心配されるのは彼女の意識の内に存在しているから。想われて、励まされて、傍にいてくれる。そんな、どこまでも優しいナマエに仲間は何らかの形で救われているんだ。
俺、以外は。
「あ、いたいた。クラウドー!」
「‥、‥ナマエ」
見上げていた夕日から視線を外して振り向けば、俺に駆け寄ってくるナマエの姿。何かあったのかと身体ごと向ける。
「クラウドは、ここにいたんだね」
「どうかしたのか?」
「鎮静剤、持ってない?ユフィの乗り物酔いが酷くて‥」
心配げに眉を寄せそう尋ねるナマエ。ああ俺はそのために探されていたのか、と少しだけ期待なんてものをしていた自分が悲しい。忘れていたわけじゃない。彼女は心配性で、誰よりも仲間のことを心配している。それがただの乗り物酔いだろうと、小さな怪我だろうと、どこまでも心配する。
そんな彼女の性格を忘れていたわけじゃない。
「ああ、それなら確か‥」
「ある?」
「ほら」
「ありがとう!」
ポケットから鎮静剤を取り出しナマエの手に乗せてやると、彼女は溢れんばかりの笑みを浮かべた。夕日に照らされ微笑むその姿は綺麗で、己の心臓が早くなるのが分かった。
「クラウドなら持ってるんじゃないかなって思ったの」
「そうか」
「ほら、クラウドもユフィと一緒で乗り物酔い酷いでしょ?」
「‥‥そう、だな」
真に頼られていたわけじゃない。名前を呼ばれたのは偶然で、今回のような事じゃなかったら彼女が呼んだ名前は、頼った相手は別の人間だったのかもしれない。
「あ、そうだ。クラウド、ヴィンセント見てない?」
「‥いや、見てないが」
「そっか‥困ったな、今日こそ夜までに見つけないといけないのに‥」
「何か用事か?」
「うん?あ、用事って訳じゃないんだけど‥ほら、あの祠を離れてからヴィンセント‥元気ないじゃない?」
眉を下げて困ったように笑うナマエ。あの祠とは、ヴィンセントの古い知り合いがいた滝の裏の洞窟のことだろうか。多分それなりに親密な仲だったんだろう。言われてみればあの日から夜になるとヴィンセントがよく姿を消すようになった。
元から仲間と打ち解けているような性格じゃなかったが、自ら一線引いているようなそんな感じがする。
「多分ね、簡単に踏み込んじゃいけないことなんだと思うの‥」
「‥」
「だけど、何も出来ないかもしれないけど‥一人にはさせたくないじゃない?」
「ヴィンセントみたいな性格なら尚更」と言葉を繋げるナマエに、ぎゅうと心臓を掴まれたような気分になった。
俺が、俺が重度の魔晄中毒になったとき傍にいてはくれなかった。魔晄中毒になったときも自分を取り戻した時も、傍にいてくれたのはティファでナマエは「よかったね」と言って微笑むだけだった。それなのに、
「‥ヴィンセントのことは、心配するんだな」
「え?」
「いや‥なんでもない。薬をユフィの元に届けるんだろう」
「あ、うん‥」
「早く、行ってやれ」
「そう、だね」と呟いて背を向けるナマエ。そのまま視線を逸らし何事も無かったように夕日を眺めればいいのに、耐えることができず彼女の背中を目掛けてその名を呼んだ。
「ナマエ」
「うん?」
くるりと振り返るナマエの瞳をじっと見つめる。夕日に照らされ、僅かにオレンジ色に輝くその瞳に俺は映っているのに。確かに存在している、はずなのに。
「俺が、ヴィンセントの立場だったら‥傍にいてくれるか?」
もしかしたら今俺は縋るような目でナマエを見ているかもしれない。変なことを言う奴だ、と思われているかもしれない。‥どう思われていてもいい。気まぐれでもいいから、俺は、
しばらくの沈黙の後、ナマエはゆっくりと口を開いた。
「‥クラウド、が」
「‥」
「っ‥‥クラウド‥は、私が心配する必要ないじゃない」
蚊帳の外
(彼女の性格を) (忘れていた訳じゃない)
にこりと微笑んで告げられた言葉。
心配をされたかったわけじゃない。どう思われていようとも構わない。気まぐれでもいいから。
ただ、少しだけ彼女の意識の内に存在してみたかった。
−−−−−−−−−−−−−− んー、不完全燃焼…。
20100927
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