5周年記念 | ナノ

穏やかなとある日


大きな溜息が扉の閉まる音と同時に部屋に木霊する。


「あぁ〜疲れた。」
「お疲れ様です、なまえさん。」
「ありがと、ジュード君。」


コトリと目の前に置かれたカップに口を付ける。
ふんわりと鼻をくすぐる上品な香りは、今日、教授がお偉いさんから貰った紅茶であることを証明させる。


「すぐ戻ってこいっていうから何かと思ったら、まさか式典に同行しろだなんて……。」
「なんでも参加自体、今朝決まったらしいですよ。教授も大慌てでした。」
「グチ言いながらでしょ?」


絶対にそうに違いないと確信しつつ、尋ねれば、愛らしいジュード君は苦笑しながら頷いた。
真正面のソファに腰を下ろして蜂蜜色のきれーな瞳がこちらを映す。


「でも、本当に魔物が襲ってくるとは思いませんでしたね。」
「まあね。ただあの街道は最近、魔物が活発化していることで知られているから……。」
「えっ! そ、そうだったんですか!?」
「知らなかったの?」
「は、はい……。」


あちゃー…そりゃ、驚くわけだ。
重役や博士、ジュード君たちを乗せた馬車からはあの数も見えなかっただろうなぁ。
結構たくさんいて、面倒だったんだけども。主に、他の用心棒たちをケガさせないのが。


「なまえさんを連れてきて正解だったって、博士も言っていましたよ。」
「すっごい嬉しくない情報ありがとう。結局式典はものの数十分で終わるし、何のために行ったんだか分からなかったけどねぇ。」
「で、でもあそこには著名な研究者の方々がいっぱいいて!」
「ジュード君はさぞかし嬉しかったでしょうねぇ……。」


ウッ、と行き詰らせる様子は、普段と何一つ変わらない。
あーかわいいなぁ、愛でたいなぁ……。


「な、なんですか……ジッと見つめないでくださいよ!」
「だって可愛いんだもん?」
「もうっ! なまえさん!!」
「あはは、その反応が尚更可愛いんだよ〜もう!」


隣に座っていたらその頭抱え込んでなでなでしてたわ。
ぷくりと頬を膨らませているのがまた愛らしい他ないよね。


「ところでなまえさん。」
「ん?」
「教授は……。」
「学園長に報告中。その後はすぐに会食らしいから今日は戻らないと思うよ。」
「そうなんですか……。」


おや、何か用事でもあったのかしら。
私の考えを察してなのか、ジュード君はすぐに首を横に振った。
その時に靡く短い黒髪にも何故か愛着がわく。ん〜、ジュード君なんのシャンプー使ってるんだろう。


「別に用事はなくて。ただそれだと、なまえさん夕食食べないですよね。」
「食べないね。」
「ダメですよ!!」
「怒らない、怒らない。まだ眉間にしわ寄せるには若すぎるよ。」
「もう、ごまかさないでください!」


たいてい、教授がごはん買ってきてくれるからそれ食べてるんだけど、そういえば今日いないんだった。
きっとジュード君は優しいから、私のことを気にしてくれているんだね。さすができる子!


「まったく……。」
「じゃ、作って?」
「んもう。」


しょうがないですね。と言いつつも、多分ジュード君、もとよりそのつもりだったな。
研究室に置いておくには少し大きめの冷蔵庫を開けて何やら呟いている。
これがあれば何が作れるだの、あれの賞味期限がギリギリだの、主夫か。


「なまえさん、この中にあるものでもいいですか?」
「必要なら買い物くらい行くよ?」
「あ、いえ。疲れているでしょうから、簡単でよければこの中の食材で作れます。」
「あら凄いのねぇ。さすがジュード君。」
「茶化さないでくださいね。」
「はいはい。それじゃ、お願いいたします。」
「はい!」


いくら一人暮らしとはいえ、親の手助けもなしにこうしてよく頑張っているよなぁ。
すぐに料理の下準備を始めたその小さな背中を見つめつつ、そんなことを思う。


「ジュード君は、いい奥さんになりそうですね。」
「奥さんなんですか!?」
「え、違うの?」
「違いますよ!! もう、わざとでしょうなまえさん!!」
「うん。」
「〜〜!」


あら、頬のふくらみが大きくなった。
元々白めの肌も赤みを増して、きっと怒りよりも羞恥なんだろうなぁ。


「で、でも……。」
「ん?」
「……なまえさんが料理できないなら、きっとできる人をお相手にしますよね……。」
「そうねえ、居たらね。」
「……。」


ふふ、見る見るうちに真っ赤になっちゃって。
別に遊んでいるわけではないけど、どうしても意地悪はしたくなってしまう。
こんな素直に反応する子を弄らずにいられるだろうか。


「ジュード君なら完璧だねぇ〜。」
「ッ、」
「今日も美味しいごはんが食べたいな?」
「が、……頑張り、マス……。」
「ん!」


身体を硬直させて、包丁をぎこちなく動かしていた。


「ケガはしないようにね。」
「はい。なまえさんはくつろいでいてくださいね。」
「ありがと。」


じゃ、遠慮なく武器の手入れでもしますか!
手入れする前に教授に呼び出し受けたから途中だし、魔物も相手したから念入りにしないとね。
きっと終わるころには、いい匂いでお腹が鳴るんだろうなぁ。ふふ、楽しみ。


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柚羽様にて月永orジュード。後者で、連載主を選択させていただきました。
シチュはご指定なかったので、ぼのぼのと2人にはくつろいでいただきましたよ!
時系列としては原作前。まだ夢主が研究所にいるときです。ジュード君を弄っている時期でもあります(笑)

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