二人だけの決まりごと。


私は左手。武は右手で手をつなぐ。


帰るときは絶対にそうしよう、って武が決めた。武が言うには、自分は右利きだから右手で私の手を包むことで、私を守っている気持ちになるらしい。


なんだかよく分からないけど武が嬉しそうに笑うから、まあいっかって思った。武が笑うと私も嬉しいから。


武の決めた決まりごとなんて、私からすれば幸せの条件でしかない。

左手とは反対の、右肩にあるカバンも幸せの条件。



武がいて、笑っていて、一緒にいる。

それだけでとても満たされた気持ちになったんだ。










「そんな時期もあったなぁ・・」




会社からの帰り道に呟いたひとり言。変わらない帰り道。


今から思えばあんな些細な決まりごとに、無限の幸せを感じていた幼い自分が可愛くて仕方ない。


苦笑いを一つ零して、なんとなく来た道を振り返った。


呼ばれた気がした、なんて超能力染みたことは言わないけれど。期待したのかもしれない。

でも私の期待なんて裏切るように、そこにあるのは夕日に伸びた私の影だけ。




「・・だよね」




当たり前のことなのに虚しくなるのはどうしてだろう。



きっと、



たぶん、それは・・





無意識
(私の左手)(君のために空けてあるよ)




幸せの条件だった右肩のカバンが


少しだけ重く感じた