「リヴァイさんの愛情表現は二十点ですね」



雑誌から顔を上げナマエを見ると、ツンと顔を逸らし不機嫌をアピールした彼女。リヴァイは黙ったまま見つめた後、再び視線を雑誌へと落とした。さて厄介な事になった、とは顔にも言葉にも出さないまま。大きな溜息は心の中だけで吐き出す。

お互いが休日の日曜日。特に予定も立てないまま、ナマエからの外出の提案もなくリヴァイ自身も出掛けたいとは思わず。何となくお互いにそんな空気で休日を室内で過ごす事になったわけだが、それがどうやら彼女のお気に召していなかったようだ。

何かあったなら言えば良いだろ

そう言ったら言ったで彼女が不貞腐れるのは明白。長い付き合いで十分理解しているからこそ言葉にはしない。



「今日は天気がいいですねー、風も強くなくてすごく過ごしやすそう」

「……」

「暖かいですし、雲一つない青空ですし」



出掛けたかったのだろうか、と一瞬考えたがそうじゃないとすぐにリヴァイは気付いた。何処か行きたい所があったらもっと前から行きたいとアピールをしてくるのがナマエだ。

「二個先の駅に新しいケーキ屋さんが出来たんですよ」や「いちご狩りの季節ですね」など。いかにもそこに行きたいと言っているような顔と言葉でアピールをしてくる。けれど今回は事前にそんな事は言っていなかった。だとしたら彼女の不機嫌の原因は何なのだろうか。

原因は、強いて言うなら今自分が眺めている雑誌か。

なんて事はないインテリア特集の雑誌。この本に集中していて、自分は放置されているとでも思っているのだろうか。

視線だけ上げ、盗み見るようにナマエを見ると彼女はダイニングチェアに腰掛けたままぶらぶらと足を遊ばせたり、寂しそうに眉を八の字にさせてみたり、かと思ったら眉間に皺を寄せたりと、忙しなく感情と戦っているようだ。



「二十点か、随分な点数をつけてくれるじゃねえか」



落第点だぞ、と言葉を繋げるとピクリと顔を上げる。リヴァイの気を引けた事が嬉しいのか僅かに緩まる頬。本人は緩む頬を必死に引き締め隠そうとしているが、もうバレている。ほんの少し構っただけでまるで犬のように尻尾を振り始める彼女の反応にリヴァイは込み上げる笑いを噛み殺す。



「そもそも問題はお前にあるだろ」

「っ、なんでですか」

「昨日、折角休みの日の夜だってのに俺が愛情表現してやる前にさっさと眠りこけたのは誰だ?」

「…っ」



ぼっと頬を赤くし口を開閉させるナマエのせいで、噛み殺していた笑いがリヴァイから漏れる。

けれどその通りだ。ワインを開け二人で用意した夕食を食べ、シャワーを浴び、そしてようやく一週間我慢していた彼女に触れることが出来ると思ったら。すこーすこーと幸せそうな顔で眠りこけるナマエにどれほど脱力した事か。



「俺が二十点って言うならお前は三点だ」

「さ、さん…!?」



言葉を詰まらせ目を見開かせたあとナマエはすぐにムッと両頬を膨らませると「もういいです」と今度こそツンとそっぽを向いてしまった。

やってしまった、と小さな後悔一つ。言えば彼女が拗ねることは目に見えていたというのに。横顔から分かるほどふくれっ面をするナマエの瞳には薄っすらと涙の膜が張っているように見えた。

何も泣くことはねえだろ、と思いながらもそんな顔をされてはどうにも放っておけなくなる。眺める程度に読んでいた雑誌も『インテリアの配置から風水を学ぶ』というリヴァイにとってすこぶるどうでもいい特集に差し掛かった所だった。雑誌をテーブルの上に適当に放り立ち上がると、未だダイニングチェアで拗ねた顔をするナマエへと近付いた。



「ナマエ」

「…っ」



座った彼女を見下ろして名前を呼ぶと、チラリと視線をリヴァイに向けたもののすぐにツンと逸らしてしまう。怒ってますとアピールしているのかこれでもかというほど顔を背けるナマエ。そこまで逸らしたらもう後ろでも向けるんじゃないかと思うほど顔を逸らした彼女の頬に手を添えた。

少しだけ抵抗したもののリヴァイの手に促されるように真っ直ぐ前を向かされたナマエは、まだどこかふくれっ面をしている。

ふに、と柔らかい頬に指で触れながら顔を少しだけ上を向かせると、リヴァイはそのまま身体を屈めナマエの唇に自分の唇を重ねた。



「…っ」



びくっ、と一瞬で強張った身体。驚いたのかリヴァイの服を両手で掴むとナマエはパチリと目を大きく見開かせた。

柔らかい唇を楽しむように少しだけ食んだ瞬間「んっ」と高い声が漏れた。触れていた彼女の柔らかい頬が僅かに熱を帯びる。

これはまずい。もちろん嫌という訳ではない。このまま適当に彼女の身体を担ぎ上げベットへ放り出すのも悪くはない。いや、どうせシャワーを浴びたいと騒ぎ出すのだから最初からそちらに連れて行っても良いだろう。

だが今日はなんと言っても天気が良い。

乱し、顔を真っ赤にしながら嫌々という彼女を虐め抜くのも悪くはないが。青空の下、カフェテラスで甘ったるいケーキをつつきながら笑うナマエを苦いコーヒーと共に眺める方に趣を感じる。


ちゅ、と小さなリップ音と共に唇を離すと、さっきまでの拗ねた表情が嘘のように、頬を染め涙目になったナマエがきょときょと瞬きをしている。可愛いなくそ、という気持ちを飲み込むとリヴァイはぽんと彼女の頭を一撫でし距離を取った。



「続きは夜だ」

「え、え…?」

「出掛けるぞ、支度をしろ」



未だに状況を理解していないのかダイニングチェアに腰掛けたままのナマエ。そのままぼんやりとリヴァイを眺めていたが、携帯や財布をポケットに入れジャケットを羽織った所でようやく理解したのか、ガタと音を立てて立ち上がった。



「まっ、あのメイクを直して…服もワンピースに…!」

「早くしろ」



焦って服を着替えに行くナマエを見ているだけで口角が上がる。慌ただしく、まだ少しだけ頬に朱を残しながら、それでもどこか嬉しそうに顔を綻ばせる彼女の可愛さ。ツンとして見せたり、皮肉を言ってみたり。それなのに迫られると顔を真っ赤にさせる。



「ナマエ」

「は、はいっ」

「何点だ?」

「え、」

「俺を落第点のままにしておくつもりか?」



そう聞けばきょとんとしていた顔を少し驚かせ、俯くとチラリと視線だけ上げて見せた。何を考えているのか分かりやすい彼女を眺めている自分の顔は、さぞ意地が悪いのだろうと思いながらもゆるりと上がる口角を抑えきれない。

ナマエはそんなリヴァイからの視線に耐え兼ねたのか、バツが悪そうにもごもご口を動かしたあと、羞恥からか赤く染まった頬を両手で覆うと、蚊の鳴くような声で小さく呟いた。



「ひゃ、…百万点です…っ」






当然だ

と、笑えば顔を真っ赤にし、出掛ける準備を理由に別室へと逃げていくナマエ。すぐ拗ねてすぐ不貞腐れるわりには、構ってくれと言葉にせず遠ましなアピールしかしない彼女。

面倒だと思う時もある。苛立ちを感じる事もある。だが、彼女の拗ねたふくれっ面が笑顔になった時や、照れて赤くなったその顔を見た時、愛おしくなるのだから、どうしようもない。

落第点を付けられたら、倍の点数、いやそれ以上の点数を付けて貰わなければ気が済まないほど。今日は嫌というほどエスコートでもしてやろう。その都度何点か聞いて彼女を虐めるのも悪くはない。

いや、虐めるという言葉には語弊がある。これは愛情表現だ。何故なら自分は心底ナマエに惚れているのだから。



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1000000HIT記念
遊びに来てくださる皆さんに感謝を込めて。

2016.03.06