(※バレンタインログ)
この季節はいつも甘ったるい匂いが校内に広がって、カップルが大量発生する日なんだけど今日は珍しく日曜日で学校はお休み。昨日渡してる子もいたけど、バレンタインの当日が日曜日だと平日と比べてカップルの数は明らかに減る。
・・だけど私の目の前にいる男は違うみたい。
「すごい数だね・・」
「俺これを全部食べきる自信ない」
「食べ切れたら褒めてあげるよ」
「嬉しくないから」
はあ、と重たい溜息を吐く綱吉からは甘い匂いが漂っている。漂っている、どころじゃない。もう綱吉がチョコなんじゃいか、ってぐらい甘い匂いがする。っていうか部屋がチョコだ、チョコ。
いるだけで胸焼けしそう。換気して空気を入れ替えたいけど二月の寒い風は身体に堪えるから我慢。
「っていうかさ、今日学校休みなのに何で?」
「・・朝起きたらポストに詰まってて、入りきらないものは紙袋に入れて置いてあった・・」
「怖いよそれ」
「俺だって怖いよ」
大量の紙袋と大量の便箋・・というかラブレター。ああ、日曜日だからチョコではなくて恋文作戦の子もいるのか。最近の女の子はぬかりないな、まったく。
「紙袋じゃなくて、いっそダンボールで郵送してくればいいのにね」
「同じだろそれ、っていうかそっちのほうがやだよ」
「まあ綱吉だけじゃなくて今頃は獄寺や山本も同じ目にあってるからいいんじゃない?」
くすくす、笑いながらそう言うと綱吉はあからさまに顔を歪める。からかうつもりはなかったけど、やっぱりこの状況は面白い。
「なんかさ、これだけあると・・入ってそうじゃない?」
「何が?」
「チョコの中に、薬とか涙とか髪の毛とか」
「そういう怖いこと言うなよ!」
「食べれなくなるだろ!」と怒鳴る綱吉。・・結局全部食べてあげるんじゃん。優しいね綱吉くんは。これは女子達も頑張っちゃうわけだ。
あーあ、なんか不愉快。
「中学の時と比べたら今の方がいいんじゃない?」
「はあ?」
「一個も貰えないよりは貰えたほうがいいんじゃない、って言ってるの」
「・・」
小さいころはチョコを貰えない綱吉に私があげていたけど、今では私があげるまでもない。むしろ綱吉からすれば、ただでさえ多いチョコの量を増やされて迷惑になるだけ。だからあげない。
「世の中には昔の綱吉みたいに一個も貰えない男達がいるんだから」
「・・数じゃ、ないだろ」
「大量に貰ってる綱吉が言う台詞じゃないと思うよ?」
「俺は真面目に言ってるんだけど」
珍しく低い綱吉の声に読んでいた雑誌から顔をあげ、視線を向ける。いつも見ている顔なのに、そう真剣な目で見られるとこっちが動揺してしまう。
「・・な、何?」
「何でくれないの?」
「は?」
「名前、昔はくれたのに今はくれないだろ?」
「いいじゃん、私があげなくてもたくさん貰えるんだから」
私があげたところで、綱吉はもうたくさん貰ってるんだから。その他大勢のチョコと一緒に食べられるぐらいなら、あげない方がマシ。
「だから数じゃないって言ってるだろ」
「・・」
「欲しい奴から貰えないなら、こんな行事俺には必要ない」
綱吉の言葉は、今ここにあるチョコ全ての存在を否定する言葉。一ヶ月前から必死に練習して、ラッピングに悩んだ女子達の努力の結晶を否定する言葉なのに。その言葉を嬉しく思うなんて。ああ、頬が緩んでしまう。
ごそごそとポケットを漁り中にあった小さな物を掴むとそれを、緩む頬を誤魔化すように綱吉へと投げつけた。
「悪いけど持ち合わせそれしかないから」
「・・ああ、いいよこれで」
「足りなかったら他の食べてね」
「はいはい」
小さなハート
(小さくたって) (チョコはチョコ)
別に用意してたわけじゃないからね
はいはい
偶然ポケットにあっただけだから
名前って素直じゃないよな
・・・・・・
小さいころは素直で可愛かったのに
・・・・やっぱり返して
無理
−−−−−−−−−−−−−−− あれ?ツンデレた? ともかくハッピーバレンタイン!←
バレンタインログ。 20100214
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