待っていたときの気持ちも、来てくれた時の喜びも全て一緒だったはずなのに、結末はあまりにも正反対だった。
待ち合わせ場所であるバラムの港のベンチに腰掛けて想い人を待つ時間。今日はどこに行こうか?何を話そうか?どんな時間を過ごそうか?考えるだけで幸せになってしまうような、そんな時間。
隣りのベンチに腰掛けた女性も私と同じだったんだろう。そわそわと辺りを見渡しては時折自分の髪の毛を手で整えたりして、頬も緩んでいたように見えた。きっと誰か相手がいて、その人のことを待っているんだろう。
同じ状況、同じ時間。そのことが何だか嬉しくて、私の頬も自然と緩んだ時だった。
港に現れた一人の男性。真っ直ぐにこちらのベンチへと歩いてくる。私の待っていた人じゃない。きっと隣りのベンチに腰掛けた女性の待っていた人なんだろう。嬉しそうに顔を綻ばせて駆け寄っていく。
よかったね、なんて他人なのにそんなことを考え私も今頃ここに向かっているだろう彼のことを思い浮かべた。
「・・?」
聞こえてきた言い合いに顔を上げた。
見ればそこにはさっきの女性と男性。幸せそうに綻ばせていた顔は一変して悲痛な表情に歪められており、相手の男性は罰が悪そうに俯いたまま女性の顔を見ようともしていない。
泣き出してしまった女性は駆け出しバラムの港から去ってしまう。相手の男性はしばらくその場に佇んだあと、軽く頭を掻くとゆっくり歩き出し港から去っていく。
私は呆然とその光景を眺めていた。
「ナマエ」
「・・」
「ナマエっ」
「・・スコー、ル・・?」
突然、強く肩を揺さぶられ顔を上げるとそこには心配そうに顔を歪めたスコールがいた。さっきの女性はいない。相手の男性も、いない。
「悪かったな、任務のせいで少し遅れた」
「・・」
「待っただろう?」
「・・」
「・・ナマエ?」
「え、あ・・ううん、全然大丈夫だよ」
お仕事お疲れさま、と誤魔化すようににっこりと笑って見せるがスコールは怪訝そうに表情を歪めたまま私を見る。
来てくれた。待ち合わせしていたのだから、スコールがここに来てくれるのは当たり前で、私はそんな彼に愛しさばかりが募るはずなのに。
来てくれるのを待ち侘びて、彼を想像して幸せな気持ちになって。さっきまで隣りに腰掛けていた、名前も知らない女性も私と同じ、幸せな気持ちになるはずだったのに。
「・・、」
「泣いてるのか?」
「・・っ、ふ・・」
「何があった?」
どうしたんだ?、と少し焦ったように言って、私の隣りへと腰掛け流れる涙を指で拭ってくれるスコール。変わらない、いつもの優しさ。
でも、それはさっきの女性の結末とはあまりにも正反対。
同じ時間に同じ場所で隣のベンチに腰掛けて、お互い想い人を待っていたはずなのに。あの結末を変えるなんて私には出来ないことだと分かっているけれど、涙が止まらない。
私は幸せなはずなのに、さっきの女性を思うと悲しくなってしまう。
「何でも、ない・・っ」
「・・」
「何でも、ないよ・・っ」
スコールがこうやってそばにいてくれることが嬉しいんだよ。
さっきまで隣りにいた女性の結末が悲しいんだよ。
言葉に出来ずただ涙を流し続ける私をスコールは黙ったまま、ただ抱きしめていてくれた。
当処ない祈り
(幸せになってほしいと) (ただ祈るよ)
いつの日かあなたが幸せになれるように
私にはスコールがいてくれるみたいに、あなたにもあなただけを大事にしてくれる人が現れるように
祈るよ
−−−−−−−−−−−−− 喧嘩してるカップルを見ると複雑な気持ちになりませんか?
20100412
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