緩やかに射し込む陽の光に閉じていた瞼を薄らと開けた。深いカーキ色の遮光カーテンの隙間から見えた青空に今日の天気を知り、寝惚けた頭が段々と覚めていく。

身体を起こそうと思えば僅かな拘束感。目の前には目を閉じたまま静かな呼吸を繰り返す恋人の姿。感じた拘束感の正体はまるで抱き込むように投げ出された彼の片腕のせいだ。きりっとした切れ長の瞳は閉じられていて、起きる気配はない。



「……、」



じっと見つめてから笑みを少し。

眠る姿は普段の彼とは違い、実年齢よりもずっと若く見える。三十路を過ぎた男性に言う言葉ではないかもしれないが、可愛いという単語が今はしっくりくる。

もう少し眺めていたい気分だがそろそろ起きて朝食の支度をしなくては。今日は休日。急ぐ必要はないのだけどせっかく二人で過ごせる貴重な日だからこそ、充実した物にしたいと思う。

そっと乗せられた腕を下ろすと身体を起こす。静かに、静かに、となるべく物音を立てないように動くと昨夜リヴァイによってベットの下へと投げ捨てられたシャツを拾い羽織る。少し冷えたシャツに一瞬だけ身体を竦ませると、よし、と立ち上がろうとした。

その瞬間、ナマエの腰に巻きついた筋肉質な腕が、立ち上がろうとしていた彼女の身体を再びベッドへと引き戻した。



「わっ……リヴァイさん、いつ起きて、」

「…何処に行く気だ」

「何処もなにもキッチンで朝食の準備をしようかと」

「まだ早えだろ」



そう言って不貞腐れたようにナマエの腰へ頭を押し当てるリヴァイの様子に、これは少し寝ぼけているなと推測する。いつもなら引き止めるような真似はせず、リヴァイ自身も服を着るというのに。

裸の上半身をシーツから覗かせ、まるで邪魔をするようにナマエにしがみ付いたリヴァイ。そんな彼の腕を優しく撫でながらナマエは楽しげに口を開いた。



「今日はいい天気ですし、私リヴァイさんとお買い物に行きたいなって思っていたんです」

「……」

「ショッピングの後はランチを食べて、そのあとは公園をお散歩して、疲れたら駅前のカフェでケーキを食べたり」

「……」

「…でも、リヴァイさんが嫌なら、諦め」

「嫌だとは言ってねえ」



ギュと少しだけ力の強くなる腕にナマエは眉を下げて笑う。いつもナマエの提案には文句言わず付いてくるリヴァイ。それはもちろん今日も例外ではないのだ。ナマエが行きたいと言うなら行く。

その優しさを嬉しく思う。



「じゃあ来てくれるお礼に、私は朝食の準備をしますね。卵はどうします?」

「そう、だな…」

「ベーコンエッグなんていかがです?」



ぐりぐり

提案した瞬間、腰に押し付けられた頭が左右に振られる。どうやらリヴァイの気分はベーコンエッグではないらしい。



「うーん、それなら…オムレツはどうでしょう?」


ぐりぐり


「シンプルに卵焼き」


ぐりぐり


「じゃあスクランブルエッグですか?」



そう聞いた瞬間、彼の頭の動きが止まった。今日の卵料理が決定する。「さっそく準備しますね」と告げるとナマエはそっとリヴァイの腕を解きベットから立ち上がる。リヴァイは遅れて起き上ると先程までナマエを捕まえていた手で前髪をグシグシと荒く梳いた。



「準備をしている間にシャワーでも浴びてきますか?」

「…いや、食ったらお前と一緒に浴びるからいい」

「っ、…はい分かりました」



当たり前のように言われ少し頬が熱を持つが、リヴァイに見られる前に背中を向けるとキッチンへと足を向けた。



「ナマエ」



呼ばれ再び振り返る。小さな欠伸を噛み殺し、まだ少し眠たげに目を細めたリヴァイと目が合う。後ろの窓から射し込む陽の光に、リヴァイが持つ独特の色香が絶妙に合わさりドキリと胸が高鳴る。



「…おはよ」



掠れた声。穏やかに上がった口角。優しい眼差し。ああ、何気ない休日の朝にこんなにも幸せを感じるなんて。







バターソテーしたキャロット。昨日のディナーの残りのポテトサラダ。粗挽きのソーセージを焼いて、トースターに食パンをセットする。

さあ後はスクランブルエッグだけ、とフライパンに火をかけようとした瞬間、下腹辺りに二本の腕が優しく巻きつく。再び感じる拘束感にナマエは苦笑いするとコンロから手を離し、肩口に擦り寄せるように乗せられた頭に自分の頭を寄せる。



「リヴァイさん、このままではスクランブルエッグが作れませんよ」

「…そうだな」

「テーブルで待っててください」



そう言っても離れるどころか、ぎゅうと力を強めて身体を寄せてくる恋人。珍しい事に彼はまだ寝ぼけているようだ。年に一回あるかないかの珍しいリヴァイに、ナマエは苦笑いしながらもまた幸福感をおぼえた。



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寝ぼけて甘える兵長とかいいじゃないか、と思いまして

2016.02.20