Confiance | ナノ




キザイアの町に着けば、エースはすぐに私から降りた。
あぁ、身体が軽い。人を乗せるのなんて一体どれぐらいぶりだろう?


「今回はありがとうな、チイ。」
「クエェ!」
「お前のお蔭だ。」


自慢の羽毛に、エースの手が触れる。
思いのほか彼の手付きは優しくて、とても心がふわふわした。
不思議だ。あんなにも誰にも触られたくなかったはずなのに。


「エース、凄いな……いつの間に手懐けたんだ?」
「手懐けたって……マキナ、言い方。」
「けど、俺でも触らせてもらえなかったのに。」
「もう。そんな目でエースを見ないの。」
「……、」


ぽつりとマキナがいいな……と呟く。
彼とは何度も対面していたなぁ、初めて会った時は隣にイザナがいたけれど。
どうせマキナもイザナのことを、チチリのことさえも忘れているのだろう。
そんな奴に、触れられたくない。


「チイはただ、チョコボたちを守りたかっただけだよな。」
「クエッ。」
「僕もそうだ、お前たちを守りたかった。」
「……クエッ!」


エースの目は、ときどきとても優しくなる。
怒ったり、疲れたり、楽しそうにしていたり、彼の瞳には物語がある。
きっと今のこの優しい瞳も、院を守れたということがあってのだろう。


「怪我はどこもしていないか?」


穏やかな表情でエースは私の体から鞍と頭絡を外してくれた。
普段は絶対に着けないものなので、不慣れで少し苦しかったのが、一気に解放される。
これも、彼は気付いていたのだろうか?

それから暫く話しをしていると、チョコボに乗って男女が町にやってきた。
どうやら赤いマントが揺れているということはエースの仲間らしい。


「無事だったか、」
「もっちろ〜ん!」
「グランドホーンも相当の傷を負い、奥の方へと逃げていきました。」
「そっか、もう襲ってこなければいいけど……。」


ふむ、どうやらもう危険はないということらしい。
また襲ってこないとも限らないけれど……いや、きっと警備も手厚くなるから大丈夫か。


「今夜はここで休んで、帰還は明日にしましょう。」


金髪の男――多分、トレイというのだろう。彼のその言葉で、私たちは宿舎へと向かった。
無論、私たちチョコボは屋外にある少し古ぼけた小屋が宿舎に該当する。


「…………。」


夜。少し冷たい夜風が私たちの体を襲う。
とは言っても、そこまで寒くはない。


「クエェ。」
「クエッ。」


同じチョコボ同士で身を寄せ合えばとても暖かいのだ。
彼らと「今日はお疲れさま。」と言い合ってお互いを労わる。
やけに今日という日は長く感じたものだ。


「――……。」


エース。
彼は、私たちが思っているよりもマシな人間なのだろう。
私はそんな彼に応えられただろうか。


「寒くないか?」
「、!」


もう就寝していると思いきや、彼がやってきた。
大き目の毛布を手にしている時点で、私たちを気遣ってくれたのだと分かる。


「クエェ〜。」
「クーエ!」
「よしよし、今日はありがとうな。」


皆の頬や頭を撫でたりして、彼は微笑む。
ありがとうだなんて、作戦終了時にも聞いたのに。
律儀な男だ。


「明日は早くに此処を出るから、疲れを取っておいてくれ。
チイは特に、無理をさせてしまったからゆっくり休んでおくんだ。」
「クエェ。」


エースが私にも毛布をかけてくれる。


「おやすみ。」


彼のその言葉を聞き、私はゆっくりと目を閉じた。
頬を一撫でされる。

私の心は完全に、彼を受け入れていた。


 落ちれば最後



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