「好き、」



私の言葉に彼が振り返る。少し驚いたような戸惑ったような、そんな顔をした彼と目が合う。

さあ、その続きを‥行きを吸って、彼を瞳を熱く見つめ‥‥あぁ、やっぱりダメだ。

目を逸らしてため息をつく。嘲笑してしまうのはもちろん私自身に対して。



「‥‥好きって、告白されちゃった」



あはは、と少し笑うとスコールの目は少しだけキツくなった。あらやだ、怖い顔。



「‥誰だ、知ってるやつか?」

「ううん、スコールは知らない‥‥っていうか、私も知らない」

「は?」

「何回か授業が一緒になっただけで、話したこともなければ名前も知らない人」



そう、本当に突然の告白だった。授業が終わり人のいなくなった教室。さて、私も部屋に戻るか、と教室を出かけたところを突然呼び止められた。

あれ、まだ教室に人残ってたんだ。なんて思う前に伝えられた気持ち。

驚くとか、照れるとか、そういう感情以前の問題で、誰だろうこの人?知り合いだっけ?とか、ばっかり考えてぼんやりとしたままの私に名前の知らない彼はもう一度‥‥



「好き‥‥なんて、流石に二回も言われたらいくら私でも状況理解するよね」

「‥‥」

「なんか今日はやけに周りが早く教室出て行くなぁ、と思ったらそういうことだったんだねー、あはは」

「‥‥それで、」

「え?」

「‥返事はしたのか?」

「あ、あー‥うん、まあ、一応ね」

「そうか‥」

「‥‥」

「‥‥」



背を向けてしまったまま反応が無くなってしまった彼に、なんとなく無言になる私。

ガーデンに流れる水の音がやけにリアルだ。こういう時に限って周りには誰もいない。歩く生徒も、走り回る少年も。出来れば空気の読めないゼルにこの空気を壊して欲しいものだけど‥。

はぁ‥‥こういう誰かに頼る所が私のダメな所なんだよね‥‥‥よし、怖いけど少しだけ頑張ってみようかな。



「‥‥スコールひょっとして、気になる?」



勇気を振り絞って言葉にしてみたものの、スコールがこういう答えにくい質問の時になんて返すか私は分かってる。



「「別に」」



ぴったり息を揃えていうとスコールが勢いよく振り返った。案の定というか、やっぱりというか‥顔が少し怖い。



「ごめん、キスティス先生の真似してみた」

「‥あの人の真似はやめてくれ」

「相変わらず苦手なんだね」



くすくす私が笑うとスコールは小さくため息をつく。

あぁ、やっぱり私この感じが好きだ。言葉に言い表せない切なくて幸せなこの空気が大好きだ。



「断ったよ、ちゃんとね」

「‥そうか」

「でも、ちょっと尊敬した。名前の知らない彼のこと」

「何でだ?」

「だって‥‥だってさ、あんなに真っ直ぐ伝えるんだもん」



私は相手の名前も知らなくて、会話だってしたことないのに。あんなに真っ直ぐ熱く見つめて、自分の気持ちを伝えるんだもん。

壊すのが怖くて、現状に満足してる私とは大違い。



「だから、尊敬っていうか‥‥見習いたいな。みたいな感じかな」



そこまでいうと止めていた足を動かし、スコールの顔を見ることなく彼を追い越した。

君との関係を変えたい。関係を前進させたい。だけど後退するのは嫌だ。それで彼と疎遠になってしまったらと思うと、怖い。

‥‥‥そんなぐちゃぐちゃした考えを一切捨てて、名前の知らない彼のように私もスコールに伝えることが出来たなら‥



「俺も、そう思う」

「え」

「現状に満足する前に、この関係を打破することを考えないとな」






(君が好きだよ)
(大きな声で伝えたいよ)




その言葉の意味を聞けなくて。

それどころか二人揃って顔を逸らしてしまった私たちには、当分名前の知らない彼のようには伝えられないだろう。



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現状を変えたい、でも怖い。
あぁもうこのままでもいいか。
だけど変えたい。

…そんなお話でした。

20120818