1周年記念代打 | ナノ

Origin.


 散らばって掴む


執務室には、今宵も淡い灯だけが揺れていた。
静かな空間に包まれ、普段は気にならない紙やペンの動く音がやけに響く。

乾いた瞳を潤すように何度も瞬きをし、大きなデスクに向かう彼に声をかけた。


「さーがっ、」
「起きたのか、ナマエ。」
「ん。まだやってたのね。」


欠伸を1つ噛み締めて、ナマエはその場で体を伸ばした。
血が全身に勢いよく流れていく感覚に襲われる。


「今夜も終わりそうにない。先に帰っててくれ。」
「ちょいちょいちょい! さすがに詰め込みすぎじゃない?」
「そうも言ってられん。此処の書類は、明日の朝一番に届けねばならないからな。」
「あり? つまりそれって、徹夜ってこと?」
「そうなる。だから先に――…。」


はぁ。とサガの発した言葉に被るようにナマエは大きな溜め息を吐いた。


「…悪いと思ってる。」
「……そりゃ、多少そう思ってくれないと困りますけども。」
「とにかく、今夜は先に寝てくれ。…送ってやれずすまない。」


声だけを聴けば本当に申し訳なさそうに伝わるのだが、サガの手は決して止まってはいなかった。
顔も書類だけを見つめ、こちらを一瞥すらしない。
ナマエはまた溜め息を吐くと、静かにその場を後にした。


「で、今夜も1人帰りか。」
「もーカノンからも何か言ってよー弟だろー。」
「俺が言ったところで止むようなら、とっくに止めてるだろ。」
「ですよねぇー…。」


はぁ。とまた重い溜め息が吐き出される。
カノンは頬杖をつきながら、眉間に眉を寄せた。


「あんな愚兄のどこがいい。」
「あんな愚兄様でもお優しいしかっこいいしお美しいし可愛らしいし頼りがいあるんですよーだ。」
「面食いか?」
「うっさい。」


ナマエはカノンを睨むも、それにはまったくの覇気がなかった。
睨みながら溜め息がまた零れる。


「帰ってこないのか。」
「みたい。朝一で届けなくちゃならない書類も山ほどあるみたいだしね。」


両手を大きく広げてこーんなに! と表現して見せる。


「カノンおにーさん、私は大変寂しいです。」
「俺じゃなくてアイツに言え、アイツに。」
「あんな頑張ってる姿見て『私に構って』なんて言える?」
「言えるだろ。」
「言えねーよ。」


またしても、溜め息ぽろり。
カノンはそんなナマエを見て、前髪をかきあげた。


「……向こうに泊まって、いつも通り執務をするってことだな。」
「そうなるねって今言ったよ。馬鹿?」
「殺すぞ。」
「すいやっせん。」
「……ったく、来い。」
「え、ちょ…!?」


カノンは項垂れるナマエの腕を引っ張って無理やり立たせると、自室へと向かった。


「えっ、え…?」
「お前はここで寝とけ。」
「ぎゃっ!」


そのまま勢いよくカノンはベッドにナマエを突き倒す。
変な格好でベッドに俯けになることになったナマエは、目を瞬かせた。


「……、カノンおにーさん。」
「なんだ。」
「……浮気、ダメ、ゼッタイ。」
「馬鹿か。」
「馬鹿ってなに!」


体を勢いよく起こすと、その額を小突かれる。
カノンは複雑な表情を浮かべていて、ナマエは思わず口を閉ざした。


「アイツのベッドで寝たら、温もり恋しくなって寝る癖に。」
「……、覗き、ダメ、ゼッタイ。」
「だったら泣くな。」
「……じゃーソファで寝る。」
「そんなこと知れたら俺が殺される。」
「カノンのベッドで寝てる方が問題だと思いまーす。」
「今日は帰ってこないんだろ?」
「……そう、だけど……。」
「俺がソファで寝るから、お前はそこで寝てろ。」


カノンはそれだけ言うと、自室を後にした。
閉められた扉を見つめながら、ナマエは小さくバーカと呟く。


「……泣いてないし。」


不器用な優しさが、なんとなくサガと似ていて、結局涙が零れてきた。




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