全て終わった。

セフィロスも黒マテリアもホーリーも、人の思いや思念が絡まって、たくさんの悲劇を生み出した。けれどそれも全部終わった。重く感じていたバスターソードが少しだけ軽く感じる。

悲劇の終わり、それを強く痛感した。



「‥、」



ライフストリームの輝きは治まり、一変して静かになった空を見上げながらハイウインドのデッキの上で一人、小さく息を吐いた。

みんなはきっと今頃酒でも飲みながら大騒ぎでもしているころだろう。

シドやバッレト辺りが酒を飲んで、それに付き合わされるティファ。そんな三人の傍で暴れまわるユフィと、そんなユフィのお守りをするナナキとケット・シー。更にそれを少し離れたところで静かに傍観しているヴィンセント。

そして、そんな仲間を見てナマエはきっと微笑んでいるのだろう。

本当に全てが終わったんだ、ともう一度安堵にも似た溜息を吐いた。





「クラウドっ」



物思いにふけっていれば突然、背後から呼ばれた自分の名前に振り返れば微笑むナマエの姿。



「ナマエ‥」

「もぉ、いないと思ったらこんな所に一人でいてー!」

「あぁ、すまない‥中、いいのか?」

「うん、酔った二人に巻き込まれそうになったから逃げてきちゃった」



べ、と少しだけ舌を出すとナマエは少し微笑んで、俺の隣に並んだ。



「クラウドこそ中に入らなくていいの?」

「あぁ、俺はもう少しここにいる」

「そっか、じゃあ私もここにいる」



風に揺れる髪を片手で抑えながら笑うナマエに俺も小さく笑みをこぼす。

年下だけどどこか大人びた雰囲気を持つナマエ。けれど時々みせる子供っぽい言動にどこか心惹かれていた。

彼女は気付いていないだろうけど。



「終わったね、全部」

「あぁ‥」

「終わりなんてないと思ってたから、なんか不思議‥」

「そうだな‥」

「うん、‥‥でも、さ」

「‥?」

「全部終わったけど‥色々なもの、失くしちゃったね」

「ナマエ‥」




きっとエアリスのことを言っているのだろう。ナマエだけじゃない。みんなが思っていること。

平和を手に入れたと同時に失くしたものも多い。エアリスだけじゃなくもっとたくさんの命も消えてしまった。




「守れたのかな、?」

「‥」

「失くしたものの方が多いのに、守れたって言えるのかな‥?」




「出来れば無くしてしまう前に終わらせたかった」と自分の両手を見つめ、今にも泣き出してしまいそうな表情をするナマエに胸が痛くなる。

エアリスがいなくなってしまったというのは、胸にこんなにも大きな穴を残している。



「守れた、さ」

「え‥」



ナマエの手を握り締めて言葉を繋げる。わずかに震える彼女の手は小さくてどこか頼りなく、俺の片手で包み込めてしまう。



「守れなかった、なんて言ったらエアリスが怒るぞ」

「そう、だね‥」

「守ったんだ、俺達は‥」

「うん‥、」

「エアリスが大好きだったこの星を、守ったんだ」

「うん‥っ」



小さく嗚咽を漏らしながら涙を零すナマエの肩をゆっくりと引き寄せ抱きしめてやる。すると肩に顔をうずめ涙を耐えるようにして俺の服を握り締める。

年相応に涙を流すナマエを見たのは初めてで、今まで堪えてきたのかと思うと切なくて。そのまましばらく抱きしめていた。







「ごめんね、変なこと言っちゃって‥せっかくみんな喜んでるのに」

「いや、いい‥全員が全員、同じ気持ちって訳じゃないだろ‥ナマエ以外もきっと思ってる奴はいるさ」

「うん‥」



涙のおさまった彼女の頭を軽く撫でてやる。小さな声で「ありがと」と呟くナマエに少しの笑みがこぼれた。



「ねえ、これから、どうしようか‥?」

「ん?」



唐突な質問。見るとそこには俺の目を真っ直ぐ見つめる彼女の目。さっきまで泣いていたからだろうか、僅かに潤んでいる。何となく恥ずかしくなって誤魔化すように目尻に残る涙を指で拭ってやる。彼女はくすぐったそうに少しだけ目を細めた。



「全部おわって、これから‥」

「これから?」

「うん、思えば何にも考えてなかったなあ、って」



そういえば確かにそうかもしれない。この戦いが終わったら、なんて一度も考えたこと無くて今更何をしようか、と考えてみる。



「みんな、元の生活に戻るんだよね」

「そう、だな」

「あ、でもヴィンセントの元の生活って、また寝ることかな?」



小さく笑うナマエに俺も棺桶に戻っていくヴィンセントを想像して笑ってしまう。



「クラウドは?」

「ん?」

「これから、どうするの?」

「考えてないな‥」

「ふふ、クラウドらしいね」



そうか?と聞けば笑いながら「そうだよ」と返すナマエになんとなく腑に落ちないものを感じる。



「そういうナマエは?」

「え?」

「これから、どうするんだ?」

「えっとー‥考えてないや」



予想通りの返答にバレないように隠れて笑ったものの、抱きしめていた腕から震えが伝わってしまったのか、すぐにバレてしまいナマエに「笑わないで」と胸を叩かれる。



「でも‥そうだなあー」

「‥ん?」

「今は、このままでいいや」

「‥」

「今は、クラウドとこうしていたいから」



そういって胸に頬を摺り寄せるナマエを、俺は照れや気恥ずかしさを隠すようにして抱きしめ返した。






二人のこれから


(ゆっくり考えよう)
(時間は無限にあるから)




まさかこの状態を全員に見られていたなんて

思いもしなかった





2009.02.06