君はいつも上ばかり見ていた。いつも英雄の話しをして強さを求めていた。そしてその力でいつも私を守ってくれた。いなくなるのは必然のようにも思えた。こんな田舎で一生を終えるなんて彼にはもったいなさ過ぎる。






「ナマエもいつかこの村出るのか?」

「んー、私はたぶん一生ここにいる」

「何で?もったいねえじゃん」




私にはもったいなくなんかないよ。この村は確かに田舎だけど、ここは私の生まれ育った場所だし、村の人はみんな優しくて、広い都会よりも遥かに空気が澄んでいる。

そして、何より。




「思い出が、たくさんあるから」




君との、思い出。




「ふーん・・?」

「あはは、ザックスには分からないと思うなー」

「なんだよそれー!」

「だってザックスはこの村を出て行っちゃうんでしょー?」




膨れっ面のまま「まあそうだけど」なんて言うザックスに私は笑みをこぼす。引きとめるつもりはない。彼にはこんな狭い田舎よりも、広い場所の方が似合っているから。君が高みを目指すためなら私との思いでなんか忘れてしまって構わない。

私との日々は一瞬の出来事で構わない。




「でも俺がいなくなったらナマエ大変なんじゃねーの?」

「え、なんで?」

「村の外に出かける時、俺がいなきゃ危ないじゃん」

「まあ、なんとかなるよ」

「モンスターに遭遇したら?」

「もちろん逃げるよ」

「村の子供より足の遅いナマエが?」

「・・う、うるさいな」




確かに私は運動が得意、とは言えない。どちらかと言うと苦手な部類だ。走ろうとすれば靴が脱げるし、転ぶし、つまずくし。でも自分の命を守るためなら死に物狂いで走る。うん。




「それに結婚は?」

「え?」

「ナマエと歳が近くて親しい奴なんて俺しかいないじゃん」

「・・べ、別にそんなこと」

「なくないだろ?」




にっと笑うザックスと、かあと頬が熱くなる私。明日、明後日には村を出て行く人間がなんてことを言うんだ。あー、絶対彼はミッドガルに行ったら女性から人気が出るだろうな。悔しいな。




「別にザックスがいなくても結婚ぐらい出来る!」

「そうかー?」

「きっとザックスがいるからみんな私に声をかけてこないだけだよ!」

「はは、まあいっか」




よ、と言いながら立ち上がるザックスに、私もつられて立ち上がる。




「ナマエが一人行き遅れて寂しく独身生活を送ってたら」

「送りません!」

「まあ、その時は俺が迎えに来てやるから」




そう言って夕日に照らされながら笑う彼は昔のままで、私はほんの少しだけ彼の言葉に微かな期待を抱いてしまった。










(変はらざりて)
(くれたならば)





行き遅れたわけではないが、私は君を待っている



そういえば最近ニブルヘイムで大きな事件があった、と聞いたけど

・・ソルジャーになった彼には関係のないことだろう





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無印でゴンガガの人達は何も知らないみたいなので思いつきました

20100425