「へぇー」

「‥なんだ」

「ふふっ」

「‥」

「ごめん、なんか面白くて」

「どこが?」

「クラウドがチョコボに乗ってる、ふふ」

「‥それがどうした」

「仲間みたいだな、って」

「‥」

「ふふ、ごめん」



誤魔化すことのできない笑い声を噛み殺しながら謝ったら、やっぱり逆効果だったのかクラウドは、むっすりと顔を歪めて私から視線を外してしまった。

久しぶりにクラウドと二人でお出かけ。マリンたちに一緒に行きたいとせがまれたけど、そこはティファがなんとかしてくれた。‥お土産買ってきてね、って言われたけどね。

カームの近くにあるチョコボファームに来るのは本当に久しぶり。最近の移動はクラウドのフェンリルばっかりだったし‥別に乗り心地が悪いわけじゃないけど、久々にチョコボの背に揺れてみたくなった。



「来たい、っていうから連れてきたのに‥」

「だから、ごめんって言ってるのにー」

「‥」

「クラウドは怒りんぼだねー」



同意を求めるようにクラウドの跨ったチョコボへと声をかけると、クエッと可愛らしく鳴いてくれた。人懐っこいなあ。

そのままじゃれるようにチョコボを撫でると、口ばしを私の頬に寄せ喉を鳴らすこの仕草は本当に可愛い。



「ナマエ、」

「ん?なぁに?」

「あの‥」



チョコボから顔を離し見上げれば、眉を寄せてモゴモゴと言いずらそうな表情をしたクラウドが目に入る。



「俺は、そんなに」

「うん?」

「そんなに、似てるのか‥?」

「え?」

「こいつと」



クラウドに、ぼふぼふと少し乱暴に頭を撫でられたチョコボは僅かに嫌な目をして見せる。だけど私はそんなチョコボよりも、真剣に質問するクラウドをまじまじと見つめてしまった。

至って真面目な表情、真面目な質問。



「ナマエ‥?」

「ふ‥くっ」

「‥?」

「ふふ、あはは‥クラウドってば、あははっ」



一回声に出してしまったらもう止まらない。目を白黒させるクラウドを他所に、私は声を上げて笑ってしまった。

確かにクラウドの髪型は、どちらかと言ってしまえばチョコボに近い。限りなく近い。たぶんこの髪型こそが、チョコボに似てる、って言われる原因だと思う。

ユフィにも何度か笑われてるのは見たことある。だけど、その時クラウドはあんまり気にしてなかった、って言うか、面倒くさそうにユフィをあしらってたはずなんだけど。

けっこう気にしてたんだね。

だめ、笑いすぎて涙でそう‥!これ絶対ティファに話そう!



「そんなに笑うことないだろ‥!」

「だって、クラウド‥気にしてたんだ、あはは」

「ナマエっ」

「だめ、あはは‥止まんないっ」

「もういいっ」

「あー、待って待って」



ぷい、と手綱を握ってチョコボごと身体を反転させるクラウドを慌てて追いかける。

笑いすぎちゃったかな、っていう罪悪感と、気にしてたなんて可愛いな、っていう二つの感情が衝突する。だけど少しだけ罪悪感のほうが上回った。



「クラウド!」

「‥」



一声。大きな声で名前を呼んだら、あっさりとその場に立ち止まってくれたクラウド。怒っていても決して私を置いて行かない優しい彼に急いで駆け寄る。

チョコボに跨っているため、だいぶ高い位置にあるクラウドの表情を読み取ることは出来ない。



「怒ってる?」

「‥別に、怒ってない」

「嘘。怒ってるんでしょ?」

「‥」

「ごめん、ね?」

「‥いや」

「私は好きだよ‥その髪型」

「え?」



思えば出会ったときからクラウドはこの髪型。いまさら変えられても違和感っていうか。別に今の髪型が似合ってないわけじゃないし‥って、私が変なこと言って笑っちゃったからクラウドは傷ついたんだよね。



「変じゃないよ。むしろ」

「むしろ?」

「可愛くていいと思う」



クラウドを見てニッコリ笑ってそう言うと、クラウドは難しそうな表情はやめて眉を下げ、ふっ、と口元に笑みを浮かべた。



「あんまり嬉しくないぞ、それ」

「え、そうかな?」

「ナマエ」

「ん?」

「ほら、手」



高い位置から差し出された手。首を傾げながらクラウドを見上げれば「乗りに来たんだろ?」と言われて本来の目的を思い出し、笑いながら頷きクラウドの手に自分の手を添えた。ぎゅ、と私の手を掴んだ手は力強い。



「そうだね、」

「ナマエ?」

「可愛い、っていうのはちょっと間違ってるかな」



クラウドの手を握ったまま、そう言って笑って見せる。

意外と自分の髪型を気にしてたところとか、拗ねるとそっぽを向いてしまうところとか、そういうのは可愛いなって思っちゃうんだけど。今はなんか違う。

こうやってチョコボの上から手を伸ばして、私を引っ張り上げてくれようとするクラウドは可愛いんじゃなくて。



「かっこいいね、王子様みたい」







王子様

(白馬よりこっちの方が)
(私は好きだな)




私の手を握ったまま顔ごと逸らしてしまったクラウド。

耳まで赤くしてしまった彼を、まるで笑うように

クエッ

というチョコボの泣き声が牧場に響き渡った。



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海チョコボ作るのに必死だったなあ
20091202