「ナマエ」

「…」

「ナマエ、寝るな」


そう言って腕を揺らす。俺の腕を枕にしていたナマエは頭を揺らされ、ぼんやりと瞳を開いた。


「…、はい…」


重たい瞼を押し上げ、力の無い笑みを浮かべた彼女に少し安堵する。

今が何時なのか分からない。今日が何日なのか知らない。俺はここ数日をナマエとこうやって過ごしていたからだ。ただ、彼女の身体を抱きしめて。浅い眠りを繰り返して、ナマエを深く寝かさないように折を見て起こす。


「リヴァイ…?」

「何だ?」

「…眠いの…すごく、」

「分かってる」

「もう、ね…起きていられないの…」


弱々しく笑ったナマエの頬に手を伸ばす。血の気の引いた白い頬。少し冷たさを感じる頬を優しく摩り温める。


「ナマエ、寝るな」

「…うん、」

「まだ、寝るな」

「…ん、大丈夫」


優しく囁いた彼女の唇は少し震えている。

身体を寄せ、彼女に口付けた。ただ、押し当てるように。体温が少しでも届くように。


「あったかい、ね…」

「そうか」

「…リヴァイ…ありがとうね…」


小さな声で、ぽつりと呟かれた感謝の言葉。ナマエは少しだけ困ったように眉を下げ、相変わらず力の無い笑みを浮かべている。


「私に、たくさんの時間をさいてくれて、ありがとう…」

「…」

「嬉しかったよ、すごく…すごく…」

「ナマエ、俺は」

「知ってるよ……私のこと、好きでいてくれて、本当にありがとう…」


私も大好きなんだ、リヴァイのこと

その言葉を聞いて無意識のうちに彼女の手を握った。知ってる、そんな事。お前が俺の気持ちを知っていたように、俺もお前の気持ちぐらい知っている。改めて言い合うような関係じゃないだろ。好きだから傍にいる。何よりも誰よりも、一番近くに。

言いたい事は山程頭を巡るのに、どれも言葉にはならない。


「リヴァイ…」

「どうした?」

「私…さきに、眠るね…?」

「、…そう、か」

「大好き…本当に、大好きよ」


本当は眠らせたくない。まだ、この温もりを感じていたい。こちらを見て微笑んでいてほしい。けれど。

駄目だ、寝るな。その言葉を飲み込んだ。


「分かった…先に寝ていろ、俺は此処にいよう」

「ありが、と…リヴァイ、ありがとう…」


身体を寄せきつく抱き締める。終わりを覚悟すると一呼吸、大きく息を吸って、吐き出した。


「これから先も、俺が何よりも愛おしく想うのは…ナマエ、お前だ」


言葉を聞いていたのか、最後「わたし、も」そう呟くとナマエはゆっくりと瞼を閉ざした。



ねむる
(ゆっくりと)
(溶けていくように)



「ナマエ」


呼んで、腕を揺らす。

けれど彼女からの反応は何一つ無く。閉じた瞼が開くことはない。

今夜は少し冷える。シーツを片手で引き上げ肩まで被せてやると、身体を寄せ、口付ける。

これ以上冷える事がないように、体温を届けようとするがナマエの身体が温まる事はなかった。


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大好きな人と最後の瞬間

2015.04.25