「あ、山本君だ」


それは午後最初の授業、保健体育の時間。何気なく窓の外を見た時にふと目に入った山本君の姿に声を漏らした。

今日の体育は男子は外でサッカー。女子はクラスで保健の授業。

身体を動かす方が好きな私からすれば少し憂鬱だ。こういう時女子って不便だと思う。男子よりも学ばなきゃいけないことが沢山あるし、知っておかなきゃいけない事も多いから。


「え、なに?どこら辺にいるの?」

「……花、重い」


先生が職員室に忘れたプリントを取りに行っていて教室には女子だけ。ほとんどの子が好きなことをやっている。

それは私はもちろん、友達である花も一緒で、私の言葉に反応したのか花は私の頭にのしかかるようにして窓の外を眺めた。


「重いって失礼ねー!そこまで重くないわよ!」

「だって本当に重いんだもーん!」


からかう様に笑うと「なんですって!」といい軽く首を絞められるが、面白くてなんだか笑ってしまう。


「あはは、花ってば苦しいー!」

「じゃあ重いって言ったの撤回しなさい!」

「もう花、名前ちゃんが苦しがってるでしょー!」


パシパシと花の腕を叩けば横から笑いを含んだ京子の声。顔を向けてみれば京子は怒ったように腰に手を当てているけど、表情は京子らしい太陽のような笑顔で、私も笑い返した。


「それで名前ちゃん、どこに山本君がいるの?」

「ほら、右側のゴールの傍に立ってるよ」


ようやく花に開放されて、グラウンドを指さすと京子も窓から身を乗り出した。

あそこあそこ!と指をさす。サッカーゴールのすぐそばにジャージ姿で立っているのは間違いなく山本君。なのに京子も花も首を傾げて不思議そうな顔をする。


「もー!二人とも、あそこにいるじゃん!」

「いや、誰かいるのは分かるんだけど…あれ山本?」

「私も誰かいるのは見えるんだけど…」


こんなにハッキリ分かるのに、どうして二人にはわからないんだろう。と不思議に思いながら再びグラウンドに視線を戻すと、山本君が不意にこちらを見上げ、目が合った。


「あ、ほらほら!手振ってくれてる!」


手を振ってくれた山本君に私も嬉しくなって手を振り返す。すると横から「あ、山本君だね」「本当にいたんだ」と京子と花の声。

山本君が動くまで気付かないなんて、二人の視力はどれだけ悪いんだ!


「だからいるって言ったじゃん!」

「そう言われても、ねぇ?」


少し苦笑い気味な花が視線を京子に移すと京子も同じように苦笑い。二人の様子に、なに?と首を傾げれば京子が苦笑いのまま口を開いた。


「じゃあ名前ちゃん、そうだなー…あ!獄寺君は見つけられる?」

「え、獄寺君?」


何で獄寺君なんだろう?と思いながらも京子に言われるがまま再び視線をグラウンドへと移した。

えーっと、獄寺君は髪の色が銀色で目立ってるからすぐ分かるよね。…あの人は、違うし…この人も違う。あれ?……あれ?


「い、いない…」


今日、獄寺君は学校に登校しているし目立つ色をした髪の毛を探せばいいだけなのに、なかなか見つからなくて眉間に皺を寄せた。


「じゃあヒントね。アイツって普段、山本達と一緒にいなかったっけ?」

「あ、そっか!」


花の言葉に、もう一度視線を彷徨わす。そうだった、沢田君を含めたあの三人はいつも一緒にいるから、きっと今も獄寺くんは山本くんの近くにいるはず!

山本君はあそこにいるから、つまり、そばにいる……あ!


「いた!」


必死に探していた彼がようやく見つかって、その達成感のあまり指をさしてしまった。獄寺君があそこにいるってことは…じゃあ、あのハニーブラウンは沢田君かな?

そんなことを考えながら三人を見ていると、山本君が何か獄寺君に話しかけているのが見えてやっぱり仲良いな、なんて再認識した。


「つまり、そういうことよ」

「え?」


何の話しをしてるんだろう、と考えていたら、突然すべてを納得したような花の言葉に私はまた首を傾げた。

そんな私に花は少し呆れたように溜息を吐く。意味が分からずえ?え?と繰り返していると今度は京子が口を開いた。


「名前ちゃんの視線は山本君が中心、ってことだよ」

「特別な人はすぐに見つけられるっていうやつね」



君は特別
(特別だから)
(すぐに見つけられる)




京子と花の言葉にだんだんと頬に熱が帯びていくのを感じて、それを誤魔化すようにもう一度視線をグラウンドに向けた。


「あ、」


京子に言われて気付いたのは、山本君が周りにいる誰よりも、凄く鮮明に見えるということ。きっとどんなに人がいても彼の事ならすぐに見つけられるような、そんな気持ち。


「…っ!」


凝視しすぎたせいか、再び山本君と目が合ってしまった。なんだろう、さっき山本君に手を振られた時、こんなに心臓の音は早くなかったはずなのに。


「名前ー!!」


名前で呼ばれた事に対し驚くよりも前に熱くなる頬。隣から花と京子の笑い声が聞こえたから余計に熱かった。


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好きな人ってすぐ見つかるよね

2008.xx.xx
2015.10.27修正