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月永

ぽかぽか♪/連載番外編

ぶるりと身体が震えた。
既に雪もチラつく季節に加えて、足元が酷く暖かいからだろう。
いや、雪がチラつく季節だからこその醍醐味ではあるのだが。


「炬燵は魔物よ……。」


外は嫌だと冷たい体温で訴えかける手を厚めの炬燵布団の下に隠す。
途端に温かい世界に包まれて、次は背中が寒いんだと訴えかけてきた。
が、当然上に羽織る以外どうしようもないわけで。

そもそもどうしてこんなに寒いんだ、信じられないと思いながら首を軽く動かす。


「寒い、レオ。」
「ん〜寒いなぁ……!」
「だから閉めて、お願いだから。」
「ん〜。」
「……聞いてる?」
「ん〜……そうだなあ。寒いなあ。」


ああ、ダメだ。
本日3回目の敗北に肩を落としてみる。

我が家に炬燵が登場したことを彼に告げると、彼は目を輝かせた。
自宅にあるであろうに、これを味わいたいというものだから休日に呼んだのだが……。
当の本人は炬燵に入ることはなく何故か窓を開けてぼーっと外を眺めているだけ。
炬燵はどうした、炬燵は。


「寒いんだってば。」
「もう少しで雪が止みそうだから、それまで見てるんだ。」
「どうして?」
「ナマエはおかしなことを聞くんだな?」


おかしなことではないと思うんだけれど。


「この情景をしっかりと見て、ここから世界を拡げるんだぞ。」
「そう。」
「ナマエ、今もう考えるの止めただろ!」


今まで背中を向けていたレオは咄嗟に振り返る。
不満げに尖った口に、少しだけおかしそうに細められた瞳。
ああ、お見通しなんだなと「まあ。」と軽い言葉で返すとにっこり笑われた。


「思考を停止することは息を止めると同じことだって前も言っただろ? ナマエもこっち来て、一緒にこの情景を目に焼けつけるぞ☆」
「激しく遠慮する。」
「なんでだっ!? あ、いや、待ってくれ……!」


いつものように口元に手を当てて分かりきった理由を思案するレオ。
そんな彼をしり目に、再び木目のテーブルに目を落とす。

ああ、寒い。
寒いけど何かを口にしたい。
そしてその何かはまさに目の前にある。


「食べよ。」


炬燵と言えば蜜柑。
よく耳にする言葉ではあるが、元は何処からやってきたのか。


「おれも食べたい。」
「窓を閉めてこちらに来るのが条件です。」
「動けよ〜!」
「寒いから嫌。」


甘い果汁で彼を釣ってみる。
すると、渋々ではあるが鮮やかな橙に惹かれたのか窓を閉めた。
レオの分を籠から取り出すと、すぐに手が伸びてきた。


「美味しく頂いてください。」
「インスピレーションの湧く味だといいな!」
「どんな味。」
「未知の味!」


ないわ。
と、言いたいところを抑えてぱくりと一口更に食べる。
目の前では蜜柑の皮をむき、同様に食べ進めるレオ。
髪の色も蜜柑の色も、同じだ。


「……なんで蜜柑なんだ?」


不意に疑問を発してきた。


「炬燵だから。」
「炬燵だから蜜柑なのか?」
「炬燵と言ったら蜜柑が定番だから。」
「どうして炬燵と言ったら蜜柑が定番なんだ?」
「おばあちゃんに訊いてください。」
「どうして炬燵と言ったら蜜柑なんだ!」
「冬だから温まりながら蜜柑食べたくなるんだよ。」


たぶん。
すると、彼は暫し手を止めて考えを巡らせているようだった。
自然を顎が下がり、少しだけ前髪が目元に垂れる。
寝ているのだろうか?
そう思わせる程、同じ体勢が何分か続いた。

が、突然として静寂が破られる。


「冬だ!!」


そんな彼の、突拍子もない言葉で。


「ナマエ、冬にちなんだ曲をおれは描くぞ!」
「楽しみにしてるね。」
「冬と言ったらなんだ!?」
「ゆ、雪……?」
「他には!?」


真っ直ぐこちらを見据える視線から目を反らせない。
冬と言ったら……


「炬燵、」
「と、言ったら?」
「蜜柑?」
「と、言ったら?」
「……お、美味しい?」
「ありきたり!」


最後の最後でそんな突っ込みが訪れる。


「じゃあ、レオはどうなの?」
「んぁ、おれか?」


私ばかり答えるのは釈然としない。
そんな思いで、同じ質問をしてみる。


「冬と言ったら?」
「ん〜、鍋だな!」
「他に冬と言ったら?」
「寒いからやっぱり吐息だな!」
「ああ、確かに。」


ちょっとだけ、不思議な間があいてから


「白い吐息、雪景色。」
「炬燵で温まって蜜柑、そして鍋。」
「外は少し滑って、マフラーが必要になる。」
「カイロは必需品でいつもぽかぽかに。」


2人でまるでポエムみたいに言葉を連ねる。
同時に、足を迎え入れてくれる炬燵が、ほんのりと温かみを増してくれた。


ごろん、とレオが先に寝転ぶ。
それに乗じて私もごろんと寝ころんだ。


彼の顔は見れないけれど、彼の存在を確かに感じる。
ぽかぽかと、体全身が温まってきた。

少しだけ足を動かすと、不意にレオの足に触れる。
その温もりもまた気持ち良くて目を閉じる。


「……んぅ。」


彼の唇から零れたであろう単語にすらなってない音が耳に届いた。

ああ。もう寝てしまったのだろうか。
そう認識するや否や、こちらの意識も次第に薄くなって。
そこから目覚めるまでの記憶はない。

ただ、温かさに包まれた、穏やかな時を過ごした気がした。



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昔、某企画に提出予定だった1月を題材とした月永氏夢。
もう春だけれど書きたかったのです。完成できてよかった。

あんスタ一周年祝企画-No.1_月永

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