あぁ、イヤだ。

まただ。また自分が少し嫌な子になった。

考えないようにすればいいだけなのに、一度考えてしまったら頭を離れなくなる。ぶんぶんと振って思考を飛ばそうとしても上手くいかない。

ぐしゃぐしゃと頭を掻いてみても、目の前にある雑誌に集中しようとしても、結局は同じことを考えてしまう。

なんだか胸が痛くなり始めてきた。イライラする。早く止めないともっと自分が嫌な子になる。



「あー・・」



本当にどうしようかと唸ってみれば、突然目の前に綺麗な青が広がった。



「どうしたんだよ?」

「あ、ザックス・・」



青の持ち主が恋人であることに気付くと、少しだけ胸の痛みが軽くなった。

心配そうに顔を歪める恋人に、ニコリと微笑んだ。うん、きっと今のは上手に笑えたと思う。



「なんでもない」

「なんでもないわけないだろ」



せっかく上手に笑えたのに、彼には珍しく通用しなかったのか、流された。

おまけに、言ってみ?と両手で頬を包まれる。

いつもなら顔を逸らすか、話を逸らすかで誤魔化すことが出来るのに。こんな風に顔を近づけられたら、どっちも上手くいかない。



「・・」

「ナマエ」



ふらふらと視線を彷徨わせるが、ザックスにすこし怒気を含んだ声で名前を呼ばれ、怖気づいてしまう。

目の前にある青の瞳は、いつまでも言葉を濁す私に怒っているようにも見えるが、どこか心配そうでもある。


あぁ、優しいな。この優しさが私にだけだったら、とても幸せなのに。

‥ううん、ザックスは誰にだって優しい。私だけじゃなくて他にも‥



「ねぇザックス・・」

「・・っ」



不意に寂しくなって、自分の両手を彼の首へと、抱きつくように絡ませると、僅かに息を飲む音が聞こえて、なんだか楽しくなった。

まあ、私の頬にあった彼の両手がビクリと震えて、私から離れてしまうのが寂しいのだけれど。

でもそっか、私からザックスに絡むことなんて普段ないからなあ。せっかくだから私の中の嫌な考えが無くなるまで思い切り甘えてやろうかな。



「ザックス」

「・・ん?」



自分からくっついたくせに、ザックスの低く掠れた声に背筋がゾクリとする。

この声に弱いな私。と隠れて苦笑い。



「‥ぎゅってして?」

「ナマエ‥?」



壊れるぐらい強く抱かれたい。ザックスだったら多少乱暴でも構わない。



「あとキスもして」



酸欠になるくらいキスされたら、きっと頭がくらくらして、嫌な考えもなくなるから。



「ナマエ」

「なあに?」

「誘ってる、って取るぞ?」



気付いてみれば視界に写るのは天井と、どこか切羽詰った表情をしたザックス。少しだけ朱に染まった彼の頬に指を這わせれば、そこには僅かに熱を感じる。

そんなザックスの表情と熱に私の口元は自然と弧を描いた。



「お好きにどうぞ?」



君は私を
侵食すればいい


(深い所まで侵食したら)
(閉じ込めて逃がさない)




私がスラムの女の子に嫉妬した、

なんて言ったら君は笑うでしょう?




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甘え方がえっちいな
20091010