一つ年上で、俺より先にSeeD試験に合格して、戦闘だけじゃなく頭もよければ魔法のセンスだってある。このガーデンでナマエのことを知らない奴なんていない。

彼女とは何度もガーデンの中で見たが、必ずと言っていいほど誰かに呼び止められていた。ただ応援するだけの者もいれば、試験のコツや勉強面の質問をするもの。中には世間話をするだけの奴だっている。

生徒達からだけじゃなく教師からも信頼されていて、どんな時でも明るい彼女は‥

いつだって一人だ。





「あー、そっか!この公式使えばよかったんだ!」

「簡単でしょ?」

「はい、ナマエ先輩ありがとうございました!」

「いえいえ、試験がんばってね」

「はい!」



教科書を抱きしめ嬉しそうに俺を横切っていった女子生徒。

静かな場所を求め校庭へと行ってみると、少し先にあるベンチに腰掛けていたナマエと女子生徒の姿。相変わらず生徒から頼られていたのか、試験のアドバイスをしていたナマエは女子生徒がいなくなると、小さく息を吐きベンチに腰掛けた。

この瞬間だ、彼女が一人になるのは。

一人意味もなくベンチで足をぶらぶらさせ、ゆっくりと空を見上げる。いつもそうだ。ナマエに頼る人間は多いが、彼女が特定の友人と一緒にいるところを見たことが無い。

俺が見る彼女はいつも生徒や教師に囲まれているが、最後はいつだって一人だ。



「‥アンタが一人でいるのは似合わないな」

「!スコール‥」

「‥」



無言のまま彼女の隣りへと腰掛ける。突然声をかけたから驚いているのだろうか。食い入るように見られる視線が痛い。



「‥何だ」

「あ、ううん‥別に」

「‥」

「スコールも私に用事?」

「‥いや、」

「試験のこととか聞きに来たんじゃないの?」

「‥そんな必要ない」

「そうなの?」

「ああ‥どうしてそう思う?」

「え、あー‥なんでだろう、ね」



苦笑い交じりにそう言うと彼女は小さく溜息をついた。

初めて見たとき、生徒達に囲まれているナマエは俺と正反対の存在のように思った。誰からも慕われ、話しの中心にいる彼女に話しかけられたことはあったが、特に気にすることなく適当に相槌を打ってやり過ごしていた。

俺が話さなくても彼女を取り囲む存在はたくさんいる、そう思っていた。



「アンタは、」

「うん?」

「‥いや、何でもない」

「なにー?気になるよー」



そう言いながら身体を突っついてくる指を払うと彼女は楽しそうに笑った。

生徒達に囲まれている中で彼女が今みたいに笑っていたらきっと、俺はこんな風にここに腰掛けていないだろう。

いつもどこか寂しそうで、生徒や教師に対する笑みは決まったもの。良くも悪くも八方美人だ。



「でも意外だったなー」

「‥?」

「スコールがこうやって私に話しかけてくれるようになるなんて」

「‥そうか?」

「うん、だってスコール最初は私のこと嫌いだったでしょ?」

「‥そんなことは、ない」

「嘘!だって話しかけても適当に流されてたもの」

「考えすぎだ」



嫌い、ではなかった。ただ苦手ではあったかもしれない。自分とは違いすぎる存在だと思っていたから、彼女と話すことがなんとなく苦手だった。



「嫌いじゃ、なかったさ」

「、そう?」

「ただ、少し苦手だった」

「‥スコール、それ微妙だよー」

「‥」

「まあ今がそんなことないなら良いんだけどね」



あの日、囲んでいた生徒達が彼女の元を離れた時、一人ポツリと残された彼女が人知れず溜息を吐いた。それを見てしまった日からかもしれない。ナマエのことを苦手だと思わなくなったのは。



「スコールはさ、優しいよね」

「‥?」



怪訝な顔をして見る俺に「そんな顔しない!」と笑うと彼女は言葉を繋げた。



「だって、こうして隣りにいてくれるじゃない?」

「‥たまたまだ」

「この前もそう言ってた」

「‥今日は偶然だ」

「じゃあこの前のは偶然じゃなかったってことね?」

「‥」

「スコール?」

「‥‥アンタが、」

「うん?」

「アンタが一人でいるのは、似合わない」



正確には、一人でいる時の寂しそうな表情が似合わない。愛想笑いだっていい。誰かと一緒にいて笑っていてほしい。同属嫌悪の逆。自分と似たタイプだからこそ放っておけない。



「だからナマエの周りに人が集まるまでは俺が繋ぎになる」

「‥、」

「それだけ、だ」



言い終わった後に気付く。俺は一体何を言ってるんだ。これじゃあ一人にさせたくない、と言ってるのも同じじゃないか。

後悔、と言うよりも気恥ずかしさの方が強く、自分でも分かるほど複雑な表情を浮かべていると隣りから小さな笑い声が聞こえた。



「ふふ、あはは‥っ」

「‥」

「ごめんね、笑っちゃって。でもそういう意味じゃないの」

「‥なら、どういう意味だ」

「うん?‥まあ、そうだね‥私は特定の友達がいないから一人になることが多いけど」

「‥」

「こうやって隣りにいてくれるスコールは私にとって、特定の人、でしょ?」

「‥っ」

「私ね色々な生徒達と話す時間より、あなたと二人でいる時間のほうが長いんだよ」

「っ‥アンタは、」

「なあに?」

「、何でも、ない‥」



そうやって人が恥ずかしくなるようなことを簡単に言ってのける。

さっきよりも強く感じる羞恥心。何故俺がそんなものを感じなければいけないのか分からないが、嬉しそうに笑うナマエと目を合わせていることが出来ず何となく視線を逸らしたが。

隣りで嬉しそうに笑い続けるナマエにどこか安堵した。









(安堵する時間)
(君が笑ってくれる一瞬)




「特定の人」と言う枠組みはどうしたら「特別の人」という枠組みになるのだろうか?


そんなことを必死に考えてる自分に溜息を吐きたくなった






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優秀だ、と言われ周りから頼られる子は
一体誰を頼っているんだろう?という謎から

20100623