神様、ほんの少しでいい。ほんの少しでいいから俺に勇気をください。
何でだろう。いつもだったら笑って、声をかけることぐらい出来るのに。何でだろう。彼女を見るだけで息が詰まったような感覚。心臓がまるで自分の物じゃなくて別の誰かのなんじゃ、って思うぐらい速くなる。
ああ、これは余裕がないってことだろうか。
それだったら勇気だけじゃなくて余裕も欲しいです、神様。
少しだけ遠巻きに苗字を眺める。笑ってる。何の話しをしてるんだろうか?気になるけど声をかけることが出来なくてもどかしくなる。だけど心のどこかで彼女が笑っているだけで幸せだ、と満たされている俺もいる。
ああ、そろそろ終礼のチャイムが鳴る。
先生が来たらホームルームをやって一日が終わってしまう。部活は休み。誘うなら今日しかない。じゃないとまた一週間待つことになってしまう。ダチといる時間だって悪くない。笑って、くだらないこと言い合って。そういう時間は好きだ。
‥‥でも苗字がいたらもっとその時間をもっと良いものになる。
友達との談笑が終わったのか、席に戻り帰りの支度をする彼女の姿を目で追う。
今しかない。ギュッと拳を握り締める。
でもどうやって?何て言ったらいい?一歩踏み出すはずの足は止まって、考える。普通に?普段通りに?‥‥‥あれ?普段通りって何だっけ?いつも俺はどうやって君と話してた?ダメだ。思い出せない。いつも話す時いっぱいいっぱいだったから自分の言動なんて覚えてない。
‥あー、ほら、やっぱり俺に余裕なんてねえのな。神様が余裕をくれないからだぞ。あと勇気も。
時計を見るとカチッと長い針が動く。そろそろ先生が来る時間だ。‥‥このまま考えあぐねるだけで、行動できずカッコ悪い俺のまま終わってしまうのなら。
あたって砕けろ!
(できれば砕けない方向で) (お願いします、神様)
ぱちぱちと瞬きを繰り返す瞳に見つめられ、自分がどういう風に誘ったかなんて正直覚えてない。
神様が俺に勇気と余裕をくれたのかは分からないけど。
帰り道、隣りに君がいてくれたから、まあいっか!
−−−−−−−−−−−−−−−− 一緒に帰ろう、が中々言えない山本くん。 『一歩』拍手ログ
20101106
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