「…っきゃ!」
「お、っと!」
ドン、と身体に受けた衝撃。踏ん張ることが出来なくて、そのまま倒れかけた私を支えてくれた二本の腕。驚いて顔を上げると、そこには綺麗な金色の髪を太陽にキラキラ反射させたお兄さんでした。
・・・
学校から帰って、ただいまと声だけ上げると急いで階段を駆け上がり自室に入る。クローゼットから私服を取り出すと素早く制服から私服へと着替えを終えた。
今日、学校で出された宿題はグループでの調べ物。
私の班はツナくんたちと一緒で、他には獄寺君と山本君も居る。女子は私と京子ちゃんと花ちゃんで、仲の良い三人組同士が同じ班になれたことは単純に嬉しかった。
課題はなるべく早くやってしまおう。ということになり、放課後ツナくんの家に集まりみんなでやる事に。
私以外のみんなはそのままツナ君の家に行くらしい。私はというと、課題で使う資料が家にあったことを思い出し、一度自分の家に戻ってからツナくんの家に行くと伝えた。
急いで部屋に駆け上がったのは獄寺君に、あまり十代目をお待たせさせるんじゃねぇぞ、と言われたのもある。(ほとんど脅しだよね)
ツナ君は「俺の家、わかる?」と心配そうだったけど、前にも一回行ったことがあったから大丈夫だよ、と答えておいた。
出掛ける直前に、みんなお腹空くんじゃないかな?と思って家にあったお菓子を適当に選んで紙袋に入れた。
「行ってきます!」
と大きな声で言う。中からお母さんの、どこに行くのー?という声が聞こえて、ツナくんの家ー!と適当に答えて玄関のドアを閉めた。
ツナくんの家に向かう途中、コンビニに寄ってジュースを買おうか迷ったけど、準備に時間をかけ過ぎたせいか、思った以上に時間がかかっていたことに気付きジュースは諦めた。
腕時計をチラリと見ては、足が速くなる。この時間帯は周りにあまり人がいないから、人目を気にせず走ることができる。
私の家からツナくんの家まではそんなに遠くは無い。一回行った時に、お互いの家があまり遠くないことに驚いてツナくんと話した記憶がある。
少し走ればそんなに遅くならないはず。小走りだった足が自然に速くなる。
「あそこを曲がればすぐだ‥!」
慌てていたため、前方を確認せずに曲がり角を曲がった。
ドンッ
瞬間、身体に強い衝撃。人にぶつかってしまったと気付くのは案外早かった。
真正面から突っ込んでしまった私の腕をその人は軽く引っ張る。倒れかけた身体はお兄さんのお陰で、地面とこんにちはすることはなかった。
「わ、悪い‥!大丈夫か?」
「あ、あの‥すみません‥!」
お兄さんが謝ることじゃない。前方を確認せずに走っていた私が悪い。申し訳なくて頭を下げれば、金髪のお兄さんは気にすんな、と笑ってくれた。年上とは思えないような明るい笑顔に心がほっ、と和んだ。
外国の人かな?日本語が上手だな、なんてことを考えながら、ふ、とお兄さん以外の人の気配を感じて、肩越しに向こうを見た。
「‥っ」
黒いスーツに黒いネクタイを締めた数人の、どう見てもサラリーマンとは言い難い方々が目に入る。
少しだけ頬の筋肉が引き攣った感じがした。
そんな様子の私に気付いたのかお兄さんは、ん?と後ろに振り返ると今度は納得したように、ああ、と呟いた。
「お前ら顔が怖いって」
この子が困ってるだろー、とお兄さんは茶化すように後ろの人達に言ったけど、私は驚きというか、動揺を隠せない。
すると眼鏡をかけたスーツの人、なんていうか一番威厳のある人が、お兄さんに言葉を返す。
「ボスこそいつまで腕を掴んでるつもりだ?嬢ちゃんが困ってるぜ?」
ぼす?という慣れない単語が気になったけど、そういえば私の腕はお兄さんに掴まれたまま。
「あ、の‥?」
「わ、悪い‥!」
ぱっ、と私の腕からお兄さんが手を離す。
するとそんなお兄さんを笑うように、今度は別の黒いスーツの人が私に紙袋を差し出す。
「嬢ちゃんのだろ?落としたぜ」
「あ、すみません‥!」
慌てて受け取った紙袋。中には家から持ってきたお菓子が入っている。
拾ってくれたのかな?と相手のおじさんを見る。
厳つい見た目とは全然違くて、親切な人たちなんだなぁと思うと引き攣っていた頬が自然と緩み、ありがとうございます。と笑顔でお礼を言うことができた。
「おぉ、礼儀の正しい嬢ちゃんだなー」
「え?」
「おじさんたち、可愛いくて礼儀のある嬢ちゃんは好きだぞー」
「あ、の‥」
「いいよなー、こういう可愛くて純粋培養な女の子ー」
「え、え、あの‥」
「やめろ、お前ら!変態か!」
突然、可愛い可愛いと口々に言いながらおじさんたちに頭を撫でられ、どうすることもできなくて戸惑っていたら、金髪のお兄さんがおじさんたちの腕を払ってくれた。
「悪いな、変な奴らで」
「いえ、そんなことは‥」
ない、とはいえないのがちょっと悲しい。言葉をつまらせた私にお兄さんは苦笑い。
「急いでたんだろ、ごめんな」
お兄さんの言葉と同時に撫でられた頭。撫でたのは目の前のお兄さん。‥私の頭ってそんなに撫でやすいのかな?とぼんやり考えた。
「なんだよ、ボスだって撫でてるじゃねぇか」
「う、うるせぇ!」
そんな会話に微笑みながら、私は何の気なしに腕時計をチラリと見た。
「‥あ!!」
「ん?どうした?」
長針が恐ろしい時間をさしている。短針も時を刻み始めている。(やばい、獄寺君に殺される‥!)
あわあわと腕時計とお兄さんの顔を見比べる。きっと今、私の顔はすごく困惑した表情を浮かべていると思う。
「あ、あの‥!」
「そっか、急いでたんだよな!」
「ぶ、ぶつかっちゃって本当にすみませんでした‥!」
「いーって、いーって、気にすんな」
ニカッとお兄さんは笑うと「早く行きな」と笑いながら軽く手を振った。
そんなお兄さんにもう一度頭を下げると再び走り出した。なんだかすごく優しくて気のいい人たちだったな、と頬が緩んだ。
「あ‥!」
お兄さんの名前を聞き忘れた!と慌てて振り返った。当たり前だけどそこにはもうお兄さんの姿はない。
名前を聞くような出会いではないけれど、少し聞きたい気持ちがあった。残念のような、仕方ないような。そんな気持ちのまま再びツナくんの家へと足を早めた。
「名前ちゃん、いらっしゃい。ツっくんならお部屋よ」
「すみません、お邪魔します」
玄関でツナくんのお母さんと少しだけ言葉を交わすと、音を立てないように急いで階段を駆け上がった。
「お、遅れてごめんなさい!」
「遅ぇぞ、てめぇ!」
謝りながらツナくんの部屋に入ると、真っ先に飛んできたのは獄寺くんの怒声。覚悟はしていたけどやっぱり怖い‥!
ビクリと身体が震え持ってきた紙袋を盾にしながら、ごめんなさいごめんなさい!とひたすら謝る。山本君が、まーまー!と言って庇ってくれなかったら殺されていた気がする。
「着替えて来たんだぁ。名前ちゃんの私服、可愛いねー」
「あとはアンタの資料を使えば完成よ」
「二人ともごめんね‥!」
京子ちゃんと花ちゃんは笑って許してくれた。うん!獄寺くんと正反対!そんなことを考えていたらツナくんに名前を呼ばれて振り返った。
「名前ちゃん‥遅かったけどやっぱり家わからなかった?」
「ううん!ちょっと来るときに色々あって‥わからなかったわけじゃないよ」
「そっか、迷ったのかと思って心配だったんだよ」
「ごめんね、」
と、謝るとツナくんは大丈夫だよ。と笑って許してくれた。(やっぱり獄寺くんと正反対!)
「あれ?名前ちゃん、その紙袋は?」
京子ちゃんが紙袋を指差しながら首を傾げる。京子ちゃんに言われてさっき盾に使った紙袋を取った。
「あのねツナくん、これ私の家から持ってきたお菓子なんだけど、良かったらみんなで食べて!」
「え、お菓子‥!?」
ツナくんに、はい、紙袋を差し出せばツナくんは何やら少し焦った様子で言葉を濁している。
そんなに嫌いなお菓子ばかりだったのかな?と紙袋の中を覗く。いや、普通のお菓子だ。老若男女、誰でも食べれちゃうお菓子だ。
「さ、さっきディーノさんもお菓子を買いに行ってくれて‥」
「ディーノさん?」
「そろそろ戻ってくると思うんだけど‥」
誰のことだろう?ツナくんの知り合いの人の名前は何人も聞いてきたけど、今回のは初めて聞く名前だなー、と少しだけ首を傾げた時。
「ツナー!!菓子、買って来たぜー!!」
明るい声と共に、大人数で階段を上がる音が聞こえる。いま上がってきてる人がツナくんの知り合いかな?
「あ、あのね名前ちゃん、ディーノさんって言うのはね‥」
「うん?」
ツナくんが説明するよりも早くドアがガチャリと勢いよく開いた。
自然とそちらに目を向ければ綺麗な金色の髪をしたお兄さん。
「あ‥」
「あれ?」
偶然みたいな運命
(嘘みたい) (また逢えた)
さっきの嬢ちゃん礼儀が正しかったなー。
しかも可愛かったしな!
あんな子がボスの嫁になってくれると助かるんだがな。
お、おい、ロマーリオ何言って・・!
いや、ボスにはもったいねーよ!
そうだそうだ!
お、お前らなぁ!!
でも、実際気に入ったんだろう?
ロマーリオ・・!
おーボスが照れてる。
でも、あの嬢ちゃん結構年下だろ?
だよなー‥‥ボスにもそういう趣味があったか。
・・う、うるせぇ!さっさと菓子買いに行くぞ!!
−−−−−−−−−−−−−−− 個人的にディーノさんはベタが似合う人ナンバーわん!
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