(※新年ログ)


「どうしよう、着方わかんない・・!」



私は振袖というものを甘く見ていたのかもしれません。

浴衣を自分で着付けることができるといっても、所詮は浴衣。振袖が浴衣と同じようにいくわけがありません。




「どうしよう・・」




淡い藤色の振袖。私のために恭弥さんが用意してくれたもの。袖は通したけど着方がいまいち分からなくて、試行錯誤しているうちに襦袢もめちゃくちゃになってしまい、今ではただ素肌に羽織ってるだけの状態。




「ちゃんと着て練習すればよかった・・」




せっかく恭弥さんがくれたものを変に汚したくなくて、今日まで一度も袖を通していなかった自分が憎い。

一応勉強はしたつもりだった。本とか読んで着方は覚えたつもりでいたのに、いざ本番になった途端これだ。情けなくて笑えてしまう。




「名前、どうしたの?」

「きょ、恭弥さん・・!」




襖を一枚隔てた向こうから聞こえた声にバッと顔を上げる。慌てて身なりを正そうとするけど・・正すも何も羽織ってるだけなのだからどうしようもない。




「入るよ?」

「だ、だめです・・!」




開きかけた襖を瞬時に両手で押さえる。いま入ってこられては困る。裸同然のカッコだからというのもあるけど、それよりもせっかくの贈り物を満足に着れなかった自分が恥ずかしいから。




「名前?」

「あの・・い、今はだめです・・!」

「どうして?」

「そ、それは、その・・」




語尾がだんだんと小さくなる。言い訳が思いつかない。着れてない、と言いたいけれど私が準備を始めてからずいぶんと時間が経つ。普通ならとっくに着れているはずの時間。

しかも準備を始める前、恭弥さんに「ちゃんと着れるから大丈夫です」と言ってしまったのだ。


着方が分からない、なんて口が裂けても言えません・・!




「恭弥さん、あの、誰か・・女性の方はいませんか・・!?」

「大晦日は僕以外の人間は家に帰る決まりなの覚えてない?」

「・・!」




そうでした。大晦日や年越しになるとお手伝いの女性の方はみんな実家に帰ってしまうんだった。だから私を招いてくれたのをすっかり忘れていた。




「着方分からなくなった?」

「!そ、そそそ、そのようなことはないのですよ!私の準備は順調なのでございます!」

「分からなくなったんでしょ」

「・・はい」

「ほら開けて、手伝ってあげるから」




ぐっ、と再び力の入る襖を慌てて止める。




「だめです!今はだめです!いくら恭弥さんでもだめです!」

「入らないと手伝えないでしょ」

「だって・・!」




私いまほとんど裸なんです・・!

心の中で精一杯叫ぶけれど恭弥さんに届くはずもなく、襖を開けようとする力が強くなる。私も負けじと両手に力を入れる。




「ちょっと、ふざけてるの?」

「ふ、ふざけてないです!」

「じゃあ入れてよ」

「それは無理です・・!」

「どうして?」

「だって・・!」

「だって、何?」

「・・だ、だって!」

「はっきり言ってくれないと分からない。開けるよ」

「っ・・だって、私いまほとんど裸なんですよ!」




ああ、言ってしまった恥ずかしい。だけど見られるのはもっと恥ずかしい。

熱くなる頬を紛らわすように両手に力を入れれば、ふっと襖を開けようとする力が消えた。両手は襖に添えたまま、きょ、恭弥さん・・?と小声で問いかける。




「・・わかった」

「・・あ、あのですから部屋で待ってい、て」




そこまで言いかけて自分で言葉を遮る。

だってだって、だって!




「な、なんで開けようとしてるんですか!?」

「だって僕しか手伝える人いないでしょ?」




ぐぐぐ、とさっきよりも強い力が襖越しに感じられる。けれど負けるわけにはいかない、私も再び精一杯の力で襖を閉める。




「私の話し聞いてましたか!?」

「聞いてたよ」

「じゃあ開けようとしないでくださいぃ・・!」

「聞いてたから開けようとしてるんでしょ」

「それは聞いてないのと一緒です・・!」

「ほら、大丈夫だから」

「・・!」




だめ。この恭弥さんの声はだめです。優しげな声。年の初めからこんなにやさしい声を聞けるのは嬉しいけど、この状況でこの声はだめです。




「名前いい子だから」

「その優しげな声にいい予感がしません・・!」

「僕としてはいい予感がするけど」

「ぜ、絶対開けませんから・・!」








(今年初めの)
(大勝負)



いい加減あきらめたら?

いやです・・!



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雲雀さんが本気を出すか、襖が外れるか(結局開けられる)
今年もこんな感じでよろしくお願いします^^←

20100107