(※バレンタインログ)
俺の彼女、今すげー怒ってます。
顔の表情は豊かなのに目が人を殺せるほど鋭いし、何より取り巻くオーラが冷え切ってます。例えるならブリザガのよう。
「良かったねー、チョコたくさん貰えてー」
「いや、ナマエ」
「ほら、見てこれ!すごーく高いやつだよ」
そう言って紙袋から高価そうな包みを一つ取り出すとケタケタと楽しそうに笑うナマエ。目が少しも笑ってない。
「って、俺は別にこんなのいらねぇって!」
まるで逆切れのようにそう言ってナマエが持ってきた紙袋をバンバンたたく。
そう、この紙袋にギッチリ詰まったチョコは俺が貰ってきた物じゃなくて、ナマエが同僚に俺に渡してほしい、と頼まれて貰ってきた物。
俺はナマエからだけ貰えればいいと思って、朝からチョコを全部断ってきたのに肝心の彼女が貰ってきたんじゃどうしようもない。
「せっかく全部断ったのに何で貰ってくんだよ!」
「だって頼まれちゃったんだもん!」
「断れよ!」
「先輩だったんだから仕方ないでしょ!」
「じゃあそんなに怒るなよ!」
「別に怒ってないでしょ!」
「怒ってるだろ、さっきから!」
「、うるさい!」
そう言ってそっぽを向いてしまうナマエに俺はイライラを誤魔化すように頭をかく。せっかくのバレンタインなのに、こんな風に喧嘩がしたかった訳じゃない。
そう思ってチラリとナマエの背中を見つめるけど、肝心の彼女はそっぽを向いたまま視線を俺に戻してくれない。
「ナマエ‥」
「‥っ」
手を伸ばして肩に触れようとすれば逃げるように身体を移動させるナマエ。
「ごめん‥」
「‥、」
「俺、ナマエのチョコしか食べないから‥だから」
その先が続けることが出来ず、言葉を濁し視線を床へと落とせば彼女の小さな声が耳に届いた。
「別に、ザックスが謝ることじゃないもん‥っ」
「ナマエ‥?」
「ザックスが人気なことぐらい、私知ってるもん‥っ!」
そう言って突然、振り返ったナマエの目には今にも溢れてしまいそうなぐらい涙が溜まっている。
そんなナマエの表情を見てぎゅっ、と締め付けられたのは他でもない俺の胸。
「分かっててもザックスがチョコ貰うの嫌なの‥っ」
「‥」
「可愛くなくてごめんね‥っ」
そう言って片手でゴシゴシと目元を擦るナマエに愛しさばかりが募っていく。
「みんな、私が恋人だって知ってるくせに、チョコ頼んできて‥っ」
「ナマエ‥」
「私が、恋人なのに‥っ」
そう言うナマエの膝の上には痛そうなほど固く握り締めた拳があり、その手を包み込むように握ってやると、崩れるように俺の胸に頭を預けてくるナマエを受け止める。
「ナマエのチョコは?」
「え、」
「え、じゃないでしょー。俺にチョコあるでしょ?」
そういって俺が笑いながら目元の涙を拭ってやると、ナマエの頬に僅かに赤みがさす。視線がまるで戸惑うようにふらふらと彷徨っているのが可愛い。
そりゃ、俺はナマエのことなら何でも知ってるっての。俺に内緒でラッピングとかチョコの材料を買いに行ってたことも、夜遅くまで何度もチョコを作って練習してたことも、全部知ってる。
ま、気付いてないフリしてたけど。(じゃないとナマエ怒るし)
「ない‥」
「は!?」
「ちょ、チョコなんてないっ」
そう言って顔を背けるナマエに唖然とする俺。無いって嘘だろ!なんて言葉も今の俺には出てこず、ただ頭が混乱する。
だって確かに昨日の夜見かけた。いや、楽しみにしておこうと見なかったフリしたけど!鮮やかな青のラッピングに水色のリボンで、メッセージカードもついてて‥!
そうそう、ちょうどあの紙袋からはみ出てるチョコみたいな‥‥あ。
みーつけた
(愛がたっぷりつまった) (俺のチョコ)
他のと一緒に入れんなっての‥!
え‥
はい、ナマエのチョコ救出!
なんで、知ってるの‥っ
んー‥まぁ愛でしょ、愛
‥
あ、照れた?
‥うるさい
2009.02.14
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