(※クリスマスログ)









「あれ?クラウド?」

「・・ナマエか」




夜遅く。あれだけ溢れかえっていた客もいなくなり、もう店仕舞いしたバーのカウンターにクラウドが腰掛けていた。



「まだ起きていたのか?」

「私は喉が渇いて目が覚めただけ」

「そうか・・」




冷蔵庫の中からお茶を取り出す。グラスに注いで一口、ゴクンと喉を鳴らして飲むと、ひんやりとした液体が喉を滑っていくのが分かった。




「クラウドは何してるの?ティファもう寝たよ?・・あ、デンゼルたちはまだ起きてたなあ」

「アイツらまだ起きてるのか・・!?」

「え、うん・・さっき部屋の前通ったら二人の話し声が聞こえたし・・」




私がそう言うと、クラウドは「はあ・・」と大きく溜息をついて俯いてしまった。とりあえずグラスを流し場に置いて、お茶を冷蔵庫へと片付けると私はクラウドの隣に腰掛けた。




「デンゼルたちが起きてたらダメなの?」

「・・今年は」

「うん?」

「・・今年は俺がサンタなんだ」

「は?・・って、ああ、そっか!」




クラウドの傍に置かれたピンクとブルーの紙袋を見て思い出した。そっか、今日お店に人が多かったのはそういうことか。もうそんな季節だったんだ。




「そっか今日ってクリスマスだったね」

「忘れてたのか?」

「いや、お客さんが多いなとは思ったんだけど・・」




あはは、と私が苦笑いを浮かべると、クラウドは呆れたように微笑んだ。

最近は仕事ばっかりに集中していたから、季節感覚というものが、すっかりなくなっていたなあと思う。




「去年はティファだったね」

「その前はナマエだったな」

「私のときは二人ともすんなり寝てくれたんだけどな」




子供の夢を壊しちゃいけない、とティファが決めたこと。毎年、交代交代でその年にサンタになった人が、デンゼルとマリンにプレゼントを買って、二人が寝入った後でそっとプレゼントを置く。

一昨年、私がサンタをやったときは、二人ともすぐに眠ってくれたからプレゼントを置くのは簡単だった。

次の日、喜んではしゃぎ回る二人を見て私は子供の夢を叶えられた気分がして、なんだか嬉しくなったんだけど。今年は・・。





「今年は上手くいかないね」

「・・なかなか寝てくれないんだ」

「きっとあれだよ、サンタさんを捕まえたいんだよ」




私の言葉に再び深い溜息をつくクラウドに苦笑いしか出来ない。

子供っていうのはそういうものだ。プレゼントをもらえて嬉しい、という純粋に喜ぶ時期が過ぎると、サンタという存在に疑問を抱き始め、捕まえて姿を確認したくなってしまう。




「・・もし俺が捕まって正体がばれでもしたら」

「ティファが怒るねー」




ケタケタとおかしそうに笑っていると「笑い事じゃないだろ」とクラウドから抗議の声。

うん、私としてもティファが怒ったところはあんまり想像したくない。キュッと革の手袋をはめてニッコリと笑うティファを思い浮かべて、心の底から思った。




「今何時だ?」

「えっと・・1時近い、かな」

「・・もうそんな時間か」

「子供が寝るまで待ってるのは、サンタさんの宿命だよ」




「本当だな」と呟きながらカウンターに肘をついて溜息をつくクラウド。デンゼル、マリン、今年のサンタさんはなんだか溜息が多いみたいだよ。




「でも二人とも成長したってことじゃない?」

「そうか?」

「そうだよ、こんな時間まで起きてるってことは体力がついたってことだし」




クラウドは大変だけどね、と笑えば「そうだな」と言い、クラウドは呆れたように笑みを浮かべた。




「クラウド、明日は仕事あるの?」

「普段なら仕事だが、今年は俺がサンタだから臨時休業だ・・ナマエは?」

「私?私はたぶん夜が大変かなー、ほらクリスマスだし、忘れてたけど」

「大変そうだな」

「まあね。でも明日はティファのことだから早めに切り上げると思うよ?」




クリスマスイブは仕事づくしの代わりに、クリスマスの日は早めに切り上げて、デンゼルたちとクリスマスパーティーを開く、っていうのもティファが決めたこと。

ああ、だから私は今日あんなに馬車馬のごとく働いたのか。そうかそうか。




「朝は別に早くないから付き合ってあげるよ」

「何に?」

「二人が寝るまで、サンタさんが退屈しないように話し相手になるってこと」




いいでしょ?と聞けばクラウドは一瞬きょとんとした後、「よろしく頼む」と言って穏やかな笑みを浮かべた。

最近ではよく見せてくれるようになったクラウドの笑顔。綺麗だな、と思うと同時に少しだけ胸が高鳴るのを感じた。




「あ、あのさ・・今年のプレゼントは何にしたの?」




高鳴った胸を誤魔化すように話しをふれば、クラウドは思い出すように視線を天井へと向けた。




「・・シルバーアクセサリー」

「え?」

「ちょっと早いかと思ったけど、ナマエが言うように二人とも成長したから」




今頃必死になって睡魔と戦っているであろう二人を思い浮かべて、なんとなく口元が緩んでしまう。




「アクセサリーって?」

「ネックレス・・別にお揃いじゃないけどな」

「へえ、どんなの?」

「マリンには花の形をしたやつ、デンゼルには俺のショルダーのやつと同じようなデザインのもの」

「オオカミ?」




仕事に出かけるクラウドの左肩にある、オオカミのようなシルバーアクセサリーを思い出した。




「デンゼルも好きみたいだったから、似たようなやつ」

「喜ぶだろうね、二人とも」




きっとクラウドは難しい顔をして一生懸命選んだんだろう。ジュエリー店で難しい顔をするクラウドを想像して笑いそうになってしまう。




「なんかさ、プレゼントが年々大人っぽくなってくよね」

「そうだな」




一昨年、マリンには大きくてふかふかしたモーグリのぬいぐるみ。デンゼルには黒のスニーカーをあげたのを思い出す。

ぬいぐるみや靴ではしゃぎ回っていた二人が、今年はアクセサリーかあ・・大人になってしまったなあ。

来年のサンタは順番だと私。今年がシルバーアクセサリーなんて大人っぽいものにされたら、来年は私もプレゼント選びが大変だ。




「来年のプレゼントどうしようかなー」

「せいぜい俺に負けないようにな」

「うわ!絶対に負けたくない!」




笑いながらそう言えばクラウドも静かに笑みをこぼす。もう今からでも来年のプレゼントを考えてしまいそうだ。




「いま、こうやって起きてる人ってどれくらいいるのかな?」

「さあな」

「特にうちの子達、今日はがんばってるみたいだからね」

「そうだな・・でも自分に子供が出来たらきっと同じことするんだろうな」

「そうだね、私もすると思うよ」




そう遠くない未来、出会うであろう自分の子供を思う。

何をあげたら喜んでくれるかな?いつになったら寝るのかな?って、考えたり待ったりするのは嫌いじゃない。むしろそれで子供が笑ってくれるなら私はいくらでも考えるし、何時間でも待つ。




「でも一人で待つのは寂しいな」




プレゼントで笑ってくれるのは嬉しいけど、子供が寝るまで一人でひたすら待ってるのはなんだか寂しく感じた。やっぱり旦那さんになる人には起きていてほしい。




「誰が寝るって言った?」

「え?」

「ナマエと一緒に、俺も待つに決まってるだろ」

「え、は・・え?」




意味の分からない言葉が口から漏れて、上手く言葉にならない。さも、当然のように呟くクラウドは言葉の意味など深く考えていないのか、表情に変化はない。


どういう意味?・・なんて聞くことのできない私はそんなクラウドを呆然と見つめ、パクパクと口を動かすことしか出来なかった。




















(どうした?)
(な、なんでもない!)







それは、つまり、その・・

そういうことですか?










−−−−−−−−−−−−−−−

そういうことです


20091220