やっぱ自分の誕生日って誰かに祝ってもらうとすっげー嬉しいんだよな。朝も親父に祝いの言葉をかけられて今日の晩飯は大トロだ!って良い顔して笑ってた。
ツナや獄寺からもプレゼントなんか貰っちまったのな。開けようとしたら帰ってから開けてくれ、って言われたからとりあえず鞄にしまっておいた。
でもなー。
色んなダチが祝ってくれるのは嬉しいんだけど、やっぱ一番祝って欲しい奴からの言葉が欲しいんだよな。
あー・・今の俺すっげーわがままかもしんねーけどさ。
苗字、俺の誕生日知ってんのかな?おめでとう、って言葉聞きてぇなー。
「山本君、お誕生日おめでとー!」
「はい、これプレゼント!」
「ちょっと、ズルい!山本君、私からもプレゼント!」
休憩時間になる度に俺のところに集まってくる女子達。それぞれの手にはピンクや水色などの色鮮やかな包みがあって、それは全部俺の手の中へと渡される。
「お、サンキューな!」
そう言って笑ったら女子達の勢いがさっきより凄くなった。ちょっと恐い。
学校に来た時も下駄箱に入りきらないぐらいのプレゼントが詰め込まれていたし、クラスに来てみれば机の中や上にも山のようにプレゼントが置かれていた。
「山本、相変わらずモテるね」
「けっ、こんな奴のどこが良いんだか」
「朝の段階でこれなんだから・・帰りはもっと凄くなるかもね」
苦笑い気味なツナと、相変わらずな獄寺の言葉。
つか、獄寺。お前も俺にプレゼント渡してるだろうが。それなのに「こんな奴」って酷くね?
「何か袋とか持ってきてる?」
「袋?」
ツナの言葉に首を傾げた。袋なんて持ってきてねーし必要も無いだろ?
「山本このプレゼントの山をどうやって持って帰るつもり?」
「あ、」
言われて気付いたってのもちょっと情けないかもしんねーけど、帰りの事なんて考えてなかった。
「ま、なんとかなるんじゃね?」
「俺は手伝わねーからな」
「うわ、ひでぇ」
俺がそう不満を漏らせば獄寺に軽く睨まれた。(こえー)
まぁ、荷物はすげー事になりそうだけど持って帰れない量じゃねぇし何とかなるだろ!
自分の机を見れば相変わらず山のように積み上げられたプレゼント達。中には手作りのケーキとかもあった。嬉しいっちゃ嬉しいんだけどこの量を一人で食うのは少し無理がある。
リストバンドとかをくれた子も居たんだけど、沢山あっても仕方ねーしなー。
それに、何より。
「はぁ、」
「山本どうかした?」
「いや、別になんでもねーよ」
一番祝って欲しい奴からまだ祝ってもらってない。
ふと苗字の席を見れば今日はまだ学校に来てないらしい。普段、野球部の朝練とかで早い時間に苗字が学校に来てるのはよく見かけてたんだけどなー。
今日に限って来てないとか、ちょっと凹むっつーか何つーか。
いや俺の一方的な片想いだけど、好きだからこそ祝って欲しい俺の男心。
「山本ちょっと元気ない?」
「おい、テメェ!十代目に心配かけてんじゃねぇよ!」
「あー、悪ぃ」
ふぅ、と溜息を付いて苦笑いをすれば一層不機嫌になる獄寺。そんな獄寺に構ってやれるほど余裕の無い俺。
余裕というより、いつ来るんだろうか?なんてそわそわする感じ。
あー、とりあえず早く来てくんねーかなー。
「あ、そうだ」
「どうかした?」
「悪ぃ!笹川の所に行ってくるわ!」
ツナと獄寺にそう言って笹川の席へと駆け出す俺。苗字と笹川って仲が良いから、ひょっとしたら何か知ってるかもしんねー。
おぉ!俺って頭良い!
「笹川!」
「あ、山本君。お誕生日おめでとう」
「おぅ!サンキュー」
話しかければ今日はもう何回も聞いた祝いの言葉。
誕生日を教えた覚えは無いのにこうやって祝ってくれる所とかが男子から人気なんだろうな、とボンヤリ考えた。
「なぁ、苗字ってまだ来てねーの?」
「名前ちゃん?えっと、まだ来てないみたいだけど…休むって連絡は聞いてないよ?」
「そっかー」
「きっと、そろそろ来るよ。名前ちゃんにお祝いしてもらえると良いね!」
「っ、」
笑みを含んだ笹川の言葉に心臓が飛び跳ねた。
ばれてる。笹川はどうやら俺の気持ちに気付いているみたいだ。女って鋭いのな。
そんな事を考えながら少し言葉を交わしたあと笹川から離れた。笹川はそろそろ来るって言ってたけど、あと少しで先生来ちまうんだよな。
マジで苗字が今日休みとかだったら俺立ち直れないかも。ずん、と沈みそうになる気持ちをなんとか持ち上げようとした時だった。
「やっと、着いたー・・!」
ガラリと開いた教室のドアと膝に手をついて息を整える苗字の姿。一瞬、先生が来たのかと本気で焦った。
「名前ちゃん、おはよー。」
「あ、おはようー」
「今日遅かったけど何かあった?」
「あー・・うん、ちょっとね」
苦笑い気味で友人と話している苗字を少し離れた位置で眺めている俺。
さっきまで今日、学校に来るかどうかで落ち着かなかったのに、いざ苗字の姿を見たら今度はどうすればいいのか分からなくなった
あー、ダメだ。俺って相当苗字のことが好きみたいだ。
「あ、」
「ん?」
好きだなー、話しかけたいなー、でも話しかけたらプレゼント催促してるみたいだよなー、でも挨拶だけならいいかなー、なんてぐるぐると考えていたら苗字と目が合って、笹川の時とは別の意味で俺の心臓が跳ねた。
「山本君、おはよう!」
その声と共に俺のほうに向かって歩いてくる苗字。別に初めて話したわけじゃないのに心臓の音が異常にうるさい。
たぶん今日だからこそこんなに心臓がうるさいんだ。
「よいしょっ」
可愛らしい掛け声と共に名前が引きずるように持ってきたのは青い色をした大きな紙袋。
「大丈夫か?」
「あ、うん。ありがとう」
心配になって駆け寄れば笑顔でお礼を言う苗字に俺も自然と頬が緩んだ。
「あのね山本君、」
「ん?」
「えっと、お誕生日おめでとう、ございます」
「あ、ありがとうございます」
そう言ってなぜか頭を下げる苗字に、俺も反射的に頭を下げてしまう。
「あとこれね、プレゼントなんだけど・・よいしょっ」
再び可愛らしい掛け声と共に俺に差し出された青い紙袋。何かと受け取ってみれば手に尋常じゃないほどの重み。反動で紙袋を下に降ろしたと同時に俺もその場にしゃがみ込んだ。
「あ、ごめんね!やっぱり重かったよね・・!」
そう言って俺と視線を合わせるようにしゃがむ苗字。大丈夫、と声を返しながら俺は袋の中を覗き込んだ。
「なあ苗字これって・・」
「あ、あのね!山本君って沢山の子からプレゼント貰ってるでしょ?」
紙袋の中身を確認してから声を出せば苗字も焦ったように話し出した。
「それで私、何をあげれば良いのか分からなくなって・・でも何かお祝いしてあげたくて・・!」
「・・」
「でもでも誰かと一緒の物をあげるのは、何か良く分からないんだけど嫌で・・!」
「ぷっ」
しばらくボケッと聞いてたけど、苗字の必死な弁解につい噴出してしまった。
それもそうだ。だって青い紙袋の中には2リットルのスポーツドリンクが6本も入っていたから。
予想外すぎるプレゼントについ笑いが零れてしまった。
「サンキューな!」
プレゼントも嬉しかったけど、苗字の細い腕でこのやたら重い紙袋をここまで持ってきたのかなー、何て考えたら苗字が可愛くて仕方なかった。
「あのね普段、山本君が朝とか練習頑張ってるの見てたから役に立つものをあげたかったんだ」
ふんわり、と笑う苗字。確かにスポーツドリンクは運動部の俺には欠かせないものだ。
「でもリストバンドとかは山本君持ってるだろうし、野球の道具とかも私にはよく分からなくて」
「こんなものでゴメンね」と苦笑いで言う苗字に、つい手を伸ばしてしまった。
「こんなものじゃねーって!苗字が祝ってくれただけでもすっげー嬉しいから!」
そう言って苗字の頭を二、三回撫でると苗字の顔が赤くなってそのまま下を向いてしまった。
「苗字?」
「あの、えっと・・」
「ん?」
どうかしたのか、と顔を覗き込もうとしたら苗字が突然顔を上げて、すごく近距離に顔があった。
あ、また赤くなった。何て思う俺も顔が熱い。きっと二人して真っ赤になってるんだろうな。
「あ、改めて、お誕生日おめでとう山本君」
「あー・・なんか今までで、一番の誕生日かも」
そう呟くと苗字は驚いた顔をした後、にっこりと頬を緩めて「一番って、スポーツドリンクだよ?」と言って笑った。
君からが何より一番
(どんなものでも) (君からなら)
とりあえずこの大量のスポーツドリンクは全部俺が飲ませていただきます。
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