「‥ボス」

「ん、‥‥あれ‥ごめん、俺寝てた?」

「うん‥ごめんなさい‥」




小さな声で謝って申し訳なさそうに顔を俯かせる部下に、ついつい苦笑いを浮かべる。きっと彼女は俺の睡眠の邪魔をしてしまったと思っているんだろう。居眠りしてしまっていただけだから、むしろ起こしてくれたことに感謝してるんだけど。




「いいよ。それよりクロームどうしたの?何かあった?」

「ボスにお手紙‥」

「手紙?」

「‥うん、届いてたから持ってきたの」




差し出された手紙を受け取ると、用事を済ませたクロームはすぐに部屋を出て行った。昔から変わらないその様子にまた苦笑いをしながら受け取った手紙の差出人に目を走らせた。




「‥!」




ああ、さっきの夢はこのことを予知していたんだろうか。

きっとこの手紙は俺だけじゃなくて隼人や武のところにも届いている。同窓会なんて。そんなものをやるほど大人になっていたのか、と今更ながら改めて実感する。

封筒の中には日時と場所が記された案内用紙と主催側からの簡単なメッセージ。久しぶりに会って皆で盛り上がろう、みたいな言葉が綴られている。

どうしようか。行ったほうがいいんだろうか。隼人や武が行くんだったら俺も‥‥いや、正直言うと彼女に会えるのなら行きたいのが本音。

彼女は、苗字さんはどうするんだろう。学生の頃あまり騒がしいのは好きじゃないって言っていたけど、同窓会なら話しは別なんだろうか?困ったな、そういうことちゃんと聞いとけばよかったな。




『沢田くん沢田くん、二人三脚のペア決まってないなら私と組もうよ。‥‥え?ああ、私男とか女とかそういうの気にしないんだよねー。まあさ、お互いビリにならないようにそれなりに走って、それなりの記録残そうよ。そうだなー、四位あたりなんてどう?』




良く言えばおおらかで自分をしっかり持ってる人間。悪く言えば全てにおいてやる気がない。いい加減でいつでもマイペースなようにも見えるけど、本当は周りに流されない強い意思を持ってる人だったから、何となく憧れもした。

例えるなら柳の葉のような彼女。強い風なんて気にせず、それどころか風に身を任せてしまうような。今日、夢に出てきた苗字さんのまま今も変わらずにいるんだろうか。それとももう変わってしまって俺の知っている苗字さんじゃなくなっていたり‥。




『私の進路?あー‥そういえば言ってなかったっけ。私、私立の女子校に進学するの。これでも進学校だよ。まあ、まぐれで推薦取れちゃったし、将来有利になるならそれもいいかなー、って。だから沢田くんと一緒にいられるのも今年が最後』




笑ってあっさり告げられた言葉。彼女らしいと言えば彼女らしいんだけど。別にこれという関係でもなかったのに、その時俺は自分でも信じられないくらい動揺した気がする。確か上手く話しが出来なくなって、適当に話しを切り上げると逃げるように離れた。

それっきりだ。避けていたのは、俺だ。何を恐れていたのか。一緒にいることは当たり前じゃなかったのに。当たり前のように感じていたのかもしれない。

結局そのまま話す機会が減って、最後に言葉を交わしたのは卒業式。




『卒業おめでとう、お互いに。沢田くんもちゃんと卒業できたんだねー、なんて言ったら獄寺くんあたりに怒鳴られそうだね。えーっと、ね‥沢田くんはさ、上手く言えないけど、やれば出来る人だと思うよ。きっと誰よりも大きくなる。だからさ、もっと自信持ちなよ。そういうほうが‥私は、好きだから』




夢や希望。真っ直ぐ歩いていける勇気。この世界で生きていく強い自信と力。‥そんなもの、俺は最初から持っていなかった。








(俺の憧れで)
(多分、好きな人)



今の俺は彼女の好きな俺になれているんだろうか?

その答えを聞いてみたくて出席の方に印をつけた




−−−−−−−−−−−−−−−
書いといてあれだけど……これ続くの?←
20100925