(『たいしたことない』の続き)
変わってしまったものはたくさんありすぎて、全てを言い表すことは出来ない。一番大きなところで言えば神羅カンパニーが潰れてしまったことかもしれない。詳しいことはよく分からないけれど大きなモンスターの攻撃を受けてカンパニーの本社が潰れてしまった。
幸い私はある時を境に会社を辞めてしまっていたので、特に怪我をすることなく生き延びた。ミッドガルがほとんど崩壊してしまった今では私も周りの人と同じようにエッジに家を移し、小さなお店のお手伝いをしながら生活している。
「お昼いってきまーす」
「はいよー」という奥にいる店主からの声を聞きながら店を出る。見上げた空は青い。今日は何を食べようか、と悩みながら街の中を歩く。
神羅カンパニーにたいしては反対している人も多かったけど、なんだかんだでミッドガルの人間を支えていたのはあの会社だった。私だってそう。雑務ばかりだったけどたくさんのことを学び、たくさんの人と出会った。彼とも、出会うことが出来た。
「‥、」
つい、と足の方向を変える。今日はさっぱりした物を食べたい気分だったけどやめた。彼を思い出した日ぐらい油っこいものを食べたって体重は増えない‥‥たぶん。
賑わいを見せるレストラン街を潜り抜け、若い人間が集まるファーストフード店へと足を運んだ。
中は私が予想していたよりも込んではいなくて、どちらかと言えばすいている。お昼の時間を過ぎてしまったからだろうか?何にしても騒がしくないのは嬉しい。お昼時だったら長時間並ぶだろうカウンターにも人はいなくて、すんなりと店員の前へ立てた。
「いらっしゃいませ。何にしますか?」
「えっと‥ポテトとオレンジジュースで」
「かしこまりました。合計420ギルです」
「はーい」
ハンバーガも食べたかったけれどやっぱり自分の体重は無視できない。仕事上がりまでは持つし、夕飯は少しだけ多めに食べよう。ここでハンバーガーを食べるよりはずっとローカロリーだ。‥あれ?おかしいな、私のバッグそんなに大きくないし普段ならすぐ見つかる、はず、なのに‥。
‥‥お財布が、ない。
「お客様?」
「あ、すみません‥!」
首を傾げる店員に焦りながらバッグをごそごそ探すけれどやっぱりない。家から出る時ちゃんと入れたはずだし、バッグに無いとすればお店だろうか?‥あ、そういえば飲み物買うためにバッグからお財布出して、そのまま‥。
レストランに行かなくてよかった。注文して食べた終わった後に財布が無い、じゃ恥ずかしいを通り越して死にたくなっていただろうから。
とりあえず目の前の店員さんをこれ以上困らせないためにキャンセルしなくては‥あー、お昼抜くのはさすがにきついけど仕方ない、か‥。
「ごめんなさい、お財布を忘れてしまったのでキャンセ」
「これで」
キャンセルしてください、と言い切る前に後ろから伸びた手。店員の前にきっかり420ギル置いた手を辿りながらゆっくりと後ろに振り返った。
「‥っ、」
「財布を忘れるなんて、あんたも意外とドジなんだな」
くす、と小さく微笑む彼に息を飲む。エメラルドグリーンだった瞳は深いブルーへと変わってしまったけど。私を見下ろしてしまうほど背も高くなって、身体もあのころより逞しくなってしまったけど。
私の口からこぼれた名前は、ただ一つ。全てが壊れてしまう前。今は懐かしいあの日に私とたいしたことない約束を交わした。
「クラウ、ド‥」
「何だ?」
「っ‥奢って、くれる‥の?」
「帰ってきたら奢れ、って約束を取り付けたのはナマエだろ?」
「自分で言っておいて忘れたのか?」と笑みを見せる彼に鼻の奥がツンとなる。本当は私が奢ろうと思ってたのに、とか、その態度はなに?とか言ってやりたいことはたくさんあるけれど。
涙を浮かべる前に 笑顔を浮かべて
(ツンと揺らいだ視界が) (ばれないように)
当然でしょ。私のことこんなに待たせて‥もう一回奢ってもらうんだから
そう言うと彼は呆れたように笑って、目尻にあった私の涙を指で拭った
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20100610
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