(※クリスマスログ)


ふわふわに焼けたスポンジ。甘さを抑えた生クリームを塗って、赤く熟れたイチゴを乗せる。最後に可愛らしいサンタさんの砂糖菓子を飾れば、はい完成。



「ルッスーリアさん、これどうですか?」

「あら、可愛いじゃない!」




名前がデコレーションの終えたケーキを楽しげに見せると、ルッスーリアもまたサングラスの奥で目を細め、同じように笑みを浮かべた。




「生クリームにあんまりお砂糖を入れてなかったのは、ボスのため?」

「はい、ザンザスさんって甘いのとか苦手そうじゃないですか」




女の子なら誰もが好むはずの甘いケーキ。なのに名前があまり砂糖を使っていないのはルッスーリアが隣で見ていてもよく分かったし、味見もさせてもらった。

ほんのり甘いと感じるぐらい。それぐらいの分量しか砂糖を使わずに作ったケーキは、他でもないザンザスのため。




「ザンザスさんが甘いもの食べてるところって、あんまり想像できなかったですし・・」

「確かにボスはお肉ばっかり食べてるものねえ」

「だけどせっかくのクリスマスなんで、こんなの飾っちゃいました」




ちょん、と名前が指をさした先にはサンタの砂糖菓子。あまり甘くないケーキの中で甘い塊であるそれは、なんだか存在感があるようにも見える。




「きっとボスも喜んでくれるわ!ほら、いってらっしゃい」

「え、ルッスーリアさんは?」

「私はこれを完成させなきゃいけないから、名前一人でいってらっしゃい!」




ルッスーリアの手元にあるケーキ。これでもか、というほどに砂糖が入った生クリームを使われていて、見ているだけで胸焼けしそうになる。食べさせられるのは、おそらくスクアーロたち。




「みんな、きっと喜んでくれると思いますよ!」

「あら、本当?」

「はい!」




根本的に甘いものが大好きな名前は、ルッスーリアの作るケーキになんの違和感も感じない。それどころか食べれる人が羨ましいとさえ思っている。

笑顔のまま「がんばってくださいね」と言い、作ったばかりのケーキを入れた箱とフォークを持つと、ルッスーリアに軽く会釈してキッチンを後にした。













コンコンッ




「あの、名前です」




落とさないように片手にケーキを持って扉をノックする。今日は外に出る仕事があるとは聞いていない名前は、中からの返答を待った。




「入れ」




静かに、低い声が中から響くと名前はパッと嬉しそうに顔を綻ばせて、扉に手をかけた。




「お、お邪魔しまーす・・あ、わわ・・!」




扉を開きながらケーキを落とさないように絶妙なバランスを取る。少し大きめに作りすぎただろうか、と小さな後悔。




「・・何してんだ、お前は」

「あ、ザンザスさん!」




名前の危なっかしい様を見ていられなかったのか、彼女の背に手を添えて支えるザンザス。そんな彼を見て名前は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。




「ケーキを作って来たんです、一緒に食べませんか?」

「俺は、」

「大丈夫です、ザンザスさんのために甘さ控えめですから!」




「さ、さ、こっちで食べましょう」と部屋のテーブルにケーキを置いて、せっせと準備をする名前にザンザスは何も言えず、ただ黙って向かい側のソファへと腰掛ける。

「がんばって作りました」と笑いかける名前にザンザスは、口元に僅かに笑みを浮かべた。




「このサンタさん可愛いと思いませんか?」

「そんなもん、ただの砂糖の塊だろ」




ケーキの上に乗ったサンタの砂糖菓子を見てザンザスは鼻で笑う。そんなザンザスに名前は拗ねたように唇を尖らせて「それはそうですけど・・」と呟いた。




「甘ぇのは無理だぞ」

「サンタさん以外はそんなに甘くないので大丈夫ですよ」

「どれ、」

「あ!」




名前がフォークを差し出すより前にザンザスはケーキへと手を伸ばすと、生クリームを指ですくうとペロリと舐め取ってしまった。




「ふん、甘ぇな」

「え、そんなはず・・!」




「ちゃんとルッスーリアさんにも味見してもらったのに!」と慌てだす名前を見てザンザスは何か思いついたように口元に笑みを浮かべる。




「名前」

「はい?」

「てめぇも食えば分かんだろ、おら」

「え・・あ、あの・・?」




すっ、と差し出されたザンザスの指。上には先ほどのように生クリームが乗っている。

指を見て、ザンザスを見て、を繰り返していたが、ようやく意味を理解したのか徐々に頬に赤みを帯びていく。そんな彼女を見て、ザンザスは「どうした?」と聞きながら指を動かす。

つまりそれは、舐めろということ。フォークからではなく、ザンザスの指から生クリームを食す、ということ。

もちろん、こんなことになるなんて予想もしていなかった名前は、どこか困ったように視線を彷徨わせる。




「名前」

「は、はい・・!」

「食え」

「あ、う・・」




絶対的なザンザスの声。こんな命令口調、普段は彼の部下しか聞くことがない声なのに。絶対的なその声とは裏腹に表情は至極楽しそうに笑みを浮かべている。

名前は赤くなった顔のまま「あー・・」とか「うー・・」唸ったあと観念したのか、恐る恐るザンザスの手に自分の手を添えて顔を近づけた。

チロリ、と覗く赤い舌が白い生クリームをすくい取る。ふと名前が顔を上げると、自分を見つめるザンザスと目が合い、急いで視線を伏せた。




「・・っん」




コクン、と小さく喉を鳴らして生クリームを飲み込んだ瞬間、名前はまたたく間にザンザスから離れた。




「お、終わりです・・!」

「おい、まだ残ってるぞ」

「知りません!」




ぎゅっ、と硬く目を閉じてそっぽを向いてしまった名前。頬だけではなく耳まで赤く染めあげた彼女を見てザンザスは楽しげに喉で笑うと、彼女が舐め切れなかった生クリームを自身の舌で舐め取った。

そのままケーキへと手を伸ばし、生クリームが付いたサンタの砂糖菓子を摘み上げると自身への口元へと運ぶ。




「甘かっただろ?」




パキン、と砂糖菓子をかじる音が部屋に響いた。


















(次作るときは)
(砂糖なんて使わない)





(ひしっ)



あら?名前、どうしたの?

・・・・。

昨日はボスにケーキ食べてもらえた?

・・・・。

なーに?ボスにいじめられたの?

・・・・生クリーム、舐めさせられました

なんですってえええええええ!!




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なまくりーむぷれ(やかましい)
クリスマスログ。
20091219