繋いだ手から相手の気持ちが流れ込んできてくれるのなら、私はきっと彼の手を離さないだろう。強く握り締め、離してしまわぬように。彼が、心が、私から離れてしまわぬように。

ああ、だけど無理だ。彼は他人と馴れ合うのは好きじゃないから。いくら私と彼の関係であったとしても、必要以上にくっついたら嫌な顔をされてしまう。離れるのも嫌だけど、嫌な顔をされるのも嫌だ。

嫌、嫌、嫌。そればっかり考えて。私はどうしたらいいんだろう。どうすれば彼との距離を埋められる?

追いつかないと彼はどんどん先に行ってしまう。不意に見せる彼の目はどこか遠いところを見ていて何を思っているのか分からない。私は彼が知りたい。手をとることで彼の気持ちが分かると言うなら、例え嫌な顔をされても私は‥







「ナマエっ」

「え‥‥あ、わっ‥!?」




どん、と強く人にぶつかってしまい身体がよろける。足がもつれて転びそうになってしまったが、腕を強く引かれたお陰でその場に倒れるのは免れた。

腕を引いてくれたのは他でもないスコールで、心配そうに眉を寄せた彼に私は眉を下げて笑って「ごめん」と呟いた。




「今日は少し人通りが多い、気をつけろ」

「う、うん‥ごめん」

「‥考え事でもしていたのか?」

「え‥?」

「難しい顔をしていた」




自身の眉間をトントン、と叩いてみせるスコールに私は慌てて自分の眉間を抑えた。

確かに難しいことを考えてしまっていたけどそんなに変な顔をしていたんだろうか?しかもそれをスコールに見られていたと思うと恥ずかしくてどうしようもない。

慌てる私が面白いのか、スコールは呆れたように少しだけ笑った。




「考え事をするのはいいが、もう少し回りに注意した方がいい」

「う、うん‥そうだね‥っ」

「ほら、」

「え、なに?」




す、と目の前に差し出されたスコールの手。意味が分からず彼の手と顔を交互に見比べていたら、溜息をつかれる。それと同時に無理矢理取られた私の手。

しっかりと繋がれた手に驚いてスコールを見上げれば、彼はそっぽを向いたままポツリと呟いた。




「転ばれたりしたらたまらないからな」

「‥」

「ナマエが考え事をしている間は、俺がアンタの手を引く」




そうすれば転ばないだろ、と私を見ないまま言うスコールにぽかんと間抜け面をしてしまっていた私の表情は、みるみるうちに明るくなっていく。

私は繋ぐ、ということに対してあんなに難しく考えていたのに。




「そうだね、手を引いてくれたら誰にもぶつからないし‥迷わないね」




繋いだ手から彼の気持ちが流れ込んできたわけじゃないけれど。

私の意味のない考え事に、考える暇を与えないぐらい強い力で彼は手を引いてくれるから。

彼の手を、強く握り返すことが出来た。











(一歩進めば)
(想いも繋がる)




でも、もう考える必要ないみたい、かな


なら手は離すぞ


え‥や、やだっ


冗談だ





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“とってほしい”と“とってやる”
両方の視点からいける題名にしたかったけれど…ちょっと微妙ですね

20100515