雲雀『観点を変えてみる』の続きのようなもの
あまりにも当たり前の光景になりすぎて、普通なら気付かないかもしれない。
だけど少しだけ視点や発想を換えると、見えなかったものが見えてきたりもする。
表からしか見ていなかったものを裏から見る。そうすることによって新しく見えてくるものもある。
それは案外、今まで見てきたものより良いものになっているかもしれない。
「‥あ?」
「獄寺くん、どうしたの?」
「いや、なんでもないっす‥!」
そう?と首を傾げる十代目に曖昧な笑みを浮かべて視線を戻す。
教壇の机に置かれている小さめの花瓶。ずっと置かれていたものだから、その存在に注目する奴なんていない。だけどその花瓶が教室にないと、今度は不思議と気になってくる。
視線だけキョロキョロと彷徨わせて花瓶を探していたら、女子が一人。花瓶と少しの花束を抱えて戻ってきた。制服の袖は肘まで上げられていて手は少しだけ泥で汚れてる。
「苗字‥?」
同じクラスの奴。それ以上でもそれ以下でもない彼女。友達と呼ぶには遠く、他人と呼ぶには近い関係。
気付いたら足が彼女へと向かう。十代目の俺を呼ぶ声が聞こえるけど、心の中で謝罪をする。
「苗字」
「はい?‥あ、獄寺くん」
振り返り、にこりと微笑む彼女の手の中には少しだけ枯れかけた花が咲いてる。
「それ、どうしたんだ?」
「用務員のおじさんが持っていっても良いよ、って言うから」
「枯れかけたのを?」
「枯れかけたのを」
今日はたくさん持ってきちゃった、と笑う彼女の手の中には確かに色とりどりの花。どれも枯れかけているが。
「獄寺くんこそどうしたの?」
「あ?」
「私に話しかけてくるなんて珍しいな、って」
「そうか?」
「そうだよ」
今日はいろんな人に話しかけられるなー、と笑う苗字。人がいいというか、騙されやすそうというか、ボケてるというか。そんな笑みを浮かべている。
「お前って何もないところでこけるだろ」
「失礼な、こけませんよ」
「そうか?」
「そうだよ」
さっきと同じような会話に苗字は楽しそうにクスクスと笑う。そんな彼女を見て自然と俺の頬も緩んでいく。
「花瓶が、な」
「花瓶って‥これ?」
「ああ、いつもある所になかったから気になってな」
そっか苗字が持って行ってたのか、と水の張った花瓶を見る。ああそういえばこの花瓶って色んな花が飾られてたな。そんなことにすら気付かないぐらい、この花瓶は影が薄い。いや、薄いと言うより俺が見ていなかっただけかもしれない。
「枯れかけのお花も、こうやって飾ると綺麗だなって思わない?」
「‥まあ、そうだな」
「枯れちゃう前に最後に一花咲かせてあげようと思って」
「花だけに一花、なんちゃってー」とくだらないギャグを飛ばす苗字に呆れた顔をしてみせると、何が楽しいのかクスクスと笑った。
「でも、そっかー」
「なんだよ?」
「獄寺くんが花瓶と花の存在に気付いてくれたのが嬉しくって」
ありがとね、と意味の分からないお礼を言われて顔が熱くなる。
な、な、な・・!と意味不明な言葉がこぼれる俺を苗字は気に留めず、持ってきた花を花瓶に挿していく。
手で口元を覆って、熱い顔を誤魔化すように眉間に皺を寄せる。早く冷めやがれ!なんて心の中で一人叫んでみたがあまり効果がなかった。
「ねえ、獄寺くん」
「な、なんだよ?」
名前を呼ばれ、熱い顔を何とか冷ましてから苗字へと視線を向ける。彼女の手の中には枯れかけた赤い花。
「これ獄寺くんみたいだね!」
「・・俺は枯れかけ、ってか」
「え・・え!?違うよ!色だよ、色!」
慌てて否定する苗字に、冗談だ、と言うと安心したように息をつく。
「赤って俺っぽいか?」
「うん、なんかそんなイメージ」
「そっか」
と少しだけ微笑むと、苗字は嬉しそうに笑みを浮かべ手に持っていた赤い花を花瓶へと挿した。普通の赤い花が苗字の言葉のせいでなんだか愛着がわいてくる。
そっか、そういう見方もあるんだな。
思いも付かなかった発想。彼女に言われることで当たり前だったことが少し違って見えた。
「いいもんだな、枯れかけの花ってのも」
俺がそう呟いたら苗字は嬉しそうに照れくさそうに微笑んだ。
その笑顔がさっきまで見せていた笑顔よりも、なんだか可愛く見えた。
視点をかえてみる
(じゃあこのピンクの花はお前な) (とは絶対に言えねえ)
あまりにも当たり前だった光景
言われないと気付かないような光景が
見方を変えることでさっきよりもずっと綺麗に見えるなら
色んな方向から見るのも良いと思う
−−−−−−−−−−−−−−− 獄寺は天然にとことん振り回されると思う^^ 視点をかえる=見方、発想をかえる
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