念 | ナノ

背けた先の鏡が未来を反射する


おれが求めているのは、音楽に関する知識じゃない。
歌唱力だって要らないし、音楽用語なんて覚えなくたっていい。
ましてや作曲に関することなんてむしろ知らない方がいい。

おれの隣に『彼女』が居て『彼女』の隣におれが居ればいい。
普段と何も変わらずにそのままで在れれば十分なんだ。


「だからさ〜なまえ早く終わってくれよ〜!」
「待って、まだ。」
「なまえー……そろそろおれも寂しいってば! おれの存在が宇宙へ拡散されてしまうぞ? そしたら二度と会えないんだぞ?」
「レオ、これってどういう意味なの?」
「うぅううう……!」


まったく!!
そんなキョウカショなんて放っておけばいいのに!
なまえときたら「音楽を勉強する」なんて一番要らないことを天高々に宣言して!


「いつまでも拗ねてないでよ、レオ。」
「たかが合唱コンクールだろ? なんでそこまでやるんだよぉ。」


来月に迫る合唱コンクールで、なまえがピアノを担当することになった。
っていうか高校にもなってあんの? あれって中学まで仲良く合唱しましょーじゃないのか?
ハッキリ言ってあんな規則正しい音楽は面白くないから、おれ嫌いなんだよなあ。


「言ったでしょ、せっかくなら勉強したいの。レオがやっていること、少しでも解りたい。」
「うう〜そういえばおれが納得すると思ってんだろぉ……!」
「思ってる。」
「うぅうう……! なまえなんてキライだ!」


はっきりいって、面白くない。
ピアノは好きだし音楽は大好きだけどっ!
なまえにはもう、曲を弾いて表現できる力はもう十分にある。
それなのに……。


「このままじゃおれが作曲できない!」
「なんで。」
「なまえが構ってくれない!」
「関係ある?」
「ある!! 草木が光を必要とするようにおれにもなまえが必要なのに!」
「私としてはレオのしていることを知りたいだけなんだけど。」


嬉しいさ。そりゃあ『彼女』がおれに繋がることを知りたいと思うのは。
でもさ、でもさ? だからっておれを放置してまですることか〜?
こんなの『王さま』放置して勝手に進軍する騎士のすることだぞ?


「だってさだってさ?」
「なにさ。」
「なまえ、せっかくおれだけの『彼女』になったわけじゃん?」
「……。」


あ、照れてる。かわいー


「おれの『唯一』が他向いていたら、つまり道案内の標識が壊れているってことだろ?」
「そういうことなの?」
「つまり迷子になるわけだ!」
「レオが?」
「そう、おれが! なまえはまだうっちゅ〜☆もできないんだからおれと一緒じゃないとダメダメ!!」


ああ、分かってない分かってないぞなまえ……!!


「そもそも! なんでピアノ選んだんだ? ほかにも居たんだろ、できるヤツ。」
「いたけど……。」


あ。
なまえ、まだおれに何か隠してるな?


「なまえ。」
「……怒らない?」
「……がんばる。」


今こそおれに、世界で一番重厚な鎧を纏わせるべきだ。
中に宿る意識を散り散りにさせて突くだけで弾ける思考を持つべきだ。
ああ――だってそうだろう?


「『fine』で長髪の人が弾いてたピアノ、綺麗だったから……。」


こんな爆撃落とされるなんてさすがのおれでも想像つかなかった。


「……。」
「……。」
「……。」
「おこってるでしょ。」


当然だ。
頭の中で懸命に妖精さんたちがおれの思考を遮っている。
これ以上考えるなと言わんばかりに羽の羽ばたきをあえて大げさにして、おれの眼を覆い隠してくる。
ああ、愛らしい妖精さんたち! いつもおれを誘う天使がどうしておれを妨げるんだ……!?


「おこッ……て、ない……!」
「……うん、ごめん……。」


はぁ〜〜。
なまえが悪いわけじゃない。おれが勝手に嫌だって感じているだけ。


「なまえは、」
「うん。」
「ちゃんとおれの傍にいるよな……?」
「当り前じゃない。だって、私たちそれを望んでここにいるんだよ。」
「……うん。」
「ごめん、レオごめん。」


あ〜もう、こんなんじゃセナに笑われる!
もっと寛容に、おおらかにならないといけないのに!


「でも、きっかけがソレだっただけでさ。」
「うん……。」
「理由はやっぱりレオしかないから。」
「……ん。」
「これじゃ、ダメ?」


あーあ。
女性に気を付けわせちゃ男として廃るよな! そうだよなセナ!!


「んーん! ダメ、じゃない!」
「……なら良かった。」
「ごめん、なまえ。」
「ううん、私も悪かったから。」


きっとこうやっておれたちもっと仲良くなれるんだな!
そうして物語が紡いでいって、1曲のメロディーが生まれるんだ。

ああ…霊感が湧いてくる……!
この小さな波乱が曲となっておれの中に降臨してくる……!!


「ね、レオ。これってどういう意味?」
「待ってくれなまえ! 今、まるで絶世の美女のような曲が生誕しようとしているんだ……!」
「絶世の美女……?」


あああ……きっとこれはおれとなまえの物語の一節なんだな!
これはすぐに書き留めなければならない!
世界に広めるんだ、おれたちを!


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夏流様より月永連載『アイドル科の王さまと普通科の娘』の番外、もしくはIFで「ヒロインが他のアイドルのライブを観てその話を王さまにする→王さまがヤキモチを妬く」でした
連載夢主で後者の設定を使わせていただきました〜〜月永氏ワカラン(*´ω`)

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