「一緒に旅に出ようか」

「行ってらっしゃい」

「ツナ酷い」




そこは、仕方ないな付き合ってやるぜ!一切れのパンとナイフとランプをカバンに詰め込んでさあ出かけよう!でしょ!それをこんな可愛い女の子を一人旅させるなんてツナ酷い!と、ベットの上で騒いでみるけどツナは私のほうなんか見ずに雑誌をパラパラ。

だってだって勇者が仲間と一緒に旅をしてお姫様を助ける、なんて誰もが憧れる物語じゃないか!




「男の子なんだから旅立たなきゃ!」

「どこに?」

「わ、分かんないけど‥」




明確な場所が見つからず、語尾が小さくなる私をツナは鼻で笑う。このちょっとした屈辱感はなんだろうか。‥そうですよね、こんな狭い地球だから旅できるような場所なんてないですよねー!でもいいじゃない!マサラタウンにさよならバイバイしたって!ふんっ!

悔し紛れに抱きしめていたクッションをツナに投げつけるけど簡単にキャッチ。そのまま投げ返されたクッションを顔面でキャッチする私。‥くそう、とクッションを抱えなおした。




「名前は今がつまんないの?」

「え?」

「彼氏の部屋ですごす時間が不満?」

「ふ、不満はないけど‥」

「ならいいだろ?」

「むー‥」




こうやってツナと過ごす時間に不満があるわけじゃないんだけど、なんていうかもっと刺激的な、木の棒で魔王に挑んでしまうような刺激がほしい。‥あ、木の棒じゃ刺激どころじゃないか。




「ドラゴンとかいないかなー‥」

「いるわけないだろ」

「モンスターとか」

「ないない」

「‥もう一人旅にでも行こうかな」




どこでもいいから電車とかで色んなところに行ってみたいよ、そこまで行った瞬間、ツナが雑誌から顔を上げて私を見た。真っ直ぐな視線。ちょっとだけドキンとする。

手に持っていた雑誌を放り投げて、私のいるベットに上がるツナを、どうしたの?と見上げる私。ギシ、という音と近くなる距離になんだか頬が熱くなる。




「これ邪魔」

「あ‥」




抱えていたクッションを奪われ適当に放られる。綺麗に放物線を描いて飛んでいくクッションを名残惜しく目で追えば、グラリといきなり景色が変わる。

倒れる身体。反射的に閉じた目。頭はぶつかることなく、ぽふんとベットに衝撃を持っていかれた。




「よし、」

「え‥な、なに?」




意味が分からず見上げるそこには、満足げに微笑むツナの顔。・・微笑む、という表現には遠い。ニヤリ、という効果音がぴったりだと思う。




「名前は旅はできないよ」

「な、なんで?」

「お姫様は魔王にさらわれるから」




ギシ、と顔の横にツナの腕。動いたら触れてしまいそうな距離。普段だったら恥ずかしくて顔が熱くなってしまう状況。なのに私の頭は一つの疑問に、あれ?と気付いてしまった。




「ツナが魔王で、私がお姫様‥?」

「‥なんだよ?」

「それだと、勇者が必要になっちゃうよ?」

「は?」




少し離れたツナの顔。表情がちょっと怖い。‥私もしかして空気読めてなかった?でも間違ったこと言ってないよね。

お姫様をさらった魔王を倒すために現れる勇者。勇者は魔王を倒して、お姫様と結ばれる、っていうのが当たり前の物語なんだけど。




「ツナが魔王だったら‥私は勇者と結ばれちゃう、ね」

「‥」

「なんて‥あ、あはは‥」

「‥勇者って誰だよ」




声ひっく!!

まあ、それは私も気になるところなんだけど。私としては勇者はツナがいいな、とは自分で自分を魔王と名乗ってしまった彼にそんなこと言えるわけもなく。難しい顔をしてしまったツナを下から見つめることしか出来ない。




「あの、ツナ‥?」

「もういっそ、勇者なんていらないだろ」

「それ根本的な崩壊‥!」

「だったら」




勇者魔王もすべて

(捕らえるのも助けるのも)
(すべて俺)





えー!そんな滅茶苦茶な!

なに?助けに来てほしいやつでもいるの?

そ、そうじゃないけど‥

なら文句ないだろ?

‥私、結局旅できないじゃん

いいんだよ、名前は旅なんかしないで俺といれば

‥!



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勇者なツナはともかく、
魔王なツナはとても恐ろしい←
20091120