「お帰りなさい、スコール」

「‥ただい、ま」



ふ、と私をすり抜けてしまう彼に嫌な感覚を覚える。

いつもなら任務から帰ってきたとき出迎える私に彼は何かしらの言葉や行動をくれる。それは「今日は何もなかったか」という言葉だったり、抱擁だったり。

けれど今みたいに彼が私の目を見ず、すり抜けてしまった時は。それは彼が誰かを殺めてしまったとき。



「スコール」

「‥」



ベッドに腰掛け、俯いている彼。両手を握り合わせ何も喋らない。

彼は傭兵だ。クライアントの依頼どおりに任務をこなす。ただ書類を届けるだけのお使いのような任務もあれば、戦わなくてはならない危険な任務もある。その戦闘の中で人を殺めてしまうことだってある。

「仕方ないよ」なんて陳腐な言葉は使いたくない。確かにクライアントの指示通りに動かなくてはならない彼らにとって、それは「仕方ない」ことなのかもしれない。きっと傭兵ではない人たちは言うと思う。「仕事なんだもん、仕方ないよ」と。

でも彼にとっては「仕方ない」と割り切れるほど簡単なものじゃない。



「スコール、お帰りなさい」

「ナマエ‥、」

「おかえり」



痛み任せに彷徨わず、ここに帰ってきてくれてありがとう。俯いてしまった彼の頭を包み込むように抱きしめると、握り合わせたまま動かなかった彼の手がゆっくりと私の腰に回された。



「怪我してない?」

「ああ、」

「よかった」



怪我はない、と返事ができる彼は少し余裕があるのだろうか。もっと酷いときは何を問いかけても返事すらしてくれなかったから。傷を隠して強がっているだけなのかもしれないけど。



「大丈夫、だ」

「うん‥」

「俺は、平気だ」



ぎゅうと腰に回された腕の力が強くなる。同じように私も彼を強く抱きしめる。



「スコールは、」

「‥何だ?」

「幸せになるよ」

「‥いきなり、だな」



弱々しいけど笑い混じりに呟くスコールに私はもう一度「幸せになる」と言葉を繋げる。



「だって、こんなに辛いこと、何度も乗り越えてるんだもの」

「‥」

「だから、大丈夫だよ」



根拠や理由なんて必要ない。言葉にしてみることで見えてくるものだってある。言霊のように、言葉にすることでそれが本当になることだってある。私はそう信じていたい。




「俺は、」

「うん?」

「もう、十分幸せだ」




身体を離し、私を見上げるスコール。意味が分からず私が軽く首を傾げると彼は少しだけ口元に笑みを浮かべ、視線を優しくした。




「ナマエがいてくれる」

「‥、」

「これ以上なんて望んだら、きっと罰が当たる」








きみの

(それが私だというなら)
(私も幸せだよ)





それにどうせ幸せになるなら私も一緒のほうがいい、と言うスコールはまだどこか頼りなげだけど

私は安心したように笑みを浮かべ、そうだねと呟いた







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某曲から。
獅子は甘くなると止まる所を知らなくなる

20100617