「スコール、さん?」
「・・ああ、アンタか」
「こんにちは」
笑って挨拶する彼女に俺は軽く頭を下げるだけでやり過ごす。
図書室なんて特に用があってくるところじゃない。勉強なら寮でも出来ることだし、それにほとんど授業の内容は一度聞いただけで頭に入る。
だがここ以外に静かな場所が見つからないと言うのも事実。ここの学園には賑やかな連中が多すぎる。
「この前忘れ物しましたよね?」
「・・それを取りに来たんだ」
「ふふっ」
「・・何がおかしい?」
「その前も忘れ物をしましたよね?」
「・・」
おかしそうに笑ってカウンター越しに俺の顔を覗き込もうとする彼女から目を逸らす。
「・・別に好きで忘れてるわけじゃない」
「はい、分かってます。これちゃんと保管しておきましたよ、次は気をつけてくださいね」
「・・ああ」
そう言って彼女が俺に差し出した雑誌を受け取る。この前来たときはたまたま忘れてしまい、その前は他の本に集中してしまったからこの本の存在を忘れてしまっただけだ。
カウンターから離れて近くの椅子に腰掛け雑誌を開いてざっと目を通す。当たり前だが雑誌の内容に変化はない。
「・・」
「・・」
「・・」
「・・」
「・・アンタは」
「アンタじゃなくてナマエです」
「・・」
「私の名前。いつもアンタって呼ぶのでいつか言おうと思ってました」
「・・」
「・・」
「・・ナマエ、は」
「はい、なんですか?」
ぎこちなく名前を呼ぶと彼女は笑って返事をした。名前を呼ばれたことがそんなに嬉しいのだろうか?なんとなく眉間に皺を寄せて視線を逸らす。
「今日は一人か?」
「はい、今日は他のみんなはバラムで買い物してるので私一人です」
「行かないのか?」
「図書委員が一人もいなかったら困るじゃないですか」
「・・そうか」
「そうです」
「・・」
「・・」
「・・」
「・・スコールさんはここが好きなんですか?」
普段何も聞いてこなければ、話しかけてもこないはずの彼女からの突然の質問。
ここが好きか・・・・別に特別好きというわけじゃない。今日は俺と彼女の二人しかいないから静かだが、他の図書委員や生徒がいるときはここもそれなりにうるさくなる。今日は運がいいと言うことだろうか?・・いや、別に二人だからというわけじゃなくて、ここが静かだからというだけで・・
「ふふっ」
「・・何だ」
「私そんなに難しい質問してないのにスコールさんすごく考えてるみたいだから」
くすくす、と楽しげに笑い続ける目の前の彼女を見て、さっきまで真面目に考えていた自分が馬鹿らしく思えてきた。
「・・別に特別好きなわけじゃない」
「あら、残念です」
「残念そうに見えないな」
「だってスコールさん頻繁に足を運んでくれてますから」
「・・」
「好きじゃないなら来ませんよ」
「俺がここを好きだって言いたいのか?」
「図書委員としてはそっちの方が嬉しいですから」
そう言う彼女にはきっと何を言っても無駄だろう。変わり者なのかなんなのか分からない。そんな彼女に呆れたように少しだけ口元を緩めると何故だか彼女はさっきよりも楽しそうに笑って見せた。
笑った瞬間のその穏やかな空気は、なんとなくいいなと思った。
表現するには難しい
(言い表すには) (少し時間がいる)
ここは別に好きじゃないがアンタの独特な空気は好きだ
俺がそう言うと彼女は少し驚いた表情を見せた後
『アンタじゃなくてナマエです』
と言って少しだけ照れくさそうに笑った
−−−−−−−−−−−−−−−− 図書委員の女の子をかきたかったんです、はい
20100409
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