今回の調査で被害が少なかったのは、リヴァイ兵長のお陰らしい。

あの人がいる限り俺たちは無敵だな。

調査兵団にいてよかった。


そんな声を聞きながら私はみんなに飲み物を配り歩く。街まであと少しの所だったけど一日中馬で走り通しだったので団長が絶対安全区域に入った所で休憩を設けてくれた。

いまの私の役目は、巨人と対峙し疲弊した人たちに暖かい飲み物を配ること。

もちろんみんながみんな飲み物を受け取ってくれる訳じゃない。疲れているからいらない、と時折断られながらも配り歩き、気付けばお盆の上に乗っているのはカップ一つとなった。


「…」


自然と向かうのは、先ほど名前が聞こえた彼の元。


「リヴァイ兵長」

「…ナマエか」


周りとは少し離れた場所。リヴァイ兵長はいつも、周りから距離を置いた所で身体を休めている。

岩を背に、座り込んだ兵長の名前を呼ぶと酷く疲弊した瞳。こんな兵長は珍しい。驚きや焦りが混じり、お盆を持ったまま視線を合わせるようにその場にしゃがむ。


「お疲れですか?」

「少しな」

「あの、何かありましたか?」

「いや…それをくれ、」

「あ、はい…」


言われた通りカップを渡すが、兵長は口をつけること無くカップを自分の隣に置いてしまった。

なんだか声も弱々しく思える。

リヴァイ兵長のお陰で被害が少なかったということは、つまりそれは兵長が自身の実力を発揮したからだと思う。けれど、そんな事でこんなにも疲弊する人では無い。

もしかして…


「兵長、失礼しますね」

「おい、何だ…」


手に持っていたお盆を置くと、怪訝な顔をする兵長を無視して自分の手を彼の額へと添える。

あ、やっぱり。


「少し熱いですね、身体は怠くないですか?」

「…、」


驚き目を見開く兵長。もう片方の手を自分の額に添え、熱を計り比べる。


「うーん…この熱さは、微熱かなぁ…これ、少しだけでもいいので飲んでください」


少し熱い兵長の手を取ると、置いてあったカップを持たせる。

あと少しで街だけど、悪化は最小限にしておきたい。まずは先ほどの戦いで消費してしまった水分をとってもらって、それから馬に乗るのが辛かったら馬車を用意しなければ。

そうだ、応急処置班が何か薬を持っているかもしれない。あ、でも薬を飲む前に胃に何か入れないと。食料も少し分けてもらおうかな。

そうだ、念のため団長にも相談をしよう。


「私ちょっと色々取りに行って、報告してきますね。兵長は無理なさらずゆっくりしていてください」

「…おい、待て」

「はい?」


立ち上がった瞬間、呼び止められまたしゃがむ。目線をしっかり合わせ顔を見ると、少し兵長の頬が赤い気がする。よくよく見ないと気付かないけれど、体温が高いのだろうか。

なんですか?

と、首を傾げると逸らされる視線。ああきっと私みたいな下っ端に気付かれたのが嫌だったのかな?


「…どうして、分かった?」

「体調の事ですか?」

「ああ…」

「ふふ、そんなの決まってるじゃないですか」


眉を下げて苦笑いしてしまう。


「何度か同じ班で行動したので、何となく分かるんです」

「…」

「あ、いま機嫌悪いのかな?とか…いまはこうして欲しいのかな?とか…目とか表情の動きで」


これ、下っ端根性ですよ

と自分で自分に苦笑いすると、逸らされていた視線が再び私に向けられた。それと同時に掴まれた腕。

…え?


「兵、ちょ…っ」


何ですか?と聞く前に腕を引かれバランスを崩す。

膝を曲げしゃがみ込んでいたが、その両膝が地面につく。前のめりになり、ぐぐっと兵長との距離が近付いた。咄嗟に身体を支えようと、掴まれていない手を地面につける。

その瞬間、感じたのは右肩への重み。

間違いない。いまリヴァイ兵長の頭が私の肩に預けられている。私に寄り掛かっている。兵長の頭が、私の肩に。


「あ、あああ、あの、ど、どう、どうされました…!?」


パン、と破裂しそうになる思考を必死に抑えたが、声の震えだけは抑えられなかった。


「お前だけだ…」

「え?」

「…気付いたのは」


掠れてかぼそい声。虫が鳴くようなその声で紡がれた言葉は、しっかりと私の耳に届く。

誰も、気付かないのだろうか。こんなにも分かりやすいのに。ちゃんと見ればすぐ分かるのに。


「ナマエよ…」

「はい」

「少し、疲れた」


この人でも、こんな事を言うんだな。と思うと何だか面白くて、だけど可愛いような愛おしいような、そんな気持ちに襲われる。

いいかな?今なら怒られないかな?

そんな事を思いながら、中途半端な体勢をいそいそ直す。相変わらず片腕は掴まれたまま。離してくれそうにない兵長の手に苦笑いをしながら。


「お疲れさまです、リヴァイ兵長」


ぽんぽんと。人類最強の彼の頭を優しく撫でると、少し力を抜いたのか肩にかかる重みが大きくなった。





(肩くらい)
(いつでもお貸しします)




…団長に報告は?

しなくていい

帰ったら休みましょうね

ああ…

この体勢辛くないですか?

平気だ

そうですか…

ナマエ

はい?

疲れた

はい

(ぽんぽん)



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信頼してる上司
信頼されてる部下
たまには甘える兵長を

2014.0628