親友は彼を好きだと言った。

訓練兵時代、私のことを最も理解してくれた親友は彼に憧れて調査兵団に行って、そして亡くなってしまった。私の大切な親友はいない。こんなに性格の捻じ曲がった私を笑って許してくれた親友は、もういない。

何故彼に憧れたの、何故彼を好きだと思ったの、何故調査兵団に行ってしまったの。

寂しい、悲しい、色々な感情が渦巻いてそれは気付いたら彼、リヴァイ兵長への嫌悪になっていた。


誰もが慕い、憧れる彼を嫌悪するなんてナマエはおかしい。周りは私を異端扱いした。けれど私からすればあの男は大切な人を連れて行ってしまった死神のように思えて。


これはお門違いなんじゃないか、と気付いているのに。気持ちをとめることが出来ない。




「そろそろ調査兵団が凱旋するぞ!準備をしろ」

「かしこまりました」



返事ひとつ。立体起動で壁の上へと昇る。

私の役目は調査兵団が凱旋する時、門を開けるタイミングを測り鐘を鳴らす係。こう聞くと地味な仕事に思われるかもしれないが、タイミングを誤ると巨人を壁内へと踏み込ませる原因となってしまう。




「来た」



遠くで大きな砂埃が上がる。馬の蹴り上げた砂が煙のように広がるそれは調査兵団の凱旋の合図のようなもの。

目を細め、徐々にこちらに近づいてくる集団を見る。先頭にエルヴィン団長、両サイドには…


彼女はいなくなったのに、あの男は当たり前のように生きている…


小柄な男の姿に自分の顔が歪む。自分でも嫌な奴だと思う。人類の希望である男の生存を疎むなんて。



「ナマエ!まだか!?」

「もう少し」



入るタイミングを目測で推し量る。

開けると同時に入ってほしい。こちらに少しでも危険がないように。



「…今!」



カンカンカン

鐘のそばに置かれていた木槌を手に取ると鐘を大きく鳴らす。それと同時にゆっくりと持ち上がる扉。よし、今日もぴったりだ。

ふうと息を吐き、下を見下ろした時。



「…っ!!」



一瞬。目が合ったように思えた。それは、本当に一瞬だったけれど。


背中に駆け巡る衝動。驚きが強く、広がる感情の説明が出来ない。何だ、何だ、今までこちらを見ることはなかっただろう。いつも、前を見ていたじゃない。周りなんて気にも留めず、壁の外ばかり見ていたじゃない。


嫌いだ。あの男が嫌いだ。


私から親友を奪っていったあの男が。
違う、奪ったのは巨人だ


周りから慕われているあの男が。
それだけの器を持ち合わせているから慕われているんだ


冷たい横顔が。
冷たく見えて本当は亡くなった兵の気持ちをしっかりと受け止める暖かい人


鋭い目が。
惹きつけられる瞳









分かっている、分かっているのに

彼を恨むことでしか

自分を保てない私が

大嫌いだ



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愚か者の寂しがり


20141002