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Origin.


意外で強力な戦力


サマンガン街道を歩いていると、カラハ・シャールへの経路が塞がれていた。
――ラ・シュガル兵が検問を行っているようだ。

必然的に、樹海からカラハ・シャールへ行く道を選択せざるを得なくなった。
ただ、どことなく樹海の暗さに比例して、私たちの間にも険悪な雰囲気が流れている。


「大丈夫、エリーゼ?」
「……けんかはいや…です。」
「仲直りできないのー?」
「安心して、ケンカしているわけじゃないの。心配いらないよ。」
「…で、でも……。」


樹海に入るのに躊躇しないミラと、エリーゼの身を案じ戸惑うジュード君。
この2人の間に、微かなズレが生じてしまっていた。

ケンカ……というわけではないと思うけれど、エリーゼにはこたえたのだろう。
自分が原因でこうなってしまったのではないか、と。


「大丈夫、大丈夫。」
「でもー、さっきからジュード君とミラ君が会話してないよー。」
「ティポ……、」
「おーい。あんまり離れ――っ後ろだ!」
「ッな?!」


アルヴィンの声と同時に背後に気配を感じた。
咄嗟に振り向き槍で身を守るよう構えれば、そこに重い攻撃が加わる。


「っく……!」
「ナマエさん!」
「大丈夫! …エリーゼはさがって!」


エリーゼに視線を落とせば、不安そうに瞳を揺るがす。
脅えてなのか、また自分のせいだと責めているのかは分からない。

けれど今は、とりあえず下がってくれないと、コイツは……。


「ナマエさんっ!」
「っ援護する!」
「ダメ、来ないで!」


咄嗟に戦闘態勢に入り、近づいたジュード君立ちめがけて、魔物の手が伸びる。
まるで矛先のように鋭い枝が、次々とジュード君たちに襲い掛かる。
時には突き刺さるように。時には薙ぎ払うように。


「こいつ、攻撃範囲が広い……全員がダメージを食らっちまうぞ。
「…ったぁ……、」
「もう、くらったがな…!」
「大丈夫?! だから来ないでって言ったのに!」
「おいおい、それが加勢してやって奴に言う言葉か?」
「それは感謝するけど――って、避けて!」
「ったぁ…!」
「クッ、……!」


魔物の攻撃は休むことを知らない。
何とか、その手を跳ね除け、一度体勢を立て直すことに成功した。

何とか態勢を立て直して立ち上がると、エリーゼが近づいてくる。


「エリーゼ、危ないから――って!」


え、…まさかこの子。


「ッ、…――!」


……これって、回復術!?


「これは、みんな一斉に……?」
「この癒しの光は……。」


私とジュード君、ミラにアルヴィンと全員を包んだ巨大な魔法陣から溢れる光。
この眩いほどの光が、先ほど受けた傷を瞬時に癒してくれた。


「元気出して! ぼくたちがいるよー!」
「わたしだって…役に立てます……!」
「助かったよ、エリーゼ。さ、反撃しよう!!」


私はともかくとして、ジュード君を傷つけた報いは受けてもらわないとね。

エリーゼも加えた戦闘では、今までにないくらい早く片付けることができた。
それもこれも、彼女の年齢からは考えられない高位精霊術のお蔭だ。


「まさかこの歳で、こんな術が使えるとはね。」
「エリーゼに救われたな。」


でも、エリーゼ、泣いている?


「うっう……。」
「エリーゼ? どうしたの、どこか怪我した?」
「もう怖くないよ。」
「ちがうの……。」


私とジュード君で声をかけると、エリーゼはとても弱弱しくそれらを否定する。
そしてまるでエリーゼの心を代弁するように、ティポが喋った。


「仲良くしてよー。友だちは仲良しがいいんだよー!」
「わたし……邪魔にならないようにするから……だから……。」


どうやら、ずっとミラとジュード君との雰囲気を気にしていたようだ。
止まない涙に、アルヴィンと目を合わせ肩をすくめる。


「……だってさ。エリーゼに免じて許してやれば?」
「免じるも何も、別に怒っていないが……。」
「ウソーん。ミラ君とジュード君、もっと仲良しだったもんねー!」
「わたし……がんばるから……!」


こんな小さな子でも、…いや、小さいからこそ2人の微かな溝に敏感なのだろう。
そんな彼女の言葉に、ミラが眉を下げて微笑んだ。


「いつの間にか私が悪者か……。ふふ、わかったよ。」
「ほれ。エリーゼに言うことあるだろう?」
「心配かけちゃってたんだね。エリーゼ、ありがとう。」


それにしてもアルヴィンって、やけにスキンシップ激しくない?
今なんてジュード君のみならずミラまで引き寄せちゃって。


「やっぱり友だちはニコニコ楽しくだねー!」
「ミラも、エリーゼの術があれば頼もしいでしょう?」
「ありがとうエリーゼ。これからはあてにするぞ。」


ミラの言葉が嬉しかったのか、エリーゼは満面の笑みを見せた。


「ね、ケンカしてるわけじゃなかったでしょ?」
「…はい!」
「それじゃ、レッツゴー!」


ミラを先頭に、樹海を更に進んでいく。
そろそろカラハ・シャールに着きたいものだ。

どうも小さい虫がうじゃうじゃといて、視界の邪魔になる。
反射的に動くものを見てしまうためか、余計に気を張らなければならない。

――虫、といえば。


「ね、ジュード君。」
「なに? ナマエさ――うわぁあぁあ!?」
「っふふ、まーだ虫はおキライ?」
「ばっ、ばか、ややめてよねっ!?」
「ごめんごめん。でも可愛いよ、ジュード君。」
「う、うう嬉しくないってば……!」


うん。
虫は邪魔だけどジュード君の涙目が見れるのは良いことだ。



(あんな術者と一緒ね。……運良いわ、俺。)
(アルヴィン?)
(お、どうした?)
(……、)
(おいおい、そんなに見つめてくれんなよ。)
(……エリーゼを変な目で見ないの。)
(へーい。)

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